機体の洗浄です。
股間に顔を伏せていた野木は慣れた手つきで機体を修復している。要はぼんやりとその様子を眺めていた。淡々と作業をこなす野木はいつもと変わりなく見える。補佐をしている周藤もやはり同様に平然としている。要はそっと息をついて起こしていた首を戻した。台に頭を戻すとやけに明るい蛍光灯の光が目に飛び込んでくる。
金属の触れ合う音が聞こえた後、ぬるい感触が股間に生まれる。スポイトを使って野木が機体の内部に滞った陰唇を洗い流しているのだ。だが修理されている要の感覚は調整済みで、女性器に触れられていても性的に興奮はしない。要は光の眩しさに目を細めてちらりと横を見た。壁にかかる時計の針は深夜の二時をさしている。
昼間に行われた実験はどうやら成功したらしい。だが要は納得していなかった。唐突に与えられた快楽の深さが未だに身体に残っている気がする。コックピットにいた要には殆どの視界を遮られていたため、実際に攻撃していたのが誰かを知らない。届く音は優一郎の指示を通すスピーカーに限られていたし、ロボットを操作するのが要には精一杯だったのだ。
目標と示されたのは青の四角い箱に見えた。最初はそれを踏んで潰せと言われたのだ。だが要がどんなにロボットを操っても箱は潰れなかった。それどころかロボットの足を受け止めてしまったのだ。
躍起になって要が踏み潰そうとしていたあの時にそれは起こった。要には何が何だかさっぱり判らなかった。目前に唐突に巨大なロボットが出現し、いきなり殴りかかってきたのだ。要は足元の目標の存在も忘れ、目の前のロボットの伸ばした腕を避け、反撃を開始した。なのにどんなに要が素早くロボットを動かしても攻撃はかすりもしなかった。
だがすぐに巨大なロボットは消えた。その代わりに要の機体には異変が起きた。突然に身体を何かが這いまわり始めたのだ。それまで感じたことのあるどんな感覚とも違っていた。要はその時のことを思い出してため息をついた。
一気に激しい快楽に引き込まれた要は操縦桿を握っているのが精一杯だった。何故かその頃になると優一郎からの指示も途切れ、要はどうしていいのか判らなくなっていたのだ。制服の中を得体の知れない何かが這い回り、挙句に下着の中にまでそれは侵入してきた。あらゆる部位を愛撫された要は快楽に喘ぐことしか出来なかったのだ。
やがてコネクタではない別の物が膣内に侵入してくる。要がより強く感じる膣の奥をそれは執拗に弄っていた。その感覚を思い出して要はぶるりと身体を震わせた。まるで生き物のように膣内を這い回っていたあれは一体、何だったのだろう。
「要様? いかがなされましたか」
心配そうに野木が声をかける。要は何でもないのよ、と微笑んでみせた。一度、作業の手を止めていた野木が曖昧に返答してまた顔を伏せる。今の要の女性器は大きく口を開かれて機械部分が露出されている。かなりの快楽を一度に与えられたために負荷がかかり過ぎて各所に障害が発生しているのだ。こうなると壊れた部品の一つ一つを交換しなければならない。こんな時間まで二人が要の機体を修復しているのはそのためだ。
本来、込み入った修理になると優一郎が直に要を診ることになっている。が、いつもそうしている訳にはいかない。優一郎も決して暇な身ではないのだ。要は今回の機体修理は是非二人にさせてくれないかと優一郎に申し出た。優一郎はあっさりとそれを承諾し、そして今に至っているという訳だ。
要の機体の些細な修復や洗浄作業についてならば二人は既に慣れている。今はもう、部品の交換も終了したために作業は順調に進んでいるようだ。要は野木と周藤を交互に見やって静かに笑った。数時間前の混乱が嘘のようだ。
優一郎の手を借りたくなかった理由は他にもある。煽られるだけ煽られた要は自身の情欲を止める自信がなかったのだ。優一郎に触れられてしまったら、たとえ壊れていても抱かれたいと思うだろう。そんな自分の浅ましさを要は情けなく思うと同時にそれがヒューマノイドの本質なのだと納得した。
だが例え納得したとしても実際に優一郎に迫る訳にはいかないだろう。それに口実にはしたが、二人が修復作業に慣れる必要もあるのだ。
「申し訳ありません、要様。こんなに長引いてしまって」
