※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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今のところはエロシーンはありません。


メール便でギフト 1

 何かが来る。優一郎は目を細めて何の気なしに天井を仰いだ。だがそこには何もない。いつもと変わらない蛍光灯の光があるだけだ。何だったのだろう、と呟いて優一郎は作業を再開した。

 

 多輝の壊した果穂のボディは栄子に使用する筈だったものを使う予定だ。そのボディの調整をするのは由梨佳だが、その中枢は果穂に合うように優一郎が作り変えなければならない。優一郎は椅子に腰掛けて黙々と作業を続けた。

 

 脳を組み込んだヒューマノイドの中枢部はとてもデリケートに出来ている。溶液の満ちたケースに脳が浮かび、脳からあらゆる信号を送るケーブルがケース内のコード格納ボックスに伸びているのだ。強い衝撃を与えれば生きた人間と同じようにダメージを食う。優一郎はモニタ画面に映し出される数値をこまめに読みながら中枢部の調整をしていった。

 

 壁にかかった時計の針が二時をさす。かちり、という小さな音に気づいて優一郎は手を止めた。中枢部をそっと台に戻して立ち上がる。

 

 唐突に実験室の空気が揺れる。部屋の中央に現れたのは多輝だった。洗いざらしのジーンズにシャツを着込んでいる。どうやら由梨佳と話をつけた後も性別は男のままでいるらしい。

 

「よう。作業、進んでるか?」

 

 気楽に声をかける多輝に優一郎は微笑んでみせた。

 

「ええ。大脳ユニットのほうはまもなく完成します」

 

 そう言って優一郎は台に乗せた中枢部を目でさし示した。多輝が好奇心いっぱいの顔でそれを覗き込む。

 

 ヒューマノイドの中枢と呼ばれる部位は、脳を含んだユニットと女性器になる。女性器の方は調整そのものを由梨佳に任せても問題はないだろう。が、この脳を含んだ中枢部はそうはいかない。そもそも由梨佳はヒューマノイドの設計技師ではなく、それを補助する役についていただけだ。女性器の方は自身のものを調整することもあり、任せても安心ではあるがこちらはそうはいかない。面白そうに台を覗き込む多輝を見つめて優一郎はそっとため息をついた。

 

「あ、そうだ。預かりもんがあったんだ」

 

 しばし台の上を熱心にみつめていた多輝がふとそう切り出す。何だろう、と目をしばたたいた優一郎の目の前に多輝は手を突き出してみせた。だがその手には何も乗ってはいない。怪訝に眉を寄せる優一郎に軽く笑い、多輝は差し出した自分の手を見下ろした。すると手の上の空気が揺らいで淡い光が生まれる。次いで多輝の手の上には見慣れない封筒が現れた。

 

「メール便だってさ」

 

 そう言いながら多輝が封筒を優一郎に押し付ける。

 

「誰から……!?」

「さあ。差出人は不明だし、試しに気配読んでみたけど何も判らなかったな」

 

 何なら中身、透視するか? あっさりと言って多輝が優一郎を見る。だが優一郎は大きな封筒を手にしたまま首を横に振った。もし、龍神関係の者からだとすれば、多輝が力をかけた途端に発動する罠を仕掛けられていることもあり得る。

 

「とりあえず。見てみるしかないかな」

「結界は?」

 

 すかさず多輝が訊ねる。優一郎は逡巡してから首を縦に振った。用心に越したことはない。判った、と頷いて多輝がその場に結界を展開する。淡い紺色のベールが二人の身体を包む。優一郎はそれを確認してから中枢を乗せた台から離れた。実験室の一番奥の台に封筒を乗せる。貼られたガムテープを注意深く剥がす。最初に中から現れたのは緩衝材にくるまれた数本の試験管だった。続いてこれも緩衝材に包まれたシャーレが幾つか。それを取り出してから優一郎は封筒の中を覗きこんだ。白い封筒が入っている。どうやら手紙らしい。

 

「何だ? これ」

 

 多輝が物珍しそうに呟いて試験管を手に取る。その中には色の着いた粉らしきものが入っていた。試験管は八本。それぞれに違う色をした粉が試験管の中ほどまで入っている。

 

 ふうん、と呟いて優一郎は今度はシャーレを手にとった。培養のためのブイヨンの張られたシャーレ内に色とりどりのコロニーが出来ている。どうやらこのシャーレを送るためにわざわざ封筒ごと冷やしていたらしい。

 

「まるで砂みたいだなあ」

 

 そう言いながら多輝が面白そうに試験管を軽く振る。試験管の中で粉が揺すられた瞬間、実験室内に警報が響き渡った。

 

「多輝!」

 

 鋭く叫んで優一郎は多輝の手から試験管を取り上げようとした。驚きに目を見張った多輝が慌てて試験管から手を離す。だがその時にはもう、試験管に入っていた粉は液体になっていた。

 

「え……え!?」

 

 頑丈に蓋をされた試験管の中身が瞬く間に全て液体に変化する。何事が起こっているか全く理解出来ないのだろう。多輝が焦った声を上げて台から離れようとする。

 

「ちょっ、ちょっとま」

 

 頼りない制止の声は何も意味を為さなかった。優一郎は歯軋りして多輝の握っていたものを含めた全ての試験管を実験室の端に放り投げようとした。だが振りかぶった優一郎の手の中で試験管の蓋が次々に開いていく。張られた結界をものともせず、試験管に入っていた液体は一気に多輝に向かって飛んだ。




当時はレターパックもあった気がするのですが、何故かメール便にした記憶が……w
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