※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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この2人、割と相性が良いんですよね~。
あ、エロシーンはありません。


魔法のおさらいと夕飯 1

 日に日に家の中が騒々しくなる。ラスティはため息をついて首を力なく横に振った。破壊された壁が瓦礫になって畳に積もる。大きな穴が開いた壁の前で奈月は涙目になっていた。おろおろと周囲を見回している。

 

「だからな、力を集めろとは言ったよ、俺は。でも断じてそれを放てとは言ってない」

 

 奈月が集めた力はラスティが止める前に壁に向かって放たれてしまっている。奈月は半ば泣きながら懸命に頭を下げた。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 

 元々、龍神との相性はとてもいいのだろう。奈月は本来、魔法士が苦労して会得する基本的な部分については無条件にクリアしている。つまり、どうやって龍神の力を呼ぶか、だ。だがこれは生まれ持った能力とも呼べるもので、個人で望めば手に入る力ではない。そしてその力はある程度のこつをつかまなければ発動させることが出来ない。そのこつをつかむ、という部分で大抵の魔法士は苦労をするのだ。

 

 奈月は壊れた壁とラスティを交互に見つめ、涙の浮かんだ目尻をそっと拭う。そんな様子だけを見ていると、到底、奈月が壁を壊したとは思えない。容姿と力は別物だからな。ラスティはため息混じりに何気なくそう呟いた。え、と奈月が目を見張る。

 

「ったく……今日これで五度目だぞ? いいかげん、無意識に力炸裂するのはやめてくれ」

 

 言いながらラスティは口の中で素早く呪文を組み上げた。壁に向かって手のひらを翳す。懸命に詫びる奈月の背後で瓦礫がゆっくりと浮き上がった。見る間に壁が元の形に戻っていく。ほどなく壁は元の状態に完全に戻った。

 

「いいか? もう一度言うぞ? 青龍神の力と火龍神の力を寄せるんだ。……頼むから寄せるまでにしてくれ」

 

 奈月が力強く頷く。胸の前で握られたこぶしを見たラスティの胸に嫌な予感が過ぎる。あ、ちょっと力は少なめに。そう言う前に奈月は宙を睨むようにして気合のこもった声を上げた。

 

「はい、いきます!」

 

 ラスティは奈月の声とほぼ同じタイミングで部屋の中に結界を張った。嫌な予感が的中する。奈月は差し出した手の中に二種類の強い力を導き出した。どうしてそれで加工が可能だと思うんだ。ラスティはそう胸の中で呟きながら結界を支えるために細い力を幾つも編んだ。

 

 奈月の集めた二色の力が一気に燃える。ラスティは強引にその力を結界で包み込んだ。衝撃に奈月が小さな悲鳴を上げて畳に転がる。

 

「加減ってものを知らないのか、あんたは!」

 

 怒鳴りながらラスティは結界を支えていた腕に力をこめた。情けない顔で詫びようとする奈月を目で制する。すると奈月は大人しく畳に伏せた。その一瞬後、結界が瞬きながら収縮する。咄嗟に展開したのが翠のものだったから良かった。結界は内部で暴れる力の時を直接に遡らせる。翠の輝きに包まれた二色の力は急速に輝きを失った。最後に小さな翠の光が弾け散る。

 

「ごめんなさい」

 

 涙を拭きながら奈月が頭を下げる。ラスティは息をついて畳の上にへたりこんだ。確かに奈月の力を考えるとこの部屋の中で教えるのはまずいかも知れない。そうラスティが考えた時、ためらいがちに奈月が言葉を続けた。

 

「でも、どれくらいの分量の力を引き寄せればいいかについては教えてもらってないと思います」

 

 半泣きで奈月が告げる。ラスティは頭をかいてから右手を奈月の前に出した。軽く手首を捻る。するとラスティの手のひらの上に紅い雲を纏った青い龍神が現れる。それは力を丁寧に織って作った小さな幻影だ。

 

「俺はこれを作れって言ったんだろ? こんな小さいの作るのに、あんな力は使わないだろ、普通」

 

 そう告げてからラスティは軽く手首を動かした。すると幻影が揺らめいて正座をしていた奈月の膝の上に移動する。まるで生きているかのように龍神は奈月の膝の上で身体をうねらせている。奈月はそれを両手に包み込むようにしてから首を傾げた。

 

「小さじ一杯、くらい?」

「こさじ……? また料理かよ」

 

 呻きながらラスティはため息をついた。青い龍神は奈月の手の中で大人しく身体を丸めている。奈月は大事そうに幻影を手の中に包んだままでそっと笑みかけた。どうやら奈月にとっては大切なものに見えるらしい。やれやれ、と肩を竦めてラスティは立ち上がった。

 

 どだい無理な話なのだ。この家は魔法の練習をするには狭すぎる。が、何もせずにただぼんやりと時を過ごすことほど退屈なことはない。だからラスティは暇つぶしも兼ねて奈月に魔法の使い方を教えることにした。奈月は元々、素質がある。それを磨きもせずに放っておくことも、ラスティにとっては無駄に思えた。使えるものを使って悪いことはないだろうし。結局、奈月はそんなラスティの言い分に頷いた。

 

「もういちど、いきます」

 

 神妙な面持ちで奈月が呟く。だがラスティはそんな奈月に制止の合図を送った。不思議そうに奈月がラスティを見上げる。

 

「とりあえず、今日はやめとこう。明日、ちょっと別の場所に移動出来ないか考えてみる。もう遅いし」

 

 壁が破壊された音を封じていてよかった。そうでなければ隣近所が何事かと乗り込んでくるところだった。ラスティはカーテンを少しだけ開けて外の様子を見た。窓の外は真っ暗だ。




これをきっかけに奈月は魔法を使えるようになるのですが……。
後々、厄介なことになります。
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