心底、すまないと思っているのだろう。周藤がトレイを両手に支えたまま頭を下げる。続いて野木がすみません、と詫びる。要はそんな二人に微笑んで首を横に振った。二人が尽力してくれているのは見ている要にもよく判っている。そんな二人を責める気にはなれない。
あの時、要は確かに制服を身につけていた。ロボットと接続するためにコネクトを女性器内部に入れるため、ショーツだけは外していたが他はいつも通りだった。なのに快楽に引き込まれたあの後、要の制服はひとりでに脱げてしまった。快楽に溺れさせられていた要がそのことをはっきりと変だと感じたのは実験が終了した後だ。魔法のようにボタンがひとりでに外れて、肌が露になる。正気であれば要は悲鳴の一つも上げていただろう。
あれは人の力ではないのではないか。要は実験が終わってから優一郎にそう問い掛けた。だが優一郎は言葉を濁すだけではっきりと答えをくれなかった。要の知らない何かが実験に関わっていたことは確かだ。
「では、うつ伏せになって頂けますか?」
女性器の修復は終了した。野木に言われるままに要は姿勢を変えた。肘から下を台について腕に頭を乗せる。要は膝を立てて腰を上げた。女性器の後ろにある肛門に野木が指をあてがう。要は息を潜めて出来るだけ身体の力を抜いた。
野木は透明な細いチューブを要の肛門に入れた。ゆっくりと要の体内にチューブが進んでいく。チューブを三十センチほど要の体内に入れたところで野木は手を止めた。最初から潤滑油が塗りつけてあったからか、チューブを入れられた要は痛みを感じることはなかった。
全長約一メートルほどのチューブの途中にはポンプがつけられている。そのポンプを片手に握っているのは周藤だ。周藤は野木が頷いたところで手の中のポンプを少しずつ押し始めた。空気の弁が開いてチューブの中を洗浄液が通る。ゆっくりとした洗浄液の流れを体内に感じ、要は目を閉じて額を強く腕に押し付けた。
要の肛門の奥、人でいう直腸内部には様々な機械が詰められている。剥き出しにはされていないため、こうして洗浄液を流し込んでも機械が壊れることはない。が、物理的にペニスのような太いものを挿入できる構造にはなっていないのだ。それ故に洗浄する際もブラシなどを入れることが出来ない。例え入れたとしても複雑に入り組んでいるために隅々まで洗浄するのは不可能なのだ。
しばらくして要は周藤に制止の合図を送った。腸内に液体が満たされたのだ。周藤が頷いて手を止める。野木は立ち上がって要の腕を支えた。体内に満たされた液体を一度抜かなければならない。要は野木の手に捕まりながらゆっくりと台を降りた。
足を軽く開いて立つ。要の肛門から伸びたチューブを途中で押さえ、周藤がポンプや洗浄液の入ったタンクを外す。野木はその間に大きなたらいを用意した。器具の外れたチューブの先端をたらいの中に入れ、跳ねないように縁と一緒につかむ。
「要様、準備できました」
おもむろに言われて要は頷いた。自然と顔が赤くなる。これはある意味で排泄行為に近い。要にしてみれば女性器の修復作業の方が恥ずかしくないのだ。だが洗浄を怠ればそれだけで機体には障害が発生する。要は覚悟を決めて目を閉じた。
臀部にこめていた力を一気に抜く。要の肛門から伸びたチューブを勢いよく液体が通っていく。透明な洗浄液に混ざって白い液体がチューブを下ってたらいに注がれた。生身の時に感じていた独特な解放感に襲われる。要は思わず深い息をつきながら天井を見上げた。
腸内の洗浄は三回行われた。全ての修復作業が終了したのは明け方近くだった。要は疲れた身体を引きずるようにしてベッドに入った。優一郎から借り受けた研究室には三人分の簡易ベッドが設えられている。まず要が先にベッドに入り、その脇に二人が並んで立つ。
「それではおやすみなさいませ、要様」
「おやすみなさいませ」
二人が深々と一礼する。要はおやすみ、と答えて目を閉じた。だが自然な眠りが要に訪れることはもうない。横たわった要の腹に野木が手を伸ばす。良い夢を、と決まり文句のように言われて要は苦笑した。
もう、二度と夢を見ることはないのね。胸の内で呟いた時、要の意識は暗転した。
夢を見るかどうかは色々こう……事情によるというか。