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その日も奈月はラスティに怒鳴られながら魔法の修行をしていた。ラスティは相変わらず口が悪く、少しでもミスするとすかさず大声を張って奈月をこれでもかと言わんばかりに叱り付ける。だが声の大きさに驚きはするものの、ラスティが実際にはとても心配しているのだと奈月には判っていた。
あの日、壁をぶち抜いた後、ラスティは奈月に提案をした。魔法の修行には室内では狭すぎる。異世界の門を開くから少しの間自分たちのところに来ないか。ラスティのそんな申し出に奈月はすぐに賛成した。
ラスティと共にいた間に一度だけ大雨が降った。その時に水輝から奈月へとメッセージが届けられたのだ。それに最初に気付いたのがラスティだったのは、恐らく水輝がそう仕向けていたからだろう。メッセージの内容は実に簡潔で、自分が迎えに行くまでラスティと共にいろというものだった。それまで水輝の意図が判らずに奈月は苦しんでいた。が、そのメッセージを目にした瞬間に奈月の苦しみは解消された。
「あのばか、よくよくあんたが大事なんだなあ」
メッセージを受け取った奈月に呆れたようにラスティが告げたのがとても印象的だった。水輝に対してばかと言ったことについては少し思うことがあったのだが、それを無視して奈月はラスティに微笑んだ。その笑みをラスティがどういう意味にとったのかは判らない。だがラスティは困ったように笑って奈月の頭を乱暴に撫でた。
水輝はラスティと共にいろと言った。それは恐らく魔法というものを学べという意味も含まれていたのではないか。奈月は生真面目な面持ちで宙を見つめた。その途端にひとりでに動いていたペンの動きがぴたりと止まる。
「って、また別のこと考えてるし! もうちょっと集中しろって言ってるだろ!?」
目ざとく奈月の手元で止まったペンを見つけたのだろう。ラスティが声を荒らげて顔をしかめる。はっと我に返った奈月は慌ててごめんなさいと頭を下げた。その途端、額が強く机とぶつかる。派手に打ち付けた額を押さえて奈月は目に涙を浮かべた。
「……あんたさあ。俺が見てるだけでもちょくちょくそうやって怪我してるけど」
呆れたように言いながらラスティが腰を伸ばす。ラスティは奈月がついているテーブルの近くで薪割りをしているのだ。額に滲んだ汗を袖で拭い、ラスティは斧を担いで奈月に近づいた。
「ほら、手を退けろ。……怪我したら痛いんだろ? 普通に」
情けない顔で手を退けた奈月の額にラスティが指先を乗せる。導かれた銀色の光が瞬く間に奈月の傷を塞いだ。人工の皮膚の赤くなっていた部分にひんやりとした心地の良いものが触れる。
「ありがとうございます」
ほっと息をついて奈月は素直に礼を述べた。別に、というラスティのぶっきらぼうな声が返ってくる。
機械仕掛けの身体でも傷を負えば痛い。そのことを奈月はぽつりぽつりと語った。いつだったか水輝が同じようなことを言ったことがある。例え機械だとしても痛いんだろう? 水輝と出逢ったばかりの頃、奈月は義兄に毎日のように乱暴されていた。時には皮膚にはっきりと傷がつくほどに殴られたりもした。人とは違い、ヒューマノイドには自然治癒能力はない。傷を受けたら修復作業が必要になる。奈月は義兄に隠れて一人で傷を修復し、何事もなかったかのように朝になれば学校に赴いた。そんな奈月に水輝が先のラスティと同じように告げたのだ。その時のことを思い出して奈月は時折言葉を詰まらせた。
「ふうーん。ひゅーまのいど、ねえ。機械とかってあんまり判らないが……ええと、向こうで言ったらてれびとかみたいな?」
ラスティが難しい顔で考えこむ。どうやらラスティは本格的に機械の類に詳しくないようだ。だがそれも当然だろう。何しろラスティの生きるこの世界には機械らしいものが殆どない。国の中心である城周辺には機械らしきものがあるようだが、個人の家などでは滅多に見られないという。テレビは勿論、パソコンも当然ないし、電子レンジや冷蔵庫といった調理関係の家電もない。
その代わりをしているのが魔法なのだ。奈月はほう、と息をついて苦笑した。
「そうですね。テレビとか車とかいろんな機械があります」
だがそれらの家電とヒューマノイドは根本的な構造が違う。機械が入っている器という意味では同じだが、ヒューマノイドを動かしているのは基本的には人の脳だ。だが元々、家電の知識がないラスティに説明するのはとても難しい。奈月は出来るだけ噛み砕いた説明をしようとした。それなのにどうしても上手い説明の方法を見つけられない。奈月は困った顔でしばし黙り込んだ。
「ああ、そっか。俺たちの世界とあんたのところではかなり違うもんな。いや、悪い。無理に説明しなくていいから」
相当に難しい顔をしていたのだろうか。奈月が何かを言う前にラスティは苦笑しながら片手を上げた。
「とりあえず、難しい説明を抜きにして言えば、わたしは人形なんです」
機械だと思うから説明が出来ないのだ。要するに自分は人形なのだという結論に落ち着いた奈月はそう告げた。するとラスティが首を傾げる。
この辺りで頑張って説明を書こうとしているのですが、まだ機械がちゃんと書けていないですね……。