エロも若干ありますかね? いや、これエロなのかな……。
「ハンターの生命力ってにのはおれでも感心するな。まだ生きてる奴がいるみたいだしな」
そう告げて水輝は無造作に腕を振った。右の肘が壁を叩き崩す。崩れた木製の壁の向こうにいたのは真っ青な顔をした一人の若者だった。金と茶のまだらの髪をした若者は、はみ出した内臓を懸命に裂けた腹に戻そうとしたらしい。手ではらわたを押さえたまま、虚ろな眼差しを水輝に向ける。水輝は肩越しに振り向いて若者に嗤いかけた。
「人を襲う悪い子は君かな?」
口許を歪めて水輝は若者に顎をしゃくった。それまでぼんやりとしていた若者が慌てたように首を横に振る。
「そう、じゃあおれの勘違いか。本来の群れとは別に群れを勝手に作った若い連中が、この辺りで人をばんばん殺してるって聞いたんだが?」
「ちっ、違う! オレじゃねえ!」
必死の面持ちをして若者は首を何度も横に振る。その動きにつられて眼窩からぶら下がった眼球が不規則に揺れる。水輝はぶら下がる眼球と残った左の目を交互に眺めてふうん、と呟いた。
「じゃあ、誰がやったのかな?」
「そ、それはその……」
若者は口ごもって唇をかんだ。水輝とやり取りをしている間にも若者は震える手で腹を必死で押さえている。だがそんな真似をしたところで千佳の作った傷が完全に塞がるにはまだ時間がかかる。水輝は無言で若者に一歩近づくと、唐突に足を振り上げた。
柔らかい内臓を一気に踏み込む。喉が張り裂けるほどの悲鳴を上げた若者の腹を水輝は容赦なく踏みにじった。
「一応、名前だけは聞いてやるよ」
さあ言え、と命じながら水輝は若者を踏みつける足に体重をかけた。靴の下で内臓が破裂し、血や体液に混ざって腸の内容物が飛び出す。水輝は弾けた腸から飛び散った汚物をきっちりと避け、再び足を若者に乗せた。今度は水輝の足は胸に乗っている。ちょっとその気を出して踏めば心臓はあっけなく潰れるだろう。
「お、オレじゃねえ、オレじゃねぇんだよぅ」
「いいから、名前」
「わ、脇田……英輔……」
淡々とした水輝の問いに若者はそう名乗った。脇田、と水輝は名前を口の中で呟いてにっこりと笑った。一転して人好きのする笑みを浮かべた水輝の様子に安心したのか、脇田がほっと息をつく。
「ビンゴ。おれが聞いたリーダーの名前だよ、それ」
笑顔のままで水輝が告げると脇田はまともに顔をひきつらせた。
「違う! オレじゃねえ! オレは梶野に命令されて……!」
「梶野? へぇ、お前らのリーダーって梶野って言うのか」
水輝は笑みを浮かべて頷いた。最初から水輝は脇田をリーダーだとは思っていなかったのだ。そのことを理解したのだろう。足の下で脇田が緊張に身を固くする。
「その梶野ってどこにいるんだ? 殺された奴の中にはいなかったみたいだけど」
「し、知らねえよ!」
「……あのさあ」
あくまでも白を切ろうとする脇田の傍に水輝は屈んだ。乗せていた足を退けて膝を曲げてしゃがみこむ。
「そんなところだけヒーローぶってどうすんだよ。出来そこないの連帯感なんて意味ないだろ。それにこれはおれの予測だけど、その梶野って奴、お前らを餌に置いてとっとと逃げたんじゃないのか?」
ふと背後で千佳が低く呻く。水輝は顔を上げてちらりとだけ振り返った。千佳はどこかを見つめて目を細めている。どうやら別の気配を嗅ぎつけたようだ。そのことを知って水輝は千佳に無言で頷いてみせた。千佳も水輝の意図に気付いたのだろう。その場に静かに腰を下ろす。
