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火龍の狩りが行われる予定になっている場所は、コロニーから数キロほど離れたところにあった。珍しく近場ですよね。横でそう告げたのは克人だ。水輝は横に並ぶ克人にちらりと目をやってから無言で頷いた。
克人の耳にはあの日水輝が渡したピアスがはめられている。明るい陽光を石がきらりと反射する。スポーツ刈りに近い短髪だからだろうか。克人のピアスは水輝のそれよりよほど目立っている。だが克人はコロニーの誰に聞かれてもピアスの入手先を曖昧に濁していた。そして克人はあの日以降は水輝にピアスについて一切、問わなかった。水輝も自分からは説明しなかった。
狩場までは車を出すこともないだろう。そんな榊の指示に従って狩りを担当するメンバーは徒歩で狩場に向かった。水輝は列の最後尾について歩いている。その隣を克人が歩いているのだ。
前回の狩りの際の反省点は数多く残された。そのために今回はメンバーは二班に分かれて行動することになった。北と南の両方向から龍神を挟み撃ちにするのだ。予備の弾を運んでいるのは今回は男たちだ。いつも雑用を行っている女性たちは今は眠りについている。彼女たちの多くが主に夜に活動しているのは、身体を張って群れを維持する資金を稼いでいるからだ。水輝は天に輝く太陽を見上げてから目を列に戻した。アスファルトすら敷かれていない道を青年たちは慣れた足取りで進んでいる。
明るい日差しを好むのは恐らく火龍の性質だろう。だが今は日差しがあるといっても真冬だ。しかもコロニーのある敷地は高い場所にある。水輝は軽く身震いして頭を振った。この寒いのに青年たちはシャツにジーンズという簡素な格好をしている。薄着に慣れているのか、克人までが同じ格好だ。そんな中で一人、水輝だけがジャケットを羽織っている。やれやれ、とため息をついて水輝は先を急いだ。
「そんなに寒いですか? ボクたちは即席カイロを持っていますからね」
問うより先に克人がそう告げる。水輝は訝りながら克人の手元を見た。克人がシャツの中に手を入れて何かを取り出す。出てきたのは例の巾着袋だった。水輝は目で示されて袋に触れた。指先からほんのりと温かさが伝わってくる。
「もしかして宝珠の欠片か?」
「ええ。季節に合わせて一つずつは食べずに置いているんです。こういう時に役に立ちますから」
冬には火龍の緋宝珠、夏には水龍の青宝珠。そこまで言ってから克人は苦笑した。大事に巾着を懐に戻す。
「本当は氷龍のものがいいのかも知れないけど、生憎今まで狩ったことがないから」
確かに夏場に氷のような宝珠を持っていれば、暑さは凌げるだろう。水輝は納得して頷いてみせた。今まで宝珠をそんなことに使おうと思ったことがない。もしかしたら彼らハンターの方がよほど宝珠の使い方を知っているのかも知れない。そんなことを考えながら水輝は黙々と歩き続けた。
狩り場所に到着したのは午後十二時を回った頃だった。昼食前に片付けてしまおう、とメンバーから提案される。昼食と言っても彼らは殆ど人の食事をとらない。きっと宝珠の方がご馳走なのだ。水輝は内心うんざりしながらも了解した。どのみち、狩りが終われば彼らは人の食事などしない。今日と明日は実質、宝珠以外の食事はなしだ。また外に出るかなあ。そんなことをのんびりと考えつつ水輝は配置についた。
草むらに身を伏せた青年たちが一点を狙って銃を構える。号令と共に速射可能なように予備の弾は各自の傍らにある。水輝は少し離れた場所でそれを眺めていた。のんびりと煙草をくゆらせる。
呑気なものだ。水輝は苦い気分で呟いた。傍らにいる克人にも届かないくらいにその声は小さかった。主である火藍が不在の間に火龍たちはばらばらになった。龍神の中でも彼ら火龍の統制の取れ方は随一であると言われていた。龍神の長として立つことになった火藍に追従する者たちは多く、様々な龍神の中でも火龍の数が一番に多い。それ故に火藍が死した後、崩壊するのも実に早かった。
龍神は本来、群れない。だが火藍の圧倒的な力に魅せられて傍に近づきたがる輩は多かった。断罪の使命を帯びているにも関わらず、火藍は人に好かれる性質をしていたのだ。その点が水輝とは全く異なっている。水輝はある意味、恐怖で他者を従えている部分がある。火藍は言えばその正反対の性質をしているのだ。
だが今、火藍の手を離れた者たちが次々にハンターの狩りの対象と化している。水輝は冷ややかな眼差しを前方に向けた。幾つもの銃口はたった一人の火龍に狙いを定めている。あと数分もかからない内にそれら全ての銃口が火を吹く。対龍神用の弾薬は過たず火龍の身体に吸い込まれるだろう。そして火龍は為す術もなくその場に縛り付けられる。
ほどなく水輝の予想通りの光景がその場に展開された。消音機つきの銃が一斉に弾を撃ち出す。そしてのんびりと森の小道を歩いていた火龍は愕然とした面持ちで足を止めた。豪雨のように火龍に弾が降り注ぐ。水輝は目を細めて歯の間に煙草を挟んだ。ほんの一瞬、火龍が水輝のいる方を向く。
「あっ! 沙耶さん! 駄目ですよ!」
克人の慌てた声が背後に聞こえる。水輝はだが制止の声を振り切って銃弾の飛び交う場所に踊り出た。刀を振りかざして走る水輝に驚いたように青年たちがざわめく。水輝は一気に目標である火龍に迫った。
「なっ! 何故……あなた様のような方が……!?」
名を呼びかけた火龍の喉を水輝は力任せにつかんだ。出かかっていた声が呻きになる。銃弾に身体を撃たれた火龍は全身から血を流しながら仰け反った。
薄紅色の髪が風に揺れる。水輝は無言で手に力を込めた。抵抗するように火龍が身体をよじる。音にならない声が喉の奥からもれる。火龍は目を見開いて水輝の手を懸命に引っかいた。長い爪が水輝の手の甲を傷つけていく。
「沙耶さん! 何してるんですか!」
火龍を取り囲むために輪になっていた青年たちの向こうから克人が慌てた様子で駆けて来る。水輝は舌打ちをして火龍の耳にだけ届くように囁いた。
「てめえが持ってていい代物じゃねえだろう、それは」
はっとしたように火龍が水輝を見る。その目には明らかに恐怖が浮かんでいた。水輝は唇を歪めて無造作に右手を振った。刀が深々と火龍の胸を貫く。水輝は歯を食いしばってそのまま火龍の胸に柄を握った手を潜らせた。
断末魔の声が上がる。水輝は息をついて火龍をその場にうち捨てた。克人が焦った声を上げて火龍に駆け寄る。だが火龍の息は既にない。そのことは水輝にもよく判っていた。
「……な、何てことを……どうしてこんなこと」
火龍の胸に穿たれた大きな穴から霧のように赤いもやが立ち上っていく。青年たちのざわめきを背負ったまま、水輝は血に濡れた手を軽く振った。震える手で克人が火龍を抱き上げようとする。だがその身体はまるで砂のようにさらさらと零れて流れていく。風に乗って流れた火龍の身体を水輝は目で追いかけた。
そういえば活動報告書いてないですね(汗)
後でちょっと書こうかな……。