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夢に見ただけなのだから本当にそうだったという保証はない。そう言ってから多輝は自分が夢に見たあらゆる光景を説明した。まずは話を全部聞こうということなのだろう。優一郎は合鎚を打つだけで質問はしてこない。多輝はそのことをありがたく思いながら話を進めた。
出てくる人物は必ず二人。そして多輝は必ず二人のうちの片方に近い視点で夢を見る。それ故に多輝は自分の前身である彼女がどういった姿をしているのかをはっきり見たことがない。逆に少年であるせつなの容姿はいつも目に入っていた。
せつなは優一郎に嘘のようにそっくりだ。優一郎の幼い頃は殆ど同じ容姿をしていたのではないだろうか。それくらい二人は酷似している。
「これ、夢だからさ。絶対ホントって訳じゃなくて」
そう言ってから多輝はちらりと優一郎に目をやった。優一郎は話を聞き始めた時と同じ穏やかな表情をしている。
「そのがき、どうもお前に似てる……ような気が、するんだよ」
夢に出てくる少年が優一郎の前世の姿だということを、多輝はこれまではっきりと言ったことがなかった。それとなく告げてしまったことは何度かあるが、その時の多輝はまだ過去と現在との区別が出来ずに混乱していたのだ。だが今ならはっきりと過去だとわかる。だからせつなが優一郎の前世の姿であるとどうしても言えないのだ。
ためらいがちな多輝の言葉に優一郎がふわりと微笑む。それで、と話を促されて多輝は困惑した。
「それでって言われても、それだけなんだけど」
多輝はそう言って唇を尖らせた。だから言いたくなかったんだ。そうも言ってみる。告げたところで何が問題なのかを優一郎は理解できないだろう。そう思ったから今まで話さなかったのだ。
「先輩はその人物と僕になんらかのつながりがあると思ってらっしゃるんですね?」
転生前の姿だったとか。優一郎は何気なくそう付け足した。言わずにおいたことを先回りして告げられ、多輝は思わず言葉に詰まった。思い直してすぐに首を横に振る。だがほんの些細な間の意味をきっちり読み取ったのだろう。優一郎がため息をついて目を細める。嘘は駄目ですよ。無言の命令に多輝は力なく肩を落として息を吐いた。そんなに読まれやすい顔をしているつもりはないんだけどな。苦し紛れに告げるが優一郎が譲歩する様子はない。仕方なく多輝はああ、と頷いてみせた。
「おれは他のやつらみたいにはっきりと龍神だって自覚がある訳じゃない。持ってる情報も極端に少ないと思う」
でも、あの夢は多分、嘘じゃないような気がする。多輝は胸を押さえて絞るように声を出してそう続けた。実際、話している間に段々と胸が苦しくなってきているのだ。話をすることにより、さらに強く過去の記憶と感覚が混ざっているらしい。多輝はぐらつく頭を支えるために身体を後ろに傾けた。半ばぶつけるようにして頭を壁にもたせかける。そうすると少しだけ気分が落ち着いた。
夢で見るせつなの笑みを思い出す。その笑顔を守りたいとずっと思っていた。どんなに詰られても、謗られても、あの笑顔さえ守れればそれで良かったのだ。例え同族に汚されても、それでも良かったのに。
急激に感覚がある方向へと引っ張られる。多輝は自分でも気付かないうちに低い呻き声を発していた。訝りに眉を寄せた優一郎が静かに立ち上がる。だが多輝にはそのことすら感知できなくなっていた。
誓約者を狩れという命令が龍神全体に下った直後、彼女は真っ先にせつなを探した。いつもの滝のいつもの石の上にのんびりと座っているせつなを見止めた時、彼女は決心した。そうだ。自分たちの愚かな戦いに巻き込んでしまってはいけない。例えせつなに人ならぬ力があったとしても、それはせつなの責任ではない。世界が望んだ結果だ。それならば世界に従うべく生きている龍神たちが誓約者の彼らに手をかけるのは間違っているのではないか。
いや、理由など何でも良かった。我侭だということも判っていた。それでも彼女はたった一人、せつなだけを守りたかったのだ。
ぼくのことを嫌いになったの?
まだ幼いその顔に不安を浮かべてせつなが問う。その問いに彼女はそんなことはないと告げた。これから先、どんなことがあっても自分はせつなを大切に思っている。彼女は精一杯の気持ちをこめてそう伝えた。だがそう言えるのはこれが最後だと彼女は心のうちでは思っていた。
「嫌いじゃない……わたしはずっとあなたを……」
多輝は虚ろな眼差しで小さく呟いた。多輝の感覚はこの時、過去に生きた自分の魂に完全に重なっていた。自分でも判らないままで様々なことを口にする。多輝が無意識に口にしたのは彼女の心情の断片だった。
不意に耳元で声がする。多輝ははっと我に返って目を上げた。いつの間にか傍に優一郎が立っている。
「実験は今日は辞めておきましょう。顔色が真っ青ですよ。それに……」
そう告げて優一郎は多輝に指を向けた。指差された多輝は訝りをこめて優一郎を見つめ返した。
「少なくとも服を着替えたほうがいいと思いますよ」
苦笑混じりに言われて多輝はのろのろと視線を下げた。確かに言われた通り、いつの間にか服が大きくなってしまっている。変だな、と呟いたところで多輝はようやく気がついた。自分の声がさっきより高くなっている。服が大きくなっているのではない。自分の身体が一回り、小さくなっているのだ。
多輝は不器用なので折り合いをつけることが出来ませんw