でもって順の正体がバレますw
あ、エロシーンはありません。
風に吹かれた髪を押さえて目の前の大きな門を見上げる。透は目を細めて周辺を伺った。正攻法で正面から攻めるのがいいだろうと踏んだのだが、意外と警備は手薄なのか、これまで透の行く手を阻むものはなかった。
インターフォンに手を伸ばす。答えたのは男の声だった。硬い声に透は端的に用件だけを告げた。つまり、当主に会わせろといったのだ。すると驚くことに対応する声は承諾の旨を返してきた。
音を立てて門が開く。透は門をくぐり抜けて奥に見えている屋敷を目指した。本当は飛べば随分と時間は短縮できる。だがいつ、どんなことが起こるか判らない。その時のために力は出来るだけ使いたくない。透は周囲を警戒しながら屋敷に向かって歩いた。
玄関に辿り着くと扉が自動的に開いた。豪奢なじゅうたんの敷かれたフロアが見える。
「いらっしゃいませ。涼月さま」
恭しく礼をしたのは初老の男だった。どうやらこの男が先ほど対応したらしい。透はああ、と頷いて辺りを見回した。随分と大きな屋敷だ。さすがは木村の当主邸といったところか。そう呟いて透は言われるままに男について歩いた。
案内されるままに歩く間に透は周辺に施された結界の形を読んだ。なるほど、この構造であれば使用する力は最小限に抑えることが出来る。ふうん、と呟いた時、男が唐突に足を止めた。透もつられて立ち止まる。
「こちらでお待ちでございます。それでは」
玄関で見た時と同様に男は一礼すると、その場を後にした。透はそれを見送ってから大きな扉に向き直った。分厚い木の扉からは何も伝わってこない。どうやら力を完璧に封じているらしい。にやりと口許を歪めて透は扉を軽く叩いた。ほどなく中から返事が聞こえる。年若い男の声だ。
失礼します、と儀礼的に告げて透はドアを開けた。夜だというのに電気の明かりすらない。半ば呆れながら透は部屋に踏み込んだ。その瞬間、背後でドアが音を立てて閉じる。
「うわあ。随分と見違えたねぇ。これは嬉しい誤算かも」
呑気な声が部屋の奥から飛んで来る。透は腕組みをしてゆっくりと進んだ。窓から差し込む月の明かりが窓際のベッドを照らしている。
「なんであんたがここにいるのよ!」
ストレートに思ったままを口にしてから透はごほん、と咳払いした。つい、癖で女であった時の喋り方が出てしまったのだ。だが相手は全くそのことを気にしていないらしい。にこにこと笑いながら傍にあった椅子を指し示す。
「え、だってオレ、この屋敷に住んでるし」
ベッドに納まっていたのは順だった。透はうろんな目で順を見ながら勧められるままに椅子に腰を下ろした。ゆったりとした作りの椅子が心地良い角度で透の身体を受け止める。
わーい、と呑気に嬉しがりながら順は枕元にあったリモコンを操作した。ゆっくりと部屋が明るくなる。
「なるほどとんだ食わせ物だったってわけだな」
こんなことならもっと金を請求すれば良かった。そう思いながら透は鋭く舌打ちした。えー、と間延びした声で順が答える。
「ヤだなあ。オレ、けっこー誠実にキミには接してきたつもりよ?」
そう言ってから順は口許を押さえた。軽く咳き込んでから詫びを口にする。ベッドに納まったままで接客していることといい、その顔色が青ざめていることといい、どうやら順は具合を悪くしているらしい。
「ま、取引の内容は問題なかったけどね。騙されるのってけっこうイヤじゃない?」
確かに順が提示し、実際に支払った金額は大きかった。透の要求をほぼ無条件で飲んだところは悪くない。だがそれでも順は最初から木村の当主とは名乗らなかった。
「だってさぁ。オレ、キミたちとは敵対関係よ? ハンターだもん」
あっさりと告げて順はにっこりと笑った。ハンター、と口の中で呟いてから透は順をじっと見つめた。とても記憶にあるようなハンターの像と順が一致しない。どう見ても今の順はただの病人にしか見えない。
「んな立場のオレが正直に名乗ったらさぁ。そりゃもう、吉良瀬の側から追われるに決まってるじゃん?」
「別にハンターなんて珍しいものでもないし」
そう切り返してから透は順の肩を軽く押さえた。無理に身体を起こそうとしていた順の体がベッドに戻る。それを確認してから透は椅子に深く寄りかかった。腕を組んで順を睨む。ははは、と力なく笑ってから順はそうだねぇと同意してみせた。
「でも龍神の大半はそゆ反応はしないんだよねぇ、これが」
深々と息をついて順は首を振った。透はだがすらりと切り返した。
「ただの亜龍でしょ? 合鴨みたいなもんじゃない」
「うわー。すがすがしいくらい本質を突いてるなあ、それ」
順が嬉しそうに笑う。一体、何がそんなに嬉しいのだろう。透は訝りながら首を傾げた。順が枕元のインターフォンに茶を用意しろと命じる。間もなく順の部屋には二人分の茶が運ばれてきた。
「いいなあ、絵美佳ちゃん。オレの女にならない?」
茶を勧めながら順が浮かれたように告げる。対して透は憮然となった。
「目、悪い? もしかして?」
どこをどう押せば女に見えるんだ。そうぼやきつつも透は出された茶を受け取った。ついでに出された茶菓子を口に放り込む。マカロンは噛み砕くまでもなく、口の中でふんわりと溶けた。
「だってオレってバイよ? 男でも女でも別に」
心底、楽しいのだろう。そう告げた順の顔色が幾分か良くなっている。だが逆に透は眉を寄せて顔をしかめた。
割と仲が良い2人です。