※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

166 / 262
エピタイ通りです~。
エロシーンはありません。


十章
お仕置きは念入りに 1


 その日も火藍は順のベッドで目を覚ました。夜から朝にかけて互いに激しく求めて交わっていたからなのか、順はベッドの中で熟睡していた。しばらく目を閉じて火藍は息を潜めた。

 

 順の胸元に指を伸ばす。開いたパジャマの内側に火藍はそっと指を忍ばせた。左胸に刻まれていた傷は跡形もなくなっている。ほっとして息を吐いた火藍は目を開けた。順は火藍を抱えるようにして安らかな寝息をたてている。火藍は順を起こさないよう、そっと腕を外してベッドを抜け出した。

 

 でも応急処置でしかないからね。立城の言葉が胸の奥に蘇る。それでも順の痛みが消えればいいと思った。火藍は無言で順を見下ろして痛ましさに目を細めた。仮の処置で痛みがなくなっている間に順に施された力を断てばいい。火藍はそう考えていたのだ。

 

 だがそれは安直な考えでしかなかった。確かに順の感じる痛みは一時的になくなったかも知れない。だが決して消えてしまった訳ではないのだ。順の胸の内には未だに強い力がこめられている。

 

 力で構成されているにも関わらず、他者の力に介入することが出来ない。ジレンマに火藍はしばし顔を歪めた。情けなさに眉を寄せて順から目を逸らす。すると目の端に見慣れた色が留まった。順が枕元に宝珠を置いていたのだ。

 

 取り込めばいいだろうに。火藍は唖然として宝珠と順を見比べた。その緋宝珠は順を苛む痛みが少しでも和らげばいい、と火藍が自分で順に手渡したものだ。だが順はどうやら体内に宝珠を取り込んでいないらしい。どうして、と火藍は思わず呟いた。取り込んでしまえば順の意志を無視して出すことは出来なくなる。だが火藍はそれを覚悟して渡したのだ。

 

 律儀なのか、それとも何らかの意図があるのか。火藍はじっと宝珠を見下ろしてしばし考え込んだ。だがどれだけ考えても順が何を思っていたのかが判らない。しばらくして火藍はそっとため息をついた。宝珠に静かに手を伸ばす。

 

 指先が宝珠に触れる直前、順がおもむろに寝返りをうった。見咎められた訳でもないのに火藍はその場に硬直した。指先が微かに震える。

 

「んー……火藍……」

 

 はっきりとしない口調で順は小さく火藍を呼んだ。まだ眠りの中にいるのだろう。それだけ告げるとまた寝息を立て始める。火藍は緋宝珠と順を見比べて苦笑した。手を戻して掛け布団をつかむ。そっと布団をかけ直して火藍は順に背を向けた。

 

 悪いな、借りるぞ。囁きで告げて火藍は椅子にかかっていた順のシャツを取り上げた。この部屋を訪れた時から火藍は裸のままでいたのだ。白いシャツに腕を通してボタンを留める。まだ朝も早い。行き来する使用人もいないだろう。そう踏んで火藍はシャツ一枚だけ着て順の部屋を出た。

 

 ドアを静かに閉める。ゆっくりと振り返った火藍は驚愕に目を見張った。枕を両腕に抱えた水輝が壁にもたれて立っていたのだ。

 

「み、ずき? 何故、こんなところに」

 

 出来るだけ小声で火藍は問い掛けた。水輝は淡いブルーのネグリジェに身を包んでいる。だが今起きた訳ではないらしい。水輝の目は真っ赤になっていた。不機嫌そうに唇を尖らせて火藍を睨んでいる。

 

「それはこっちのせりふよ。こんなところで何をしていたの」

 

 火藍に合わせて水輝が潜めた声で告げる。囁き声だったが、その口調は嫌に強い。火藍はうろたえて背後のドアと水輝とを交互に見た。こんなところで騒いだら順が目を覚ましてしまう。火藍は肩を怒らせて立っている水輝の腕を無造作につかんだ。嫌がる水輝を強引に連れて歩く。火藍は二人に割り当てられた部屋に入り、水輝をソファに座らせた。

 

「まだ早朝なんだ。あんまり大声を出さない方が」

「火藍、あの変態と何してたのよ!?」

 

 全て言い終える前に水輝が声を荒らげる。どうやら水輝は忠告を聞く気はないようだ。そのことを理解して火藍は深々とため息をついた。額を覆って俯いた火藍に水輝が更に声を張る。

 

「あたしが眠ってからベッドを抜け出してるの、判ってるのよ!?」

 

 水輝は半泣きになりながらソファから腰を上げた。窓際にぼんやりと佇んでいた火藍の許に大股で歩いてくる。火藍はのろのろと顔を上げて横目に水輝を見やった。肩を怒らせて涙を目に溜めた水輝が何故か自分の知らない誰かに見える。

 

「少し落ち着け。前にも話しただろう? 怪我をしていると」

「それは……聞いたけど」

 

 疲れた息をつきながら告げた火藍の言葉に水輝が眉を寄せる。枕を抱きしめて不服そうな顔をすると、それだけで随分と子供っぽく見える。火藍はふう、と息を吐いて水輝の頭に手を乗せた。軽く撫でて苦笑を浮かべる。

 

「わたしは治療をしているだけだ。放置しておく訳にもいくまい?」

「でも」

 

 まだ納得はしていないらしいが、水輝の口調からは険が消えている。変わりに不安そうに火藍を見つめ、水輝は首を横に小さく振った。瞬きをすると目に溜まっていた涙が頬を流れて落ちる。

 

「あたしだって……」

 

 怪我はしていないけれど自分には火藍が必要だ。水輝は言葉を途切れさせながらそう告げた。それを聞いた火藍ははっと目を見張った。水輝の頭を撫でていた手の動きが自然と止まる。

 

「苦しくて、辛くて、でもどうしようもなくて」

 

 どんなに姿形が以前と同じでも、水輝の身体は紛れもなく機械なのだ。そして順の説明によれば、ヒューマノイドは性的な快楽がなければ維持できないという。そのことをすっかり忘れていた火藍は動揺した。水輝は言葉を濁したが、きっと耐え切れずに自慰を繰り返していたのだ。




両方機械なのですが……なかなか難しいです(泣)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。