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最初は抵抗していた多輝だったが、結局は自分から進んで優一郎を求めた。貪るように優一郎と交わった後、身体が満足すると同時に多輝は男に性別を変化させた。裸のままで優一郎と向き合う羽目になった時のことを思い出し、多輝は呻きながら頭をかいた。今ひとつ、性別の転換が上手くできない。自分の意志で出来ればいいのだろうが、今のところはそれは無理なようだ。多輝はうんざりしながら大きなため息をついた。
不思議なことに行為の後に男に戻った多輝を見ても優一郎に動揺した様子はなかった。ひょっとしたら変質する様を目の当たりにしているために驚きがないのだろうか。そんなことを考えてから多輝は頭を振った。今は実験中なのだ。意識を逸らし過ぎれば踏み潰されてしまう。多輝は片手に乗せた巨大なロボットの足を見上げて再度、ため息を零した。
「おーい。いつまでこうしてりゃいんだよ。いいかげん、腕が疲れたぞ」
多輝は上に伸ばした手の先でロボットの足を支えていた。ロボットは力の限りに多輝を踏み潰そうとしているのだ。ロボットの操縦者は如月要。清陵高校の生徒会長だ。だが要には足元の多輝は認識できていないらしい。全力で目標を踏むように、とだけ指示されているのだ。
『申し訳ありませんがもう少し我慢してください』
スピーカーから流れてきた優一郎の声はいつもと少し違って聞こえる。他人行儀な声色に多輝はこっそりと息を吐いた。やれやれと持ち上げた腕を見上げてみる。鈍色のロボットの足裏は時折、多輝の手を支えにして震えている。いや、正確に言えば多輝の手を踏み潰そうと力をかけているために不安定に揺れているのだ。
「我慢はいいけどさ。いいかげん飽きてきたぞ」
思わずそう呟いて多輝は首を軽く鳴らした。スピーカーから聞こえてくるのは優一郎の声だけではない。先ほどから繰り返し憤怒の声が聞こえているのだ。
『くぬっ、くぬっ! なっ、何で潰れませんの!?』
苛立ちのこもった要の声が降ってくる。命令に従って要は全力で多輝を踏み潰そうとしているのだ。が、多輝が手に力を乗せているためにどうしても足を下ろしきれずにいる。こうして三十分ほど同じ姿勢でいるのだが、多輝と違って要に疲れた様子はない。それも当然だ。要は生身でロボットを支えているのではない。あくまでもロボットを操縦しているに過ぎないのだ。
ま、あそこは消耗するかもな。要の操縦法を思い出して多輝は意地悪い笑みを浮かべた。実験の前、優一郎はロボットについての説明を行った。その説明には要が搭乗した後、どうやってロボットを操るかの話も含まれていたのだ。要は機械仕掛けの女性器にコネクタを挿入し、思考とロボットのシステムを直結されているのだ。女性器にペニスのように異物を挿入された状態で三十分が経過しているのだ。今は要も怒りに任せてロボットを操っているようだが、それもいつまでもつか。多輝は要が今からどんな状態になるかを想像してひとしきり笑った。
足の下に入る前に見たロボットの外観を思い出す。巨大ロボットのデザインは基本は円筒形だ。関節部を覆う蛇腹の金属以外の部位は鈍く深い闇色をしている。グラウンドのど真ん中に据えられた巨大ロボットの各所からは、データ計測用のコードが何本も伸びている。全長は二十メートルくらいあるだろうか。そしてロボットから少し離れた場所にプレハブの小屋が建っている。これが優一郎のいる仮の司令塔なのだ。多輝は肩越しにちらりと小屋を振り返り、ひらひらと片手を振ってみせた。
『そろそろ要さんのほうが限界かな』
スピーカーから笑い混じりの声が聞こえてくる。プレハブ小屋の傍にたつスピーカーから流れる音声は要の耳には届いていない。要は機体のあらゆるサーチ能力を意図的に切断されているのだ。優一郎から要への指令は、要の機体に直接送信されている。対する多輝の頭部にはプレハブ小屋に一方通行で通じる通信用ヘッドセットが装着されている。口許にある小さなマイクに多輝は再び声を送った。
「じゃ、予定通りに結界展開するぞ」
そう告げて多輝は指示を待った。数秒後、優一郎がスタートの合図を送ってくる。多輝は目を閉じて深く息を吸い込んだ。一気に多輝の周辺の空気が蒼白く燃える。多輝は力を編み合わせた直後、目を開いて結界を展開した。
ロボットの周辺に不可視の壁が現れる。多輝は素早くロボットの足の下から移動した。軽く地面を蹴って飛び上がる。途中でロボットの胴体部を蹴って反動をつけ、多輝はひらりとロボットの頭頂部に着地した。要は唐突に目標を見失って焦ったのだろう。ロボットが手足をばたつかせる。多輝はロボットの頭部から突き出ているアンテナらしきものを支えに器用に身体のバランスをとった。
今日はクラブ活動の生徒たちも全て追い出されている。グラウンドだけではない。校舎や講堂で活動している筈の生徒たちも全員だ。しかも教師の全ても休暇を出されており、事実上、学校にいるのは優一郎と要、そして多輝、残りの二名は要の従者らしきものだけとなっている。
生身の多輝と巨大ロボットの勝負? です。