でも横に寝てたら駄目だと思う……w
エロシーンはありません。
「だったら台詞がヘンだと思うんだけど」
二個目の菓子を頬張りながら透はそう告げた。自然と声が低くなる。うーん、としばし考えてから順はにっこりと笑った。
「じゃあ、オレの男になって……って、これって変じゃない?」
うーんうーん、と順は考えながら呻いている。やれやれと肩を竦めて透はしばし悩む順を放置した。
「まあ、男だろうが女だろうが、あんたの愛人になるつもりはないし」
しばらくして透はそう告げた。すると意外そうに順が目を見張る。
「愛人ってどーして? オレの本命かも知れないじゃん」
そゆのは恋人って言うんじゃないかなあ。不満そうにぼやく順に透は嘲笑を向けた。ベッドを指差して片目を細める。
「本命だろうが二号だろうが二十八号だろうがなるつもりはないってば」
第一、それはなんだ。透が続けると、今気付いたというように順が自分の横に目を落とした。わざとらしくうわお、と声を上げる。瞼を閉じ、順の横では一人の女性が寝息を立てているのだ。
「彼女には別に何もしてないよ? ま、出来る状態じゃなかったし」
真っ赤な髪には見覚えがある。透は自然とその女性の名前を思い出していた。火藍。呟いてから目を上げる。すると順が静かに火藍の髪を撫ぜているのが見えた。
「疲れてたみたいだねぇ。まあ、あれだけ暴れてくれればね」
「とりあえず、それが本命なんでしょ?」
順から流れてくる思惟はそれを示している。透は笑ってあごで火藍を指した。すると順が困ったように透と火藍を見比べる。
「ま、とりあえずはね。そういうことにしときましょう」
「で、本題に入っていい?」
透は間を置かずにそう切り出した。順がうん、と頷く。口の中に留まっていた甘さを茶で流してから、透は改めて順に向き直った。
「とりあえず七十億くらい出資してくんない?」
「オレのメリットとデメリットを簡潔に述べよ。……ただでそれだけの金は出せないよ?」
すかさず順がそう切り返す。それまでののんびりした笑いが消えている。上等、と呟いて透は続けた。
「これ、サンプル」
そう告げて透はポケットから小さなケースを取り出した。軽く順に放る。順は片手でそれを受け止めて蓋を開いた。中には幾つかのカプセルが入っている。
「ふうん? まずは試食しよっか」
止める間もなく順はカプセルの一つを口に放り込んだ。咀嚼して飲み下す。実験、してないんだけどなあ。内心で透はそう呟いた。その間に順はふうん、と確かめるように胸に手をあてがう。
「心臓病の薬だね、これ。なるほど、確かにいいかもね」
そう言ってから順は枕元のインターフォンに再び呼びかけた。例のものを、と告げる。透はケースを指差した。
「すぐに提供できるのはそれだけだけど」
「出資すれば大量に生産できる、と? 確かに悪くない話だな」
言いながら順は開いた扉に向かって手招きをした。しずしずと寄って来たメイドが金色のトレイを順に差し出す。順はそれを受け取ってから無造作にメイドのシャツの胸元をつかんだ。つかみ寄せて唇を寄せる。うっとりと目を潤ませたメイドとしばらく深い口づけをして、順は顔を上げた。そそくさとメイドが部屋を後にする。
「いや、生産のほうはそっちの専門分野だろ」
苦笑しつつ透はそう告げた。既に順は小切手を切っている。差し出されたそれを受け取ると、金額欄は空欄になっていた。
「権利は買うよ。ついでにキミの今後の研究についても支援しよう。これでどうかな?」
「さんきゅ。あとな長い目で見てくれたら」
小切手を大事に胸の奥にしまいながら透は続けた。
「合鴨の精神安定に役立つ薬作れちゃうかもって……要るんだろ」
言って透はにやりと笑った。言わなくても判っている。既に種としてハンターは壊滅状態に追い込まれているのだ。龍神そのものが力を失いつつある今、ハンターだけが今まで通りに生きていられる訳もない。
「合鴨いわれてるし……ま、いっか。うん、ゼヒ頼みたいかな。あ、ついでにさあ。ちょっと別に頼みたいこともあるんだよね」
そう言ってからひとしきり順は咳き込んだ。どうやら本格的に身体を悪くしているらしい。胸に広がり始めた血を見つめて透は目を細めた。
「ああ……ごめん。ええと、なんだっけ。あ、そうそう。絵美佳ちゃんって遺伝子関係とか得意?」
「親父の受け売り程度でよければ、引き出しはあるけど」
シャツに血がどんどん染み込んでいく。さすがに透は腰を上げて順の肩に手を乗せた。順は苦しそうに胸を押さえている。大丈夫か、と声をかけると順は力なく笑った。背中に手をあてがって力を注ごうと、透は目を閉じかけた。
「待って。もうちょっとだけ」
「身体張ってるんだな」
財閥の当主ってもっとふんぞり返ってるもんだと思ったけど。透が告げると順が困ったように笑った。やんわりと透の手を退けて、胸に手を当てる。血に塗れた手がシャツを強くつかむ。そんな順の様子を見ていた透は自然と息を殺していた。
「出来ればでいいんだけど、いじって欲しいことがあるんだよね。遺伝子とか。人じゃないから難しいかな」
順の身体がゆっくりと光を帯びる。空色の淡い光に順の身体が完全に包まれると、それまで広がる一方だった胸の血の跡がゆっくりと消えていく。
「鴨も合鴨も親父の専門だ」
笑いながら告げると順もつられたように笑みを浮かべた。大きく息をついて胸から手を離す。
「ねえ。八大の謎、解きたいと思わない?」
この辺りから順は血まみれです。