※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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ラスティが頑張って理解しようとしていますが、微妙にずれています。
エロシーンはありません。


魔法の修行と機械の話 2

「……少なくとも俺が知ってる人形ってのは、あんたみたいに勝手に動いたりしないもんなんだけどな」

 

 魔法をかければ別だけど。ラスティはそう続けて宙に手を差し伸べた。ゆらりと空気が揺れてラスティの手の中に茶色のくまの人形が現れる。ラスティはそれを奈月に差し出した。両腕で抱えられるくらいの大きさのそれを奈月は素直に胸に抱いた。細く短い毛の密集した生地は触り心地がとても柔らかい。奈月はつい、腕に抱いたくまのぬいぐるみに頬をあてがった。滑らかな生地の感触を確かめるように頬を擦り付ける。

 

「魔法をかけられた人形だと思ってください。それが一番近いと思います」

「こんな感じか?」

 

 ラスティが口の中で何事かを呟くと奈月の胸に抱かれたくまが唐突に動いた。俯いていた頭を上げて片手を上げる。いきなり動き始めたぬいぐるみに驚いた奈月は目を丸くしてラスティを見上げた。ふふん、と笑ってラスティがぬいぐるみの頭を指先でつつく。すると動いていたぬいぐるみは元の動かないそれに戻ってしまった。

 

「なるほど。でもそれだとあんたはあのばかに魔法をかけられてるってことになるが、その理解でいいのか?」

 

 今度は難しい顔をしてラスティが呻くように告げる。奈月はラスティがばかと表現したのが水輝だとすぐに思い当たった。胸にぎゅっとぬいぐるみを抱いて、奈月は軽く眉を寄せてラスティを見た。

 

「違います。まったく的外れだというわけでもありませんけど」

「違うのか?」

 

 斧をかついだまま、ラスティは奈月の前の椅子に腰を下ろした。転がっていたペンに指を向けて歌うように呪文を唱える。するとペンはひとりでに起き上がってテーブルに敷かれた紙の上を滑り始めた。奈月が途中まで書いていた文章の続きをペン先が記していく。

 

「まあなあ。あーんな乱暴なやつの魔法なんてかけられた日にゃ、あんただって大変な目に合いそうだし」

 

 何事かを思い出したのだろう。ラスティは楽しそうにくすくすと笑いながら軽く指で宙を弾いた。ペンの動きが一度止まり、次の行の頭に移動する。

 

 奈月は胸にぬいぐるみを抱いたまま空を見上げた。ラスティの家の周囲を覆う木々の葉の隙間から柔らかな日差しが漏れている。地面にじゅうたんのように敷き詰められているのは木々が落とした枯葉だ。ラスティの家は森の中にある。最初に案内された時、奈月は正直に驚いた。ラスティのイメージと森の印象がどうしても一致しなかったからだ。

 

 迷いの森と名付けられたこの森には人は殆ど入ってこないという。現に奈月はこの数日間でラスティ以外の人間を目にはしていない。どうやらラスティには家族がいるらしいのだが、彼らは揃って外出しているようなのだ。

 

「このあたりには他に住んでいる人は居ないんですか?」

 

 小鳥のさえずりに耳を澄ましながら奈月はふとそう訊ねた。ラスティがうーん、と唸ってから頭をかく。だがそうしていてもペンはあくまでも紙に何かを書き連ねている。先ほどの奈月とは雲泥の差だ。

 

「この周辺に限って言えば俺たちの他には誰もいないな。元々、この森は人を寄せ付けないために作られててさ。許可のない者が立ち入ると確実に迷うことになってるんだ」

 

 そう告げたラスティの顔は微妙に曇っている。侵入者を迷わせるという森の特性は本当なのだろう。が、ラスティはその特性自体をあまり良くは思っていないようだ。不思議な気持ちで奈月は静かにラスティの目を見つめ返した。ストレートに見つめすぎたのか、ラスティが困惑した表情で目を逸らす。

 

「どうして、許可のない人ははいってはいけないんですか?」

 

 奈月は胸のぬいぐるみを強く抱きしめた。何故だろう。ラスティが何かをとても悲しんでいるように見える。ちらりと奈月を横目に見てからラスティは深々とため息をついた。

 

「この国はとても閉鎖的でな。未だに外の者を受け入れようとはしないんだ」

 

 そう前置きしてからラスティは森に囲まれたこのタイラード王国の話を始めた。初めて聞くその話はお伽噺のようだ。絵本の中に見るような古い城と着飾った王家の人々の姿が見えるような気までしてくる。

 

 しばらく奈月は黙ってラスティの話を聞いていた。ラスティは淡々と王家の歴史について語っている。どうやらこの森を抱えるタイラード王国ははるか昔からとても閉鎖的だったようだ。王家の人々も近親婚が多いためか、近頃では子供の数そのものが少なくなってきているらしい。

 

 この世界には大きく分けて八つの国しか存在していない。世界の規模は奈月の生きるそれのざっと七分の一といったところか。二つの月と七つの大陸を持つこの世界にもやはり広大な海や湖、河川や池等も存在する。火山もあれば氷河もあり、人の住める平らな土地ももちろんある。しかも植物の種類や生物の種類もほぼ奈月の世界のものと変わらないらしい。現に先ほど昼食に出された焼き魚は鮭にとてもよく似ていた。呼び名は違うが世界を構成するものにはさほど大差はないのだ。

 

 だが各国の係わり方や成り立ちはかなり奈月の世界のそれとは異なっている。この世界の国は守護神と呼ばれる強大な力の持ち主に支えられている。産業、商業、あらゆる面について全てだ。

 

 タイラード王国を除いては。ラスティは苦い顔でそう呟いた。




厨二設定の上にファンタジーが乗ってきます……。
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