※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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続きです~。
エロシーンはありません。


立城と優一郎の会合とラベンダー 2

 確かに不思議だね。立城はそっと呟いて花に笑みかけた。立城の姿と同様にこの花もずっと昔から変わっていないのだろう。そして花の贈り主はいつかこの花を立城が目にすることを知っていたのだ。

 

「はいよ。吉良瀬くんの好きなのもおまけしておいたからね」

「いつもありがとう。じゃあ、またくるね」

 

 支払いを済ませてから立城は静かに店を出た。深々と一礼した桜が車のドアを開ける。立城は車に乗り込んでから店を見やった。老婆が店先に出てきて手を振っている。立城は微笑を浮かべて老婆に手を振り返した。

 

 車が滑らかに走り出す。ふと気になって立城は包みをそっと開けてみた。中には頼んだ菓子とは別に茶色の袋が入っている。何だろう。そう呟きながら立城は袋を取り上げた。口を開いて覗き込む。

 

「懐かしいなあ」

 

 袋に入っていたのは色とりどりの金平糖だった。桃色や水色に淡く着色された砂糖菓子を立城はそっとつまみあげた。学校に通っていた頃、彼女がよく持ってきては分けてくれたものだ。立城はくすくすと笑いながら一つ、口の中に放り込んだ。甘味が口いっぱいに広がる。

 

 やがて車が屋敷に辿り着く。立城は菓子の包みを桜に託して執務室に向かった。着ていたコートを使い魔の一人に預けてドアを開ける。見るとソファで優一郎が静かに眠っていた。音を立てないように気をつけつつ立城は部屋に入った。背後に控えていた使い魔の紅梅を振り返る。

 

 彼はどうしたの。声に出さずに立城は唇だけでそう言葉を刻んだ。すると紅梅が深々と頭を垂れてから唇を動かす。

 

 お身体の調子が思わしくなさそうでしたので、お休みしていただきました。紅梅の唇を読んでから立城はなるほど、と頷いた。確かに優一郎は酷い二日酔いになっていたようだ。だが今は顔色もすっかり良くなっている。

 

「じゃあ、そろそろ大丈夫だね。お茶を運んでくれる?」

 

 立城は小さな声でそう告げた。すると紅梅がはい、と返答して部屋を後にする。声を聞いたのだろう。ソファに横たわっていた優一郎が微かに瞼を開ける。立城はそっと向かい側に回って優一郎に笑みかけた。

 

「気分はどうかな?」

 

 言いながら立城は抱えていた書類をテーブルに乗せた。斎姫の成績や出席状況に関する情報だ、と担任に渡された書類だ。優一郎は瞼を擦りながら身体を起こし、丁寧に立城に頭を下げた。

 

「ご招待ありがとうございます」

「悪かったね。人の目があったから強引に運んでしまったよ」

 

 そっと手を伸ばして立城は優一郎の肩を軽く払った。肩に乗っていた小さな花がひらひらと床に落ちる。優一郎は不思議そうに床に落ちた花を目で追いかけた。

 

「申し訳ありませんでした。どうしてもご相談したいことがあったので」

 

 立城は優一郎の肩に乗っていたラベンダーを指につまんで苦笑した。いいよ、と呟く。ラベンダーには鎮静効果がある。きっと紅梅が優一郎の体調に気を遣って花を通じて術をかけたのだろう。そっとテーブルに小さな花を乗せて立城はソファに寄りかかった。

 

「葵、だっけ? どうしてまたそんな名前に行き着いたの?」

 

 微笑みながら優一郎に問い掛ける。優一郎は僅かに表情を曇らせてから瞬き一つで元の顔つきに戻った。どうやら二日酔いは完全に抜けきったようだ。

 

「行き着いたも何も、本人がそう名乗ってらっしゃいましたから」

 

 言われている意味がよく判らない。その思惟が流れてくる。ああ、と苦笑して立城はふと振り返った。タイミングよくドアが開いて桜が現れる。桜は静かに寄ってくると、手にしていたティセットをテーブルに置いた。小皿に乗った菓子を優一郎と立城の前に据える。入ってきた時と同様に桜は静かに部屋を出て行った。

 

「日本茶は好きかな?」

 

 そう告げてから立城は湯飲みに茶を注ぎ分けた。軽く頷いた優一郎に立城も頷き返した。皿に乗っているのは先ほど立城が買い付けた和菓子だ。冬の雪を表しているのだろう。その菓子は白く細い餡に包まれている。二人の前に置かれたその菓子とは別に小さな硝子の器には先ほどの金平糖も盛られている。

 

「本人……か。なるほど、誰かがその名前を使っているんだね?」

「ということはその人物は、立城さんの知るある人物の名を騙ったと、そういうわけですか?」

 

 湯飲みに口をつけようとしていた優一郎が顔を上げてそう訊ねる。立城は片手に湯飲みを取って小さく笑った。説明されなくてもある程度のことは理解している。恐らく彼は意図的にその名前を利用したのだ。

 

「多分ね。わざとだろうけれど……相変わらず無茶をする人だよ」

 

 そう呟いてから立城は金平糖を一つ、口に放り込んだ。驚いたように優一郎が目を見張る。なるほどね、と続けてから立城は茶を一口すすった。

 

「騙った人物も、ご存知なんですね?」

 

 試すように優一郎が言葉を口に乗せる。意図しているつもりは多分ないのだろう。が、その言葉には以前よりもっと強い力が働いている。立城は苦笑して軽く手を振った。向かってこようとしていた力が宙で霧散する。何をしているのかをはっきりと目で捉えることは出来なかったのだろう。優一郎が怪訝そうに眉を寄せる。




葵の正体についてのお話です。
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