思ってることが乖離しすぎてるんですよね……。
エロシーンはありません。
「知っているよ。というか、僕が知っていることを知っていて訊いていないかい? 君は」
和菓子の乗った皿を引き寄せる。添えられた小さなフォークで菓子をある程度に切り分けて口に運ぶ。そこで立城は目だけを上げた。優一郎は複雑な面持ちをしていたが、すぐにその表情が微笑みに変わる。
「それではお願いがあります。その人物との交渉を仲介していただけないでしょうか?」
「構わないけれど……そうだな。こちらの条件を二、三飲んでもらえないかな」
即座に立城はそう切り返した。すると優一郎が口を噤む。力が外に漏れていない間の優一郎の思惟はぴったりと内側で閉じられてしまっている。どうやら無意識に思惟の周辺に防壁を築くことを覚えているようだ。声に出さずに感心しつつ、立城は優一郎を見つめた。茶を啜りながら答えを待つ。しばし間の後に優一郎は告げた。
「どのような条件でしょうか?」
そう問いながら優一郎も菓子の皿を引き寄せた。立城はその手元を見つめておや、と内心で呟いた。以前とは優一郎の手つきが違う。いや、手つきそのものに変化はない。意外と用心深くなっているのか、優一郎は口に入れる前に菓子の構成を手から読んでいるのだ。きっと無意識なのだろうが、その様子を見て立城は感心することしきりだった。
随分と短い間に色んなことを覚えたみたいだね。声にせずに心の奥でそう呟く。その原因は恐らく多輝だろう。だが両者の間に具体的にどんな経緯があるのかを立城は知らない。目を細めてから立城はにっこりと笑ってみせた。
「そうだね。そろそろ斎姫さんの休学届けを出そうと思うんだけれど、それについての君を意見をまず聞かせてくれる?」
何もせずに休み続けているのもまずいでしょ。そう続けて立城は優一郎を伺うように見た。優一郎が菓子を切り分ける手を止めてしばし考え込む。
「休学の必要はないと思います」
そのためにこうして動いてるんですから。囁くように告げて優一郎が唇を引き結ぶ。それが条件なのか、と目で問われて立城は苦笑した。
「そう、これが一つ目の条件。君の思う通りにしておくよ。斎姫さんは病欠しているということでいいかな? 必要ならこちらで診断書も用意するし」
「ありがとうございます」
真面目な面持ちで優一郎が頭を下げる。いいよ、と笑って立城は茶をすすった。新しく湯飲みに茶を注いで手にとる。湯気ののぼる茶の表面に細い息を吹きかけてから、立城は指を立ててみせた。
「次はね。多輝のことなんだけれど」
立城がそう切り出すと優一郎がぴくりと眉を上げた。湯飲みを持つ手を下ろして膝に乗せる。のんびりと茶を啜りながら立城は視線を優一郎の向こうに飛ばした。窓の外は曇っている。
「僕はあの子と君の関係を実はよく知らないんだ。未だに隠された事実というものがあってね。当時、戦いに参加した龍神たちの多くは散っているし」
強制的に記憶を読める相手には限りがある。それに読むには相手がその事実を正確に把握している必要がある。が、立城が思うような条件の揃った龍神は今のところはいない。誰がどう戦いに参加し、関わっていたのかを立城は未だに知り得ていないのだ。
「僕も、あまり良くは理解できなかったんですが、昔、彼女は僕の保護者だったみたいです」
「へえ」
そう答えて立城は注意深く優一郎を見た。事実、優一郎にはそれ以上のことは判っていないのだろう。嘘を吐いている様子はない。が、それだけではないのは間違いない。そうでなければ多輝があれほどに優一郎を求めることはなかっただろう。本来の計画ではその位置にいるべきなのは立城だったのだ。
天に唐突に放り出すのは危険すぎる。かと言ってこれ以上、ごまかし続けることも難しい。立城は口許に手を当ててじっと考え込んだ。
「一つ、賭けをしない?」
そう言ってから立城は手にしていた湯飲みをテーブルに戻した。膝の上で手を組み合わせてにっこりと笑みかける。優一郎は不思議そうに首を傾げて呟いた。
「賭け、ですか?」
「そう。賭けだよ。君はまだ多輝との経緯の全容を知らないようだ。僕もその点には酷く興味がある。君が賭けに勝てば無条件で僕の知る情報が手に入る。僕が勝てば君の魂の持つ情報を知ることが出来る」
これはゲームだよ。そう笑って立城はテーブルに乗ったラベンダーの花をつまみあげた。手のひらに乗せてもラベンダーの乾いた花は重みが殆どない。吹けば簡単に飛んでいってしまうだろう。今日はつくづく、この花に縁があるね。そう内心で呟いてから立城は目を上げた。
「まず、ルールを聞きましょうか?」
気乗りしない調子で優一郎が訊ねる。立城は苦笑して花をテーブルに戻した。その手で湯飲みを取り上げる。勝っても負けてもお互いにそれほど大きな利にはならないと踏んでいるのだろう。確かにゲームの内容としては面白くないかもね。そう呟いてから立城は優一郎をじっと見つめた。
立城の悪ふざけ、ともとれるやり取りですが、実はけっこー切羽詰まってたりします。