※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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話はロボットの実験に向かってます。
エロシーンはありません。


昔々のお話と今 2

 過ぎたことだ、もう。多輝は脳裏を過ぎった懐かしい光景に内心で呟いた。頭を強く振って考えを切り替える。

 

「えー。そりゃ、おれも確かにその方が嬉しいけどさあ」

 

 笑い混じりに多輝はそう答えてみせた。僅かに答えが遅れたことを訝ったのか、優一郎はすぐには返答しない。内心焦りつつも多輝はキッチンの壁に寄りかかったまま、優一郎の反応を待った。

 

「いえ、ご迷惑なら仕方ありません。通常の方法で行いますけど」

 

 言葉尻にかけて力が少しずつなくなっていく。多輝は深いため息をついて壁から離れた。壁を越えてカウンターに戻る。案の定、優一郎は困ったような顔をしていた。だが多輝が姿を現すことも判っていたのだろう。その目は多輝が出てきた場所を真っ直ぐに見つめていた。

 

 その力がなければ少年はもっと楽に生きられたのだろう。自分とは決して関わることもなく、人として穏やかな一生を送ることが出来たに違いない。だが恐らく、当時の少年にそのことを告げても意味はなかっただろう。そしてまた、今の優一郎にそのことを告げても無意味なのだ。

 

 多輝は出来るだけ表情を変えないように気をつけながら優一郎に近づいた。身軽に隣の椅子に腰を乗せる。

 

 今の優一郎や自分と過去の彼らを同一視するのは間違っている。彼らは自分たちの魂の前身であるかも知れないが、自分たちそのものではない。だが少しずつ記憶が蘇るたび、多輝は以前の自分と今の自分が全く同じなのではないかという錯覚に囚われつつあった。

 

 優一郎が不安そうに多輝に呼びかける。考えを中断して多輝は何だ、とそっけなく告げた。

 

「何かあったんですか? 様子がおかしいですよ?」

「んな訳ねえだろ。それより、さっきの手伝いだけど」

 

 即座に切り返して多輝はにやりと唇を歪めた。

 

「いいぜ。手伝っても。……大体、おれは別に迷惑なんて言ってないだろが」

 

 心配性だな、と笑ってから多輝は紅茶を飲み干した。何か言いかける優一郎を制して続けて告げる。

 

「それに由梨佳先生の修理が早く終われば、その分、おれが早く楽しめるってことだろ?」

 

 とにかく支度しないとな。そう言ってから多輝は椅子から飛び降りた。空のカップを流しに突っ込んでシャワールームに急ぐ。ドアを閉めた時、優一郎が何かを言っていた気がしたが、多輝はそれを無視して歩き出した。

 

 今さら謝ったって仕方ねえだろう。それに謝らなきゃならない相手は優一郎じゃない。多輝は心の底で自分にそう言い聞かせた。

 

 ごめんね、せつな。ごめんね、傍にいられなくて。ごめんね、騙して。ごめんね……。女の声が胸の中にさざなみのように蘇る。多輝は苛立ちに任せて廊下の壁を思い切り殴った。鋭い音と共に壁にこぶし大のへこみが出来る。

 

「うるせえ!」

 

 多輝は怒声を発して廊下に足を止めた。ドアの向こうで優一郎が聞いているかも知れないという考えが脳裏を過ぎる。だが多輝は我慢出来ずに叫んだ。

 

「おれにどうしろってんだ! おれはお前じゃない!」

 

 どんなに感覚が近くても、たとえ魂が転生したものでも、それでも自分は違うのだ。多輝はその思いを込めてもう一度、壁にこぶしを打ちつけた。二、三度殴ってから額を押さえて壁に寄りかかる。感覚そのものを過去の記憶に持っていかれそうになったのだ。必死で抗う多輝の元に慌てたように優一郎が駆けて来る。

 

「やっぱり、何かあったんですね? 話していただけますか?」

 

 勢い込んで訊ねた優一郎をちらりと横目に見やり、多輝は首を横に振った。何でもない。そう答える。するとそれまで優しげだった優一郎の表情に険が差す。

 

「先輩、話してください」

 

 言われた瞬間、多輝はぴくりと眉を上げた。抗えない力が言葉に宿っているのがわかる。多輝は大きく息をつきながら身体の力を抜いた。ずるり、と壁伝いに多輝の身体が廊下に沈む。慌てた声を上げて優一郎が多輝の身体を支える。多輝は閉じていた目を片方だけ開けて間近にいる優一郎を見た。

 

「強引、だよな。なんか」

 

 そう言いつつも多輝にはもう抵抗する気はなかった。目を覗き込まれて苦笑する。どうして優一郎はいつも真っ直ぐなのだろう。そんなことを思いながら支える優一郎の手をやんわりと解く。心配そうにする優一郎に大丈夫だから、と告げて多輝は身体を起こした。壁に手を当てて少しずつ前に進む。ほんの僅か、過去の記憶と接触しただけで酷く体力を消耗してしまっている。

 

 多輝は優一郎を促して私室に戻った。パジャマを脱いでベッドに放り投げる。下着一枚になった多輝はたんすから適当な服を取り上げて手早く着込んだ。それからベッドに腰を下ろして優一郎に目配せする。優一郎は多輝の示した通りに机の中から椅子を引き出した。鞄を膝に乗せてじっと多輝を見る。多輝は視線を感じつつもあえて目を合わせずに天井を仰いだ。

 

「どっから話せばいいのかな。ずっと昔のことだから」

 

 例え前世の魂がせつなという少年のものであっても、優一郎は多輝とは違って魂の過去の記憶を殆ど思い出してはいない。だからきっと話しても意味はないだろう。そうは思ったが、話せと言われた以上、黙ってもいられない。多輝は腹をくくって夢に見る二人のことをぽつぽつと話し出した。




転生物の様相になってきましたw
いやまあ、元々そんな感じだったのですが……。
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