かみ合わない加減が酷いw
エロシーンはありません。
泣き落としも駄目。物で釣るのもアウト。後は何があるかな。そんなことを考えながら多輝は目の前に立つ由梨佳をちらりと見た。由梨佳は多輝の送ったワンピースに身を包んでいる。トルマリンブルーのワンピースは多輝が思っていた以上に由梨佳によく似合っている。多輝はそっとため息をついて由梨佳の目の前に椅子を引っ張って腰を下ろした。由梨佳は相変わらず研究室の中央にぼんやりと佇んでいる。
「何でおれじゃ駄目なんだ? マスターはどうしても必要だって言ってたじゃないか」
何にしろ、由梨佳には早急にマスターを登録する必要がある。それはヒューマノイドである以上、生命維持に絶対必要な条件だ。支障はないように見えてもじきに精神が崩壊を起こす。その説明は由梨佳とは別に優一郎からも聞いている。先日まで由梨佳が辛うじて機体を維持できていたのは、多輝との交わりによって快楽を得ていたからだろう。そう結論付けたのは優一郎だ。
ヒューマノイドは人が食料を口にするように快楽を摂取する。最初に設計された時にはそうしなければ生きられないようにという明確な意図は込められてはいなかった。快楽を効率よく摂取した方が機体の維持が楽であるという結果になっただけだ。そしてその結論を弾き出したのは優一郎の父、吉良総一郎だ。
そして多輝の目の前にいるのはその実験体第一号とも言うべき由梨佳だ。由梨佳は自らを実験材料に提供すると同時に、総一郎と共にヒューマノイド工学の研究に勤しんでいた。それ故にヒューマノイド等については多輝よりはるかに豊富な知識を誇っている。
だからマスターが必要だって知ってるだろうが。多輝は苛立ちつつも内心でだけそう呟いた。表面的には困った風を装っている。
「あなただから、駄目なの。私なんかに、もう関わっちゃだめよ」
「おれじゃ不足?」
由梨佳の頬に残っているのは涙の跡だ。そのことを知りつつも多輝は思わず舌打ちをしそうになった。口許をさりげなく覆って舌打ちするのを堪える。即座に切り返した多輝を由梨佳は寂しそうに見つめている。
きっと由梨佳は自分が多輝の負担になると思っているのだ。心惹かれているからこそ、由梨佳はあえて多輝とは別の道を歩もうとしている。だがそれは無意味だ。多輝は内心でそう呟いて微かに目を細めた。まあ、座れば。その意味をこめて由梨佳の背後にある椅子を指し示す。すると由梨佳は大人しく多輝の指示に従って椅子に腰掛けた。
絹のスカートが由梨佳の動きに合わせて揺れる。若々しい服は由梨佳にとてもよく似合っている。その正体がヒューマノイドであると知っている多輝ですら、由梨佳はとても美しい少女に見えた。由梨佳は絵美佳や優一郎の母親役をずっとこなしていたとは思えない若さを保っている。
だからこそ手に入れたい。思うままに蹂躙した時、どんな風に反応するだろう。由梨佳に対する多輝の興味は尽きない。だが多輝が本当はどう思っているのかを由梨佳は全く知らないのだ。先日までの甘い関係が続いていると思い込んでいる。
どうするかな。そう内心で多輝が呟いた時、由梨佳はためらいがちに伏せていた目を上げた。
「あなたが心配してくれているとおり、私にマスター登録が必要なのも事実よ。私が出す条件をあなたが守ってくれるなら、登録してもかまわないわ」
「条件?」
やっと譲ったと思ったら今度は何を言い出すのだ。多輝は疑問に思いながらそう呟きを返した。由梨佳がやけに神妙に頷く。よほど難しい問題でもあるのだろうか。由梨佳の態度から多輝はそう考えた。要するにただでは手に入れられないってことか。状況の変化を多輝は面白いと思った。が、その考えを少しでも表に出せば由梨佳は疑問を感じるだろう。多輝は感情を抑えて出来るだけ大人しくしていようと努めた。
「まず、一つ目。私以外にちゃんとした交際相手をみつけること。さらにその交際に私が邪魔な状況になったらマスター登録解除などの処置をただちにとること。私に遠慮なんかしては駄目よ」
「……交際? 他の女と? 由梨佳先生はおれが好きじゃないってことか?」
言われなくともその程度のことは簡単に出来る。そう思いつつも多輝は不服そうに告げた。由梨佳は何かを堪えるように目を伏せて力なく首を横に振った。そんな由梨佳の反応も多輝の予測した通りだった。
「他の誰かと交際するってことは、例えばおれが他の女と……その、肉体関係を持ったりする、かも知れないんだけど……」
それでもいいのか? 困ったような、それでいてどこか怒ったような顔を作りながら多輝は訊ねた。何事かを言いかけていた由梨佳が唇を引き結んで顔を背ける。その横顔がとても透き通って見えるのは何故だろう。詰問された由梨佳は不思議なことに悲しそうには見えなかった。穏やかな笑みすら浮かべてみせるその横顔が儚い花のようにも見える。
「相手もそれを望むなら、そうなるのは自然なことだと思うけど」
確かに由梨佳の言う通り、付き合い始めた男女が互いに互いを求めた場合にそういう状況になるのは自然なことだ。だがこの場で理性的に言う由梨佳の心情は恐らく穏やかではないだろう。少なくとも由梨佳は誰かについでのように扱われることを好んではいない。そうでなければ総一郎との関係を解消することはなかったのだ。求める関係性が築かれていなかったことが、由梨佳が離婚した大きな原因だろう。そう言ったのは優一郎だ。
エピソードは三分割ですが、二人の平行線はかなり長く続きます。