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そんな各国から離れた場所に広い大陸がある。寒さの厳しい北の大地の大半は氷に覆われているが、南に寄った場所には幾つかの集落がある。そして不思議なことに氷の大地をも含めた国全体を広大な森が取り囲んでいる。その国の名はタイラード王国。極限られた者しか出入り出来ないと言われる謎の多い地だ。
そしてタイラード王国には他国と違って守護神がいない。それは王と守護神として祀られる予定だった者との間に取り交わされた約束だ。
「かつて王は言った。他国と同様に自国にも守護が欲しい。どうして自国のみが守護から切り離され、別の時を生きなければならないのかってな」
静かに告げてラスティは遠くを眺めた。真剣な表情で話を聞く奈月はずっと胸にぬいぐるみを抱えている。その腕に余計に力が入っているのは、きっと一度で話を理解しようと力んでいるからだろう。
時語りと呼ばれる特殊な能力を持つ者が生まれることがある。それがタイラードの民の特性であり、またそれ故にタイラード国は外の国との接触を極力拒んでいるのだ。何故なら時語りとは文字通り時を語る者を指す。彼らは過去から現在、そして未来を読むという力を持っている。歴史を語り、現在の情勢をまるで見てきたかのように話すことが出来、更にタイラード国だけではなく、世界全体の未来を読んで聞かせる。そんな力を有した存在のことが他国に知れたらどういうことになるか。
たとえ守護神を抱えていても、自国の平穏や繁栄について考えない国王はいない。代々の国王から受け継がれてきた国の歴史についても、過去をそのまま読める者がいればより正確な情報が手に入れられるだろう。現在の国の情勢を知るということは、それだけで諸外国とのやり取りが容易になる。国に暮らす人々が何を求め、何を不満としているのか。もしかしたら国王の権威を狙って陰で動いている者もいるかも知れない。それらの情報が王宮に居ながらにして手に入れられるとしたらどうだろう。
そして未来。時語りたちは過去や現在と併せて未来も語る。国の行く末、人々のこれから行うことについて……それこそ見てきたかのようにつぶさに語るのだ。
「タイラードの王宮の底には常に時語りが幽閉されている。今もずっと彼らは日の当たらない暗い場所に閉じ込められているんだ」
王宮に居ながらにして国王は全ての情報を得ることが出来る。そう続けてラスティはため息をついた。
「それは守護神など要らないという意味だ。だからタイラードには守護神はいない。王は守護を望んだが、その必要はないだろうと……判断した」
言いながらラスティは僅かに眉を寄せた。それが誰にも決して語ることなどなかったタイラードの現状だ。家族ですらラスティはタイラードが現在どういう状態になっているのかを知らせたことはない。だがどうして奈月に話しているのかをラスティ自身もよく判っていなかった。
断罪の主は龍宝珠界には存在しない。どんなに罪を重ねても、それを裁く者はいない。全てを運命という名の天に任せた不安定な世界。それがこの世界の本質だ。そして守護神と言えど、本当は神などではなく、人より少し強い力を与えられているだけに過ぎない。
「どうしてそう判断されたのですか? 本当にあなたの守護は必要では無かったのですか?」
「俺の守護? 俺は聞いた話としてこの話をあんたにしているつもりなんだけどな」
思わず苦笑してラスティは呟くように告げた。奈月はだが真剣な面持ちを崩さずにいる。冗談だと笑う気にはならないらしい。しばし苦笑していたラスティはやがて笑いを消してため息をついた。やれやれと肩を竦めながら軽く空気を指先で弾く。それを合図にしたように止まっていたペンが再び動き始めた。
「判断した。とはっきりおっしゃいましたよね? 嘘は吐かないでください。わたし、わかりますから」
しばしじっとラスティを見つめてから奈月は静かにそう告げた。少しも崩れることのなかった表情がゆっくりと変化する。やがて奈月の顔にはにこやかな笑みが浮かんだ。それまでに見たどんな笑みより穏やかなのに、何故か奈月のその表情には強い意志を感じる。ラスティは無言で奈月を見つめ返した。
何代か前のタイラード王は子供のように泣きじゃくりながらラスティに追いすがった。お願いします、どうかわが国を守ってください。救ってください。助けてください。だがそれらの言葉はどれも上滑りしていた。少なくともラスティにはそうとしか思えなかったのだ。
後に判ったことだが、実際、この王はラスティに助けを求めていた訳ではなかった。国の権威としての守護神の存在を欲していたに過ぎない。そしてあわよくば守護神の力を時語りたちと同じように城内に幽閉しようと目論んでいたのだ。
「俺の力なんてあてにしなくても、あいつらは生きていける。他の国だって本当は守護神なんて要らない筈なんだ」
しばらく奈月と見つめ合った後にラスティは苦しさに顔を歪めながらそう吐き出した。そして不意に理解する。どうして今まで誰にも話さなかったことを自分は話しているのだろう。その答えが唐突にラスティの脳裏に閃いたのだ。
実は龍宝珠界がメインの話は別にあったりします。
ただ原稿がどこに行ったのか判らなくて出せません……w