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激しく壊れた女子生徒が担ぎこまれたのは、その日の午後遅くだった。多輝はのんびりとゲームをしていた手を止めて怪訝な面持ちで振り返った。専用に使ってもいいと言い渡された部屋は愛らしい装飾で埋められている。多輝はその真ん中に胡座をかいていた。
「……ああ? それで何でおれが関係するんだよ」
言いながら多輝はうろんな眼差しで優一郎を見た。ドアのところに立つ優一郎は疲れた表情をしている。腕組みをして力なくドアに寄りかかった優一郎を多輝は頭の先からつま先まで眺めやった。背後でテレビがけたたましい音を立てる。どうやらゲームオーバーのようだ。多輝は肩越しにちらりと画面を見てからコントローラーを床に放り出した。
多輝のいるこの部屋は学校の地下二階にある。廊下を出てすぐのところには優一郎の研究室、キッチン、シャワールームも並んでいる。その気になればこの地下二階で暮らし続けることも可能だろう。多輝はぐるりと自分に割り当てられた部屋を見回した。この部屋の内装は淡いピンクが基調にされている。天井から吊るされたモビールがごく微かな空気の動きを受けて静かに揺れた。
最初、多輝はこの部屋を案内されて怒り狂った。こんなとこに落ち着いていられる訳がないだろう。だがそう怒鳴りつけた多輝に優一郎はにっこりと微笑んでみせたのだ。それじゃあ、マンションに戻る? そう言われた多輝はぐっと詰まって答えられなくなった。立城がマンションを用意してくれているのはわかる。が、あそこには近づきたくない。結局、多輝はここに居座ることに決めた。
今の自分が以前の自分とは違っていることも多輝は理解していた。女だった時の激しいジレンマは今は感じない。それどころかせいせいした、という気分だ。多輝は床に投げたコントローラーを再び手に取った。赤い丸のつけられたボタンを親指で押す。すると画面は愛らしい音を立てて切り替わった。
「大体、壊れたのっておれの知らないやつだろ? おれには関係ないじゃん」
優一郎に背を向けてから多輝はそう告げた。画面内に記されたロードという項目を選んでボタンを押す。するとセーブデータがずらりと並んだ。中からさっきと同じデータを選ぶ。
「いえ。ちょっと疲れたから。先輩の顔が見たくなったんですよ」
そう告げて優一郎は静かに多輝に近づいた。多輝は唖然としてそんな優一郎を見上げた。
「なに言ってんだ? ……って、うわ! やべ! 突っ込んじまった!」
多輝は慌てて画面に目を向けて懸命にコントローラーを操った。だが一度、飛び出したドラゴンは止まることはない。敵襲を必死で避けながら多輝はボタンを連打した。吐き出されたブレスが敵の撃ち出したミサイルを撃墜する。
真剣な顔でゲームをする多輝の傍らに優一郎が静かに腰を下ろす。多輝は夢中で画面に食いついていた。多方向から迫るミサイルがアップになる。多輝はうわ、と声を上げて慌ててそのミサイルを撃ち落した。おお、と隣で優一郎が感嘆の声を上げる。
「で? 何だって? その女って例の生徒会長だっけか? 何でまたそんな面白いぶっ壊れ方したんだよ」
直接の知り合いではないが、如月要と言えば学校内に知らぬ者はない。他者を圧倒する傍若無人な態度とは裏腹に実際にはとても有能だと聞く。多輝はゲームの途中でちらりと優一郎を横目にみた。画面の中ではドラゴンがとある場所で餌を与えられている。ガソリンスタンドではないが、所謂ドラゴンの休憩所だ。ここである程度の補給を済ませてから二戦目に突入するのだ。
「女性器ユニットが暴走して、いわゆる人間で言うところの膣痙攣状態になったんですが……」
要は多輝の知らない間にヒューマノイドになっていた。優一郎の返事に多輝は眉を寄せた。そんなことになるのか。そう呟く。すると優一郎は苦笑してテレビの画面を指差した。ドラゴンが大きくのびをする。どうやら補給が終了したらしい。多輝はああ、と返事して再びドラゴンを操り始めた。
「女性体に戻れば体験できますよ」
巨大なドラゴンの背に乗った少年がちらりと画面に映る。多輝は器用にドラゴンを操りながら顔をしかめた。
「やだよ、おれは。何でそんな……おい、暇なら手伝え。2コンそこにあんだろ? スタートボタン押せば支援機としてもう一頭、ドラゴンが出るからさ」
最終画面が近い。多輝は雨のように降り注ぐミサイルを必死で避け、ブレスを撃ち出した。ボタンを連打する多輝に合わせてドラゴンがブレスを立て続けに飛ばす。次いで、五分に一度しか使用出来ないコマンドを入力する。するとドラゴンの背にカメラが寄り、少年が大写しになった。
「ひっさーつ! ラピッドモーメントショット!」
槍を携えた少年が腕を振る。多輝の入力に合わせて少年は槍を横に振った。すると閃光が少年を中心に一気に広がる。光が納まるとその場に映っていたミサイルは全て撃墜されていた。
やれやれと言いながら優一郎が床に放り出されていたコントローラーを取る。画面が僅かの間だけ動きを止める。多輝はちらりと横目で優一郎を見た。Yesの項目にカーソルを合わせてボタンを押す。大した説明もしていないのに、優一郎の操るドラゴンは多輝のドラゴンに寄り添うようにしてブレスを吐き出した。飛んで来たミサイルが真っ青な光に撃ち落される。
「おーお。やるじゃん、優一郎」
素直に感心する多輝に優一郎が微かに笑む。二人はそれからしばらくの間、一緒にゲームをした。それまでクリアできなかった最終ボスに辿り着く。二、三の打ち合わせをしてから多輝は優一郎と共にボスであるモンスターを撃破することに成功した。
それまでのストーリーを追う形で色んな画像がテレビに映される。音楽と共に始まったエンディングを横目に多輝は優一郎の肘を軽く小突いた。やるじゃん。そう告げると優一郎が苦笑する。
かなり前に書いたものなので、ゲーム機が古いです……w