※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

122 / 262
相変わらずかみ合わない会話w
エロシーンはありません。


立城と優一郎の会合とラベンダー 5

「ううん。フェアじゃないと思っただけだよ」

 

 明らかに僕が不利なんだけれどね。立城はそう心の中で付け足した。優一郎は決して意図的に力を放出してはいない。驚くほど無意識だ。なのに少し触れただけでこれだけの疲労感を覚えてしまう。それが恐らく龍神と誓約者との動かしがたい関係だ。

 

 誓約者が世界にひろがったあの時、木龍神はいなかった。厳密に言えば眠りに就いていたわけだが、そのことで木龍神の記憶はかなりの部分で欠落している。その間に活躍したのが水輝を始めとする龍神だ。そして誓約者の多くを龍神たちは殺した。それが天の龍神と呼ばれる天輝の命だった。

 

「別に遠慮なさらなくても」

 

 痛いのってまずいのかな。ぼやくように優一郎が付け足す。立城はやれやれと肩を竦めて優一郎を指差した。

 

「はっきり言おうか?」

 

 天の龍神、天輝は何を思ってそんなことを命じたのか。今となってはもう理由を知る術はない。天輝は滅びてしまっているのだ。その意図したところを多少なりとも知っているのは恐らく翠龍神だけだ。だがその翠は龍神の中では一番に食えない相手だ。立城は口許に微かな笑みを浮かべて首を傾げてみせた。何を言われているのか意味が判らないのだろうか。優一郎は怪訝そうな顔をしている。

 

 戸惑いながらも優一郎が小さく頷く。立城は深い笑みを刻んで告げた。

 

「君は自分を知らなさ過ぎる。それは龍神でないという理由からじゃない。知りたくないと心のどこかで思っているからだ。君は以前、何も知らないと言っていたけれど、それは本当ではないよ」

 

 優一郎は黙っている。唇を引き結んで顔を強張らせている優一郎に立城は笑みを向けた。その笑みは自分でも意図しないうちに嗤いに取って代わる。

 

「誓約者と呼ばれる彼らに引き継がれているのは、本来紫翠龍と呼ばれた者が携えていた力だ。そしてそれだけが僕に足りない力とも言える」

 

 その力があれば。もっと違った未来を見ることが出来た。足りない以上は別の何かで補うしかなかった。ないものねだりと知りながらも、その力さえあればと願ったことが何度あっただろう。立城はゆらりとその場に立ち上がった。無意識のうちに笑みが消える。

 

「つまり紫と翠に分かたれたということですか?」

 

 淡々と優一郎が告げる。見上げられた立城は鋭い眼差しで優一郎を見た。

 

「そう。それが今の僕の本質だ。言っただろう? 君は本当は知ることが出来る。今の君は自分の内側に抱える膨大な情報に手もつけず、目の前にあることだけしか見てはいない」

 

 望んだ力が別の何かに宿る。それは立城を驚かせるに充分な出来事だった。愕然とする立城の傍にいた由梨佳には何が起こっていたのかを全く理解できなかっただろう。あの時、新しく生まれた命には間違いなく誓約者としての力が宿っていた。

 

「だから、僕は立城さんではありませんから。立城さんがどのような情報を必要とされているか、知る術はありませんし」

 

 きっぱりと優一郎が告げる。それもまた事実だと立城には判っていた。そう、誰にも代わりは出来ない。何故なら自分は既に誰かの代わりだからだ。そう思ってから立城ははっと目を見張った。立城は無意識のうちに優一郎に手のひらを向けていた。そのことに気付いて、立城は力なく腕を下ろした。

 

「……ごめん。八つ当たりだったね」

 

 疲れた面持ちで告げてから立城は静かに座り直した。額を押さえてため息をつく。それから立城はゆるゆると目を上げた。優一郎が不安そうな面持ちになっている。

 

「いえ、本当に僕の中に立城さんに必要な情報が眠っているなら協力します。アンフェアとかそんなことはありませんから」

「それで例えば多輝がいなくなっても?」

 

 力なく笑いながら立城は告げた。一気に力を削がれた気がする。多分気のせいなのだろう。それは判っていたが、疲れきった身体だけは紛れもない本物だ。立城は深々と息をついてから優一郎を伺った。戸惑ったように優一郎が言葉を探しているのが判る。

 

「あの、彼女からは立城さんは教育を諦めたと聞いたんですが? また、彼女を呼び戻すつもりですか?」

「教育期間は終了したよ。残念ながら多輝の記憶の殆どは封じられていることがはっきりしたからね。これ以上、僕の傍にいても仕方がない」

 

 疲れた面持ちで言いながら立城はさらうようにして湯飲みを取った。両手に湯飲みを包んでからため息をつく。先ほどの言葉は紛れもない立城の本音だった。そう。多輝の身体や意識には立城の求める情報はなかった。いや、あることはあるのだろう。だがそれは立城には読めない状態になっていたのだ。

 

「なら、彼女を戻す気はありません。約束もありますし」

 

 きっぱりと優一郎が言い切る。それを見た立城は苦い気分に襲われた。いつかどこかで同じやり取りをした覚えがある。あれはいつだったろうか。確かその時に向かい合っていたのもやはり男性だった気がする。

 

「だろうね。……だからフェアじゃないと言ったんだよ」

 

 君にじゃない。僕に不利なんだ。疲れきった身体を強引に起こして立城は告げた。膝に肘をかけて寄りかかる。




ぶっちゃけ、この時の立城は優一郎にエロの誘いをかけていたのでしたw
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。