※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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水輝がやらかしたので、群れとおさらばになります。
エロシーンはありません。


火龍狩りと別れ 2

 無言で克人が立ち上がる。克人は俯いたままで水輝の脇を過ぎ、青年たちの輪に戻った。何事かを克人が告げると不服そうにしつつも青年たちがその場を後にする。残った克人は水輝に背を向けたまま、呻くように告げた。

 

「今日の……狩りは……失敗、です。長にはそう報告していいですね?」

「ああ。構わない」

 

 静かに応えて水輝は煙草を口に咥えた。大きく息を吸って煙を天に向かって細く吐く。克人はずっと俯いている。水輝はそんな克人に声を投げかけた。

 

「何ならおれを追い出してもいいぞ?」

 

 水輝は血に塗れた手の中に納まっている一つの宝珠に目を落とした。よりによって先ほどの火龍は火藍がかつて持っていた宝珠の一つを体内に仕込んでいたのだ。どこで拾ったんだ。そう内心で呟く。

 

 ふと克人が顔を上げる。肩越しに振り返った克人の目には憎悪に近い光が宿っていた。

 

「それを渡してください」

「断る」

 

 即座に水輝は切り返した。克人が憤りを露にして近づいてくる。水輝は刀を鞘に収めて宝珠を握り直した。青い宝珠は血に濡れていても輝きを失ってはいない。

 

「今なら見なかったことにします。だから、渡してください」

 

 そう言いながら克人が手を伸ばす。水輝は片方の眉を跳ね上げて口許に嗤いを刻んだ。今の克人は人の好い子供の仮面を被ってはいない。年に似合わない大人びた顔つきをしている。これが恐らく克人の本来の姿なのだ。

 

「断る。お前たちに扱えるもんじゃないだろ? これは」

 

 克人が伸ばした手を水輝は無造作に片手で払い落とした。克人は払われた手を左手に包み、唇をかむ。次に顔を上げた克人の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 

「それでもボクは見逃す訳にはいきません。沙耶さんが何者であっても、それは渡してもらいます」

 

 水輝はふと目を細めた。克人の身体がふっ、と消える。次いで克人は水輝の真後ろに現れた。高速移動ではない。明らかに克人は空間を飛んでみせたのだ。へえ、と感心の声を漏らして水輝は素早く振り返った。伸ばされた手をひらりと避ける。克人は水輝を睨みながらじりじりと間を取った。

 

「そうか。お前、他と違うと思ったら」

 

 水輝は周囲の気配を一瞬で読んだ。幸い、ハンターの青年たちは大人しく克人にしたがって山を降りたらしい。残っているのは鳥や虫などのささやかな気配だけだ。水輝は一気に迫ってきた克人の手を逆につかみ取った。

 

「お前、順の関係者か。片方の目はどうした? もしかして順に取られたのか?」

 

 暴れる克人を足で押さえて水輝は小さく笑った。かっと頬を染めた克人がぎらりと水輝を睨む。

 

「余計なお世話です!」

 

 克人の両目はぱっと見には揃ってはいる。が、力を使って見るとその片方が輝きをなくしていることが判る。克人の左の目は見えてはいるのだろうが、本人のものではない。他者の力のこもったものに入れ替えられているのだ。

 

「何だ。順の命令でこれを取り戻そうとしてるのか?」

 

 足の下で克人がもがく。水輝は苦笑して足を外した。勢いよく身体を起こした克人が水輝から飛び離れる。のんびりと煙草を指で挟み、唇から引き剥がす。水輝は嗤って克人に目をやった。

 

「あなたには関係のないことです! さあ、それを渡してください!」

「って、言われてもなあ。おれも理由が判らないまま渡す訳にもいかないだろ?」

 

 怒鳴った克人に水輝はのんびりと声を返した。地面を蹴った克人が手の中に力を生む。それはハンターの力ではない。水輝は片目を細めて無造作に手を伸ばした。血だらけの右手が飛んで来た光を難なく受け止める。

 

「な……んで……」

 

 光を撃ち出した克人の髪と瞳は空色に染まり変わっている。水輝はふん、と鼻で笑ってから軽く手首を捻った。手のひらのすぐ手前で動きを止めていた光が急に姿を変える。水輝の力を受けたそれは一本のナイフになった。木々の隙間から漏れてきた日の光をナイフの刃が鈍く照り返す。

 

「ほら。武器くらいないとつまらないだろ?」

 

 言いながら水輝はナイフを克人に放った。地面を転がったそれを克人が震える手で取り上げる。

 

「沙耶さんは……一体……何なんですか」

 

 ナイフを取りながら克人が力なく呟く。両手に握ったナイフの刃が頼りなく震えている。水輝は横目にそれを眺めてから口許に笑みを浮かべた。

 

「おれか? おれは青龍神だ。歪みを正すべくお前たちの群れに紛れ込んではみたが……ここまでだな。まあ、収穫は多かったからちょっと残念だが」

 

 克人が絶句して目を見張る。やがてその目には得体の知れない光が宿った。もしかしたら克人は個人的に龍神を恨んでいるのかも知れない。そんなことを思ったが水輝はあえてそのことについては何も言わなかった。

 

「他のコロニーに行こうとしても無駄ですよ。ボクの目を通して主には全て筒抜けですから」

 

 開き直ったのだろう。克人が強い調子でそう告げる。水輝はそれを聞いて小さく笑った。さすがに笑われるとは思わなかったのだろう。克人が怪訝そうに眉を寄せる。水輝は左手に大事に宝珠を握り直してから克人に向き直った。

 

「お前、なーんも知らないんだな。順はそれどころじゃない。今は他人のことなんて心配できる状態じゃないんだ。だからおれの動きなんて見張っちゃいないのさ」

 

 そう言ってから水輝は唐突に地面を蹴った。一瞬で克人の目の前に移動する。急に間近に現れた水輝に驚いたのか、克人が慌てた声を上げる。水輝は無防備に立っていた克人に軽く当身を食らわせた。目を見開いた克人の手からナイフが滑り落ちる。がっくりと力をなくした克人を水輝は片腕に支えた。

 

「ははーん。なるほど、順の人形一号ってとこか。それなら確かにスパイするには充分だよなあ」

 

 腕に支えた克人の思惟の残り香を読み、水輝は苦笑した。順の手によって作られた者は数え切れない。克人はその中の一人なのだ。そしてコロニーを点々としながら情報を順に送る。態のいい人形とされている訳だが、当の克人には順を恨む気持ちはないようだ。

 

 あれで父親と思われてるってんだからなあ。そうぼやいて水輝は頭をかいた。克人の身体を両腕に抱え上げる。転がったナイフに目をやってから水輝はああ、と呟いた。ナイフに力を乗せる。するとそれは小さな石に変じて克人のシャツのポケットに納まった。

 

 水輝は克人を抱えてコロニーのすぐ傍まで戻った。けやきの木の根元にそっと克人を横たえる。

 

「けっこうここ、気に入ってたんだけどな。ま、仕方ないか」

 

 ハンターの群れの中でも恐らくこのコロニーは正常な状態を保っている。水輝はやれやれと肩越しにコロニーを振り返った。眠っている克人に目を戻して苦笑する。これからも恐らく克人は順のためにコロニーで働いていくのだろう。その身体が年を取らないことを周囲が疑問に思うまで。

 

 じゃあな。そう囁いて水輝はその場から姿を消した。




克人は後々出てくる……かも?w
そこまでアップできればの話ですが……。
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