「そ、そ、そんな……こと……は、ない」
「んー。この状況でまともに喋れる根性は認めてもいいけどさ。脇田くん、声が震えてるよ?」
再びにっこりと笑いかけながら水輝は脇田を指差した。水輝が意識して笑みを作っていることにようやく気付いたのだろう。脇田が奇妙なものを見る目で水輝を見つめる。
「お、おまえ、なんだ? なんなんだよ!」
声を裏返らせながら脇田が叫ぶ。えー、と水輝は不服をこめて言ってから脇田をさしていた指を自分に向けた。
「おれ? おれはあいつのご主人様だってば」
そう言いながら水輝は指を今度は肩の後ろに向けた。そこにいるのは千佳だ。脇田は残った片目で恐々と水輝と千佳を見比べた。水輝は横になった脇田の身体を上から下まで眺めてから残った片目を覗き込んだ。
紫翠の夢から醒めた水輝はそれっきり人の夢を悪戯に覗くことはやめた。誰に命じられたのでもない。止められたわけでもない。だが何故か無闇にその術を使うのはいけないと思ったのだ。夢の記憶をなくした水輝はそんな自分の心境の変化を疑うこともなかった。そしてやがて水輝の夢魔のあだ名は忘れられていった。水輝当人ですらその名を思い出したのは最近になってからだ。
「おれ、今日はすげえ機嫌が悪いんだよな」
人好きのする笑みを浮かべたままで水輝はそう告げた。声の柔らかさとは裏腹なせりふの内容に脇田が血だらけの頬をひきつらせる。
「脇田英輔、だっけ? お前、まだまだもちそうだから千佳の相手してやれよ。大丈夫。気持ち良くなってる間にさっくり死ねるから」
目を覗き込みながら水輝が告げた途端、脇田の顔から意志が完全に失せた。懸命に押さえていた腹から手を離してゆらりと身体を起こす。名前を水輝に取られた時点で既に脇田に未来はなくなっていたのだ。容易く水輝の術に嵌った脇田は操られるようにして千佳に這い寄った。
待ち構えていた千佳の腰を脇田がつかみ寄せる。千佳の目は笑いの形に歪んでいた。そのことにすら恐らく気付いてはいないだろう。脇田ははみ出した自分のはらわたを無造作に引き千切り、血に塗れた畳に捨てた。汚れた手が忙しく動いてベルトを外し、ズボンを剥ぎ取る。現れた脇田の股間では既にペニスが屹立していた。
「あああああ、おんなぁ、おかすぅ」
涎を垂らしながら脇田は千佳の陰唇にペニスを突き入れた。とり憑かれたように腰をがくがくと動かしながらだらしなく笑う。そんな脇田に突かれながら千佳は獣の咆哮をあげた。どうやら千佳も充分に快楽を味わっているらしい。赤い目には悦びが浮かんでいる。
狂った情事を余所に水輝はゆらりと立ち上がった。
「後始末は頼むぞ。それと、せめてたっぷりいかせてやれよ」
嗤い混じりに告げて水輝は片手を上げてアパートを出た。嬌声が響く中、コンクリートの壁を抜けると急に寒さが身に染みる。ああ、そう言えば冬だっけな。そう呟きながら水輝は天を仰いだ。
空から雪が舞い降りている。水輝は暗闇に揺れる雪を見つめる目を細めた。この雪は水輝が降らせているものではない。氷を司る別の者が降らせているのだ。しかも今回のそれは意図的に行われているようだ。水輝はやれやれとため息をついて振り返った。
「研究は一段落ついたのかな? それとも何か特別に用でもあるのか?」
水輝はそう言いながら胸ポケットから煙草を出した。咥えてライターの火を灯す。微かに燃える音がして煙草の先に火が点く。そんな水輝を見つめていたのは一人の若い男だった。元は絵美佳だったそれを水輝は横目に見つめて深い笑みを頬に刻んだ。
千佳ちゃん活躍中ですw