以外と前振り長かった!><
エロシーンはありません。
「でもね。この身体だけが真也と本当の意味で血を分けたものなんだよ」
そう告げて立城はそっと自分の胸に手をあてがった。火藍は無言のままで目を上げた。心の底から大切に思っているのだろう。立城の目は酷く柔らかい。先ほどまでの殺伐とした笑い方を思い出して火藍はそのギャップに息を飲んだ。
死した者は決して蘇ることはない。が、真也も火藍も世界の理を無視した形でこの世に蘇った。そのことを火藍はずっと憂いていたのだ。だからだろうか。立城の穏やかな様子に安堵してしまう。少なくとも誰かが自分を必要としているのだという気分になる。それが甘いと知りつつもこの時だけは火藍は自分にそう思うことを許した。そうでなければ余りにも辛い。例え再び水輝と会えたとしても、だ。
きっと真也も立城が心のどこかで再会を喜んでいたと知っていたのだろう。だから矛に貫かれたあの瞬間、微笑んでいられたのだ。
「大切なのは判る。だが」
しばし感慨に耽ってから火藍はそう呟いた。真也を大切に思う気持ちが無駄だとは思わない。そう思うこと自体は何の問題もないだろう。だが立城にはそれ故に危険が迫っているのだ。冥府の印は刻一刻と濃くなっている筈だ。
「君は僕にわざわざそのことを教えにきてくれたの?」
一転して立城はからかうように告げた。すっかりいつもの調子に戻っている。どうやらこの問題についてはこれ以上の横槍を入れて欲しくないらしい。だが今の立城が何も考えていない訳ではないのだろう。現に立城には余裕があるように見える。口にしないだけで問題解決の糸口を握っているのだ。そう考えて火藍は内心ほっとしつつ、いやと首を振った。これはついでに過ぎない。正直に告げた火藍に立城は苦笑した。
「だろうね。でも僕は君の思考を読む気分にはならないんだ。悪いけれど口頭で説明してくれる?」
それは立城なりの心遣いなのだろう。思惟を読むということは必要以外のことも見えてしまうことになる。火藍はああ、と返事して気持ちを切り替えるために軽く咳払いをした。
歯切れの悪い喋り方だ。そう自覚しつつ火藍は順が今、どのような状況に置かれているかを説明した。立城は時折、合鎚を打つ以外は何も言わない。順の体調悪化の件に続いて都子のことを話し始めたところで立城は軽く手を上げた。
「ちょっと待って。整理するよ。つまり君の現在のマスターは、勝手に人の真名を名乗った挙句、自業自得のしっぺ返しを食らっているという理解でいいかな?」
辛辣な言い方だが間違ってはいない。火藍は僅かに顔をしかめつつも黙って頷いた。なるほど、と頷いてから立城はそれでと話の続きを促した。言われるままに火藍は都子のことについて説明を始めた。
だが本当は説明しなくてもある程度のことは把握していたのだろう。話を聞いている立城に驚いた様子はない。一つずつ、話に頷きはするがそれだけだ。
「都子さんのことは僕も気になっていたんだけれどね。斎姫さんの機体に割り込んだところで、彼女の意識を吸収したりはしないと思うけれど」
そんなに乱暴な性格じゃないし。立城はあっさりとそう付け加えた。次いで火藍を面白いものを見るような目で見やる。人の悪い笑みをそこに見つけて火藍は何だ、と不機嫌に問うた。だが実際の火藍の表情は本人が思っているほどには動かない。そんな些細な表情の変化を読める者はごく限られている。立城もそんな中の一人だ。楽しそうに笑ってから立城はぬるくなった茶を飲み干した。
「木村財閥の当主は僕とは一応、対立している間柄だと思うけれど? 世間的には」
「それは人間の社会の話だろう」
そう言ってしまってから火藍ははたと気付いた。それだけではないことに遅まきながら気付いたのだ。余りにも自然な様で順が屋敷にいることですっかり忘れそうになっていた。彼らは間違いなくハンターなのだ。
火藍はしばらく無言で頭を悩ませた。言われるまで気付かなかったというのも間の抜けた話だ。順に影響を及ぼしているのは紛れもなく龍神に対して揮われる種の力だ。本来ならハンターである順には殆ど影響はなかったのだろう。だが順の生まれの複雑さがその力を受け入れる原因になってしまった。
そう考えた火藍は、この事態をもたらしたのは紛れもなく龍神なのではないかという答えに行き着いた。結果的に順はハンターとして存在はしているが、そうなった元々の理由はこちらにある。火藍は苦しい面持ちで何とかその意志を立城に伝えた。何度も口ごもりながら話をする火藍を立城は感情のない目でみつめている。まるで針のむしろに座らされた気分だった。
「言いたいことは判ったよ。要するに彼がそうなってしまった大元の原因は風龍神にある、と。だから彼を助けるために手を貸せないかってことだね?」
しどろもどろで心情を説明した内容を立城が簡略にまとめる。火藍はそうだ、と頷いてみせた。立城は何かを考えるようにしばし宙に視線を飛ばしてから、改めて火藍を見た。
「それはたぶんに君のわがままなんじゃないの? 大元の原因は確かに龍神にあるかも知れない。でもそんなことを言い出したら、僕たちは延々と果てしない時を遡って責任を取らなければならないことになる」
そこまで言ってから立城は深々と息を吐いた。自然と火藍の視線が下がる。並んだティセットを見つめる火藍の表情は苦渋に歪んでいた。
どっちもどっちの件。