※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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夕飯の前にお着替えです★
あ、エロシーンはありません。


魔法のおさらいと夕飯 2

「あ、そうですね。お夕飯作ります」

 

 ぱっと顔を輝かせて奈月が腰を上げる。その手にはまだ大事そうに幻影が抱えられている。ラスティは苦笑して奈月の腕の中から幻影を引き寄せた。呪文一つであっさりと幻影が消える。すると奈月が急に残念そうな顔になった。

 

「このくらいならすぐにあんたも出来るようになるからさ。んな、暗い顔すんなよ」

 

 言ってラスティは奈月の頭をくしゃりと撫でた。奈月はそうですね、と明るい声を返して台所に消える。ラスティはふと思い出して部屋の隅にあるたんすを開けた。いつも同じ服を着ているのもつまらないだろう。そう思って作った服を取り上げる。

 

「なあ、ちょっとこれ着てみないか?」

 

 声をかけると奈月はすぐに部屋に戻ってきた。

 

「それ、わたしにですか? ありがとうございます」

 

 差し出した服を受け取った奈月がにっこりと笑む。ラスティも笑み返して頷いた。ラスティが差し出したのはとある高校の制服だった。窓の下を行く女子高校生の服を参考にしたからなのだが、ラスティはそれが普通の服ではないとは知らなかった。だが、奈月の方もためらいもなく渡したラスティに何も言わない。

 

「その服もけっこう似合ってるけどさ。さすがにずっと同じのって飽きるだろ?」

 

 言いながらラスティは照れくささに頭をかいた。思った以上に奈月が嬉しそうにしているのだ。服一つでこれだけ喜んでもらえるとはラスティも正直、思っていなかった。奈月は嬉しそうに制服を見下ろして微笑んでいる。

 

「それでは着替えてきますね」

 

 奈月が制服を抱えたまま身を翻す。ラスティはえ、と瞬きをした。別にここでいいじゃん。そう告げると奈月が眉を寄せて振り返る。その顔が僅かに赤くなっていることに気付き、ラスティは首を傾げた。

 

「ここで着替えると何かまずいのか?」

 

 そういえばこれまで奈月が目の前で着替えたりしているのを見たことがない。ラスティはふとそのことを思い出しながら告げた。平然と告げたラスティとは対照的に、奈月は困惑をあらわにしている。

 

「あの、その、世界が違えば風習とか違うのかもしれませんけど。その……」

 

 風習。ラスティは口の中でそう繰り返した。この世界ではもしかして人前で着替えるのはタブーなのだろうか。それにしてはてれびとか言われる箱の中では人が着替えることがあったような気がする。あれは生きた人間なのだそうだから、人の前で着替えてはいけないという風習ではないのだろう。それなら何だ? ラスティは真剣な面持ちで考え込んだ。

 

「なに? ええと、もしかして俺が見てるとまずい?」

「えっと、同性同士ならともかく、異性の前で着替えるのは……」

 

 困ったように奈月が告げる。ラスティは一瞬、何を言われているのかを理解できなかった。が、次いではっきりと納得する。なるほど、だから奈月はこれまでラスティの前で肌をみせたことがないのだ。それは風習の違いではない。単純に奈月は男性の前でそんな真似をしたくなかったのだろう。

 

「俺、女だけど?」

 

 笑いながらラスティは自分を指差してみせた。奈月が今度は目を丸くして反応しなくなる。ラスティはくすくすと笑いを漏らしながらもしもし、と奈月の目の前で手を振ってみせた。

 

「ご、ごめんなさい」

 

 慌てたように奈月が頭を下げる。ラスティはいいって、と笑いながら手を振った。確かに誤解を受けるような容姿をしている自分が悪かったのだろう。あっちの世界でもラスティはいつも男性と間違えられているのだ。それくらいにはラスティの顔立ちは凛々しすぎた。

 

「まあ、俺もついいつもの調子でいたからなあ。わかんなくても仕方ないって」

 

 ラスティは言いながら奈月の抱えた服を指差した。すると奈月が慌てたように頷く。ラスティは頭の後ろに手を組んで壁に寄りかかった。

 

「それでは着替えますね」

 

 だがそう言いつつも奈月はちらちらとラスティを伺うように見ている。顔も赤い。ラスティはにやにやと笑いながら大丈夫、と念を押した。

 

 ためらいがちに奈月がエプロンに手をかける。ラスティはそんな奈月を楽しく見物した。そもそも、奈月があの水輝のものだというのが気にかかる。ラスティのイメージでは水輝は傍若無人で我が道を行き、他人を全く気にしない豪快な性格だった。そんな水輝が守るために奈月をここに置いているのだ。翠に借りを作ってまでそんなことをする相手にラスティは単純に興味があった。

 

 するり、とエプロンが落ちる。続いて奈月はワンピースのファスナーに手を伸ばした。だが上手く外れないらしい。ラスティは腰を上げて奈月の背中に手を回した。首の部分から伸びる長いファスナーを下ろす。

 

「へえ。すげえ綺麗な肌だなあ。傷なんて一つもなさそうな」

 

 剥き出しになった奈月の肩にラスティは何気なく触れた。すると慌てたように奈月が振り返る。その顔は真っ赤になっている。胸にワンピースを抱え込んだ奈月にラスティは苦笑した。

 

「わたしは人形ですから」

 

 さらりと奈月が告げる。ふうん、と返したラスティは内心でやっぱり、と呟いた。奈月から流れる波動は独特だ。それは生きた人間のものとは全く違う。かと言って自分たちのような宝珠とも少し違う。奈月のそれは奈月以外の幾多の思いがこもっているのだ。

 

「それにしても綺麗だなあ。あ、でもここ赤くなってる」

 

 そう言いながらラスティは奈月の首の付け根に触れた。触れると途端に痛みのようなものが指先に走る。ほー、とラスティは目を細めた。どうやら水輝が余計な輩が奈月に触れないよう、あらかじめ印をつけたようだ。

 

「あの、大丈夫ですか?」

「あいつ、けっこう独占欲強いんだな」

 

 心配そうな奈月にラスティは笑って返した。不思議そうに奈月が首を傾げる。ラスティは何でもない、と手を振って奈月を促した。

 

 ワンピースを落とすと、奈月は服を着ている時よりはるかにスタイルがいいことが判った。豊かな胸の膨らみから腰のくびれを描く曲線はとても滑らかだ。奈月は恥ずかしそうにしつつもラスティの渡した制服に袖を通した。真っ白なブラウスを着てスカートをはく。ネクタイを締めてジャケットを着る。ブルーグレイの制服に身を包んだ奈月にラスティは頷きながら微笑んだ。

 

「お。やっぱり似合うじゃん」

 

 そう告げてラスティは畳に置き去りにされたワンピースに手を伸ばした。奈月がその場でくるりと回ってみせる。

 

「ありがとうございます」

 

 嬉しそうに告げた奈月にラスティは頷いた。手にしたワンピースを丁寧に畳む。奈月はその場に正座をしてエプロンを手に取った。制服の上からエプロンをつける。あれ、とラスティは声をあげた。

 

「何でそれ着るんだ? もしかしてそれ、気に入ってたり?」

 

 エプロンを指でつまむ。だがそんなラスティに奈月はにっこりと笑ってみせた。その微笑みにラスティはどきりとした。何故か判らないが奈月の表情の一つ一つがとても新鮮に見える。

 




基本的に奈月には水輝以外そういう意味で触れませんw
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