※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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エロ……ではないけど……w
ラブシーンではある? のかな?


盛大な茶番 3

 キャミソールとストッキングをつけて床に降りる。早速、と多輝はワンピースを由梨佳に差し出した。由梨佳は頷いてワンピースに腕を通した。測ったように身体にぴったりと合うサイズだ。背中の長いファスナーを多輝が上げる。由梨佳は邪魔にならないように髪を一まとめにして胸の前に垂らした。

 

 腰の後ろでリボンを結ぶ。ふっくらと盛り上がった袖山から緩やかなカーブを描いて袖口に繋がっている。そのラインを見ながら由梨佳はほう、とため息をついた。生地の肌触りはとても柔らかい。今までに着たことのある服の中でも一番にいいかも知れない。由梨佳は袖を軽く撫ぜてから襟元に触れた。濃いブルーの丸い石が襟元にはあしらわれている。石を縁取っているのは金色の台座だ。ピンで留められたその石を由梨佳はしばし見下ろした。

 

「似合うよ。由梨佳先生」

 

 心底嬉しそうに言いながら多輝は由梨佳の髪を指で漉いた。これもね、と続けて由梨佳の髪にリボンをつける。そのリボンもワンピースとお揃いの色だ。

 

「ちょっとわたしには派手すぎないかしら?」

「そう? 可愛いよ」

 

 由梨佳先生、今まで気にしなさ過ぎだよ。そう続けて多輝は笑った。本当はとても可愛いのに。そう告げて由梨佳に笑みかける。

 

「地味な服ばっか着てたんじゃないか? 今まで。本当はこんなのも似合うのに」

 

 そう告げて多輝はふらりとその場から姿を消した。由梨佳は戸惑いながら多輝が戻るのを待った。しばしの後、戻った多輝は大きな姿見を抱えていた。由梨佳の前に鏡を置いて頷く。由梨佳は恐々と鏡を覗いた。

 

 鏡の中に映った自分の姿に由梨佳ははっと目を見張った。トルマリンブルーのワンピースは由梨佳が思う以上によく似合っていたのだ。胸元の青い石もその姿によく映えている。

 

「ほら、な? 似合うだろ?」

 

 どうだ、と言わんばかりに多輝が告げる。由梨佳は呆然と鏡を見つめた。白いストッキングも、愛らしい靴も、そして髪に結んだリボンも自分が思っていた以上によく似合っている気がする。

 

「なんだか、昔に戻ったみたい……」

 

 多輝と同じくらいの年頃の時を思い出して由梨佳は目を細めた。鏡の中に映っている姿がまるで昔の自分に見える。あの頃、由梨佳は総一郎と共にいることに懸命だった。好きな相手をどうしても振り向かせたかった。

 

 傍にいられるという立場を確保したつもりだった。が、結果的に総一郎とは離縁することになった。それまでの長い時間に起こった様々な出来事がまるで走馬灯のように脳裏に蘇る。由梨佳は自然と遠い眼差しになり、ぼんやりと鏡の中を見つめた。

 

 不意に視界に別のものが割り込んでくる。昔に思いを馳せていた由梨佳の目の前に多輝が頭を割り込ませたのだ。

 

「そんな暗い顔してどうした? もしかして気に入らなかったのか?」

 

 多輝が不安そうに告げる。由梨佳は慌てて首を横に振った。そうじゃないの、と呟くように口にする。多輝は鏡をスチール棚に立てかけ、気遣うように由梨佳の肩を軽く叩いた。

 

「辛いなら脱いでもいいよ」

 

 無理に着て貰っても悪いから。多輝が笑みを浮かべて告げる。だがその笑みはどことなく寂しそうに見えた。

 

「ううん。なんでもないわ。ちょっと昔のことを思い出していただけ」

 

 だから心配ないわ。由梨佳はそう告げてにっこりと笑ってみせた。由梨佳の昔のことを多輝は知らない。総一郎との出会いも、その後にヒューマノイドとなった経緯も多輝は知らないのだ。

 

「でも」

 

 由梨佳が思った通り、多輝は困ったように眉を寄せている。佇む多輝に由梨佳は黙って近づいた。腕を絡めて多輝の胸に額をつける。多輝は驚いたように目を見張ってどうしたのかと問うた。

 

「昔のことは、もう関係無いもの。これからの事を考えましょう」

 

 これ以上、多輝を悩ませてはいけない。そんな思いから由梨佳は話を切り替えた。これから? 多輝がそう告げて首を傾げる。由梨佳は顔を上げて不思議そうにしている多輝に抱きついた。由梨佳から抱きついてくるとは思わなかったのか、多輝は戸惑ったように腕を上げかけては下ろす。

 

「あの、へんな意味でいったんじゃないのよ! その……」

「変な意味? あ、ああ……えっと」

 

 口ごもった由梨佳に続いて多輝が言葉を濁す。ええと、と呟いてから多輝はゆっくりと腕を上げた。由梨佳が拒絶しないことを了承の意味と取ったのだろう。多輝が静かに由梨佳の腰に手を回す。

 

「えーと、その……由梨佳先生、おれのこと嫌じゃないか?」

 

 頭の上から困惑気味の声が降ってくる。由梨佳はどうして、と笑って多輝の身体に回した腕に力を込めた。何故、多輝は自分が嫌われているかも知れないと思うのだろう。先ほどからそんな質問ばかりだ。由梨佳は小さく笑って首を横に振った。

 

「そんなことありえないわよ」

 

 近くにいるだけでこんなにときめいているのに。傍にいるだけでもっと欲しくなるのに。女だった頃の多輝と今の多輝に対する思いは変わらない。由梨佳はするりと腕を多輝の首に回して背伸びをした。驚きに目を見張る多輝の唇にそっと口づける。多輝はしばしその場に凍りついたように動かなかったが、やがて静かに目を閉じて由梨佳の腰を強く抱いた。




由梨佳は大体、可哀想な感じです。
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