完全に忘れました。
エロシーンはありません。
学期末の生徒の成績を集計して担任に引き渡す作業は既に終了している。後の生徒会の仕事は冬休みに入ってから行われることになる。議事録のまとめや必要経費等の会計絡みの記録、生徒たちの新学期のスケジュール調整等々、やることは目白押しだ。正直なところ、要は生徒会業務に関わるようになってから、長期休暇もまともに休んだことがない。今日も要は相変わらずの生徒会室で執務に追われていた。
今、要が行っているのは生徒会としての仕事ではない。あくまでも個人としてのデータ収集に勤しんでいる最中なのだ。個人的な件で生徒会の誇るメインコンピュータを使っているのだが、そのことについて要は何のためらいもなかった。わたくしのため、イコール、清陵高校のためと信じているからだ。
「まあ。このデザインもなかなか素敵ねっ。なになに……? アルティマインダストリー製作……? なるほど、見るからに強そうな名前ですわ!」
そう言いながら要は食い入るように画面を見つめた。表示されているのは汎用型人型ロボットだ。極秘に開発されているそのロボットのデータを拾うために、要はわざわざメインコンピュータを駆使して企業の情報にアクセスしたのだ。補佐役を務めたのは野木だ。今日は周藤は外交委員として他の高校に出向いている。
「機能的にも悪くないわ。早速、吉良くんに報告を」
すかさず要はメーラーを立ち上げた。幾通にも及ぶ未読メールを無視して優一郎宛のメールの作成にかかる。必要そうなデータをピックアップして要はメールに次々に貼り付けた。ありがたいデータを送っているという認識の要は、当然、メールのサイズには頓着していない。比較的大きな画像を次々に貼り付けたため、そのメールはどんどんサイズが大きくなっていった。
「あら、これも良さそうね」
嬉しそうに微笑みながら要はまた新しいデータをメールに添付した。そこでようやく本文に取り掛かる。ご機嫌いかが? これなどどうかしら。それだけの単純な文章を書いてから、要はメールを優一郎に送付した。
「……あの……要様。そのサイズでは一度に送付は不可能かと」
横で見ていた野木が苦しそうに告げる。え? と要は野木を振り返った。野木は要の脇に立って顔を僅かにしかめている。その目は画面に注がれており、要自身は見ていない。要は不機嫌に眉を寄せて画面に目を戻した。
「まあ、どうしてですの? これは誰かの陰謀!?」
表示されたエラーを睨み、要は声を荒らげた。隣で野木が違います、と淡々と否定する。機嫌の悪くなった要を余所に、野木は斜め前の席についた。そこがいつも野木が座っている席だ。野木は専用に使用している端末を立ち上げて、ちらりと要を見た。
「もしよろしければ私がデータを分割して送付させていただきますが」
静かな声に要は鷹揚に頷いた。確かにこれまで、要が送ったメールより野木のそれに対しての方が、何故か優一郎の返事が色よいことが多い。きっと今回も野木が送れば優一郎は考え直すに違いない。要は自分の考えに強く頷いて画面に向き直った。
先日、優一郎とは派手にやりあったばかりだ。もっとも、やりあったと言っても一方的に要がかみついていただけだ。が、要の中では優一郎と大喧嘩したという認識になっている。その件というのは例の巨大ロボットについてだった。要が搭乗する予定のロボットはグラウンドに搬入されてはいる。先に壊された校舎等の修復が済むと同時にロボットの製作は最終段階に入った。それはいい。日程通りに作業は進んではいるし、期日には充分間に合うだろう。だが一つ難点があったのだ。その点で要は優一郎に食ってかかった。
とにかくデザインが気に入らなかった。運ばれたロボットは起動性を重視しているため、とてもシンプルな作りになっている。が、それが要の希望にかなっていなかったのだ。
要は思い出しながら苛々と机を指先で弾いた。そもそも、最初に送られてきたデザインと実際のそれも違っている。最初のそれも要には気に入らなかったのだが、運ばれたそれはもっと気に入らない。
「どうしてですの!? わたくしはもっと派手なデザインが好きですのに!」
あの時に優一郎に叩きつけたのと同じ言葉を吐いて要は机を叩いた。野木が困ったように顔をしかめる。だがそのことにすら気付かず、要はぎりぎりと机をつかんだ。自然と歯を食いしばったために、奥歯が軋む。
「そもそも優一郎様も優一郎様ですわ! あんな風に冷たくしなくても……」
優一郎にしてみれば、当り前のことを当り前に淡々と要に返したに過ぎない。とにかく今からデザインの変更は無理だ。外見を気にしすぎたために負けては仕方がないでしょう。だがそんな当り前のことが要には違って聞こえた。要はその時のことを思い出して悲しげにため息をついた。
ロボット対決はまだまだ先です。