※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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こっちにはエロシーンはないです。
エピタイはこっちのためですw


まさかこんな写真を送るとは 2

「タオルを寄越せ」

 

 火藍が感情のない声で命じると水輝が慌ててベッドの隅に手を伸ばす。差し出されたタオルを引ったくり、火藍はそれを順の口許にあてがった。血で汚れた口許を丁寧に拭ってから順の手を拭く。

 

「は、はは……。相当、ガタがきて」

 

 そこまで言ってから再び順は激しく咳き込んだ。喉が切れたのだろう。咳の音には耳障りな雑音が混ざっている。

 

「馬鹿者。そう簡単にがたがきてたまるか。お前のはわざわざがたを呼び込んでいるというんだ」

 

 しかめ面で言ってから火藍は枕の近くに放られていた緋宝珠を取り上げた。咳き込む順の手にそれを押し付ける。半ば無意識になのか、順が夢中でそれを握る。するとゆっくりと順の呼吸が落ち着き始めた。順の体内に注がれた蜜と宝珠が共鳴しているのだ。だがそれも一時凌ぎにしかならない。

 

「おい。いつまで見ている。少し外せ」

 

 横目に水輝を睨んで火藍は厳しく言った。ごめんなさい、と小声で詫びて水輝がふらふらと部屋を出て行く。胸ははだけたままだったが、使用人の誰かがきっと注意するだろう。そう思いながら火藍は順に目を戻した。

 

 緋宝珠を大切そうに抱え込んで順は目を閉じている。火藍は無意識に肩にこめていた力を抜いて静かに順の服に手を伸ばした。剥き出しになっていた順のペニスはすっかり萎えている。出来るだけ刺激しないよう、注意深くズボンの中にペニスを戻して火藍は顔を上げた。いつの間にか順が苦笑して目を開いている。

 

「少し寝ていろ。わたしは出かけてくる」

 

 そう告げた火藍に順が震える手を差し伸べる。その手に握られた緋宝珠を見止めて火藍はぴくりと眉を上げた。順が苦笑しながらほら、と呟く。

 

「返すよ、これ。ないと困るっしょ?」

 

 力なく笑んでみせる順には以前に感じたような辛辣さはない。火藍はしばし無言で順を見つめてからため息をついた。

 

「馬鹿者。わたしを見くびるな。それは貴様にくれてやると言ったろう」

 

 力なく横たわる順を抱え上げて火藍はそう答えた。ベッドに積まれた布団を足で退けて順を横たえる。順は困ったように笑ってから再び宝珠を胸に抱え込んだ。背を丸めて目を閉じたと思ったら、ほどなく順は眠りに落ちたようだ。落ち着いた寝息が聞こえてくる。火藍は静かに息をついて布団をそっと順にかけた。

 

 眠る順から静かに離れて執務机に戻る。再びメールをチェックし始めた火藍はあるメールを見て手を止めた。差出人の欄に見覚えのある名が記されている。火藍はしばし迷ってから順とモニタ画面とを見比べた。こんな状態の順に見せていいメールなのだろうか。

 

 よりによって直接送ることはなかろう。そう胸中で呟いて火藍は小声で順に詫びた。無断でメールを開く。

 

 記された文章は実に簡潔だった。時候の挨拶から始まって用件が記されている。内容を素早く読み取って火藍は渋面になった。日時と指定場所まで見てから火藍は深く息をついて背もたれに寄りかかった。

 

 どんな気まぐれかは知らないが、どうやら立城は順に直接会いたがっているらしい。本来、順のスケジュールに組まれていたとある企業の重役との面会を、自分のそれと変えてくれないかという打診だ。つまり、企業を取り仕切る吉良瀬財閥の当主として立城は順に会いたいと言っているのだ。

 

 やれやれ、と肩を竦めて火藍は何気なく添付されたファイルを開いた。そこで絶句する。火藍は慌てて新しく開かれたウィンドウを閉じた。立城が添付して寄越したのはメールの内容とは全く関係ない画像データだ。火藍は苛立ちに頭をかきむしりながらモニタ画面を睨みつけた。

 

 何であんな写真が。憎々しさをこめて呟いてから火藍ははっと顔を上げた。もしかして、と呟いて横目に順を見る。順は火藍の混乱に気づかないようで、穏やかに眠っている。

 

 よし、と頷いて火藍は順の端末の中を無断で覗いた。あらゆるファイルの中から画像だけを選んで次々にチェックする。そうしているうちに火藍は奇妙なフォルダを見つけた。何故かそのフォルダだけすぐには開けない。訝りながら火藍は何度かパスワードを打ち込んだ。だが何の手がかりもない状態で適当に打ち込んだパスワードが正しいはずもない。何度も出るエラー画面を睨みながら火藍は少しの間、考えた。

 

 まさかな。そう呟いて火藍は何気なくキーボードを叩いた。するとそれまで頑なに開くことを拒んでいたフォルダの内容が表示される。火藍は引きつりながらフォルダに納まっていた画像の一つを開いてみた。

 

 すぐさまウィンドウを閉じる。火藍は怒りに肩を震わせながら横目に順を睨みつけた。殴ってやりたい衝動を必死で堪えて火藍はシャツの胸ポケットを探った。とりあえず落ち着け、と自分に言い聞かせて煙草を咥える。火を点けて一口吸い込んだところでようやく怒りが少し和らぐ。

 

 どうやら順は送られてくる画像データをまめに保存していたらしい。全部見なくても判る。このフォルダの中に入っている画像データは立城から送られてきたものだ。火藍は苛々と机の端を指で弾いて深くため息をついた。

 

 これが初めてという訳じゃないということか。火藍はしかめ面でフォルダを閉じて先に見ていたメール画面を表示させた。いつの間に撮ったのか、立城が送ってきた画像は火藍が快楽に喘いでいる写真だった。だがわざわざフォルダまで作成して保存しているところを見ると、順は火藍の背後に立城がいることにはとっくの昔に気づいていたようだ。

 

 正直なところ、順が何を考えているのか火藍には判らなかった。順は昔から考えを口にする方ではなかったし、火藍もそれを問い質すようなことはなかった。互いの間にあったのはもっと別の。

 

 そこまで考えて火藍は強く頭を振った。とにかく立城を問い詰めるのが先だ。どのみち、このまま順を放置しておく訳にもいかない。火藍は端末の電源を落としてその場に立ち上がった。

 

 額に指先を触れさせたところでよろける。小さく舌打ちをして火藍は机に寄りかかった。

 

 その器を早急に何とかした方がいい。人の身体はそうは長く生きられない。

 

 いつか立城に言ったことを思い出す。人ですらないこの身体の方が本当は脆いのに。胸中でそう呟いて火藍は自嘲気味に笑った。力を礎に生きる龍神たちは誰もがそうしている。器を形作るのは力そのものだ。何故なら、力が納まるべき器は現世にそうは転がっていないからだ。自分でイメージした方が手っ取り早いし、何より融通が利く。

 

 人のことは言えないな。そう笑って火藍はその場から姿を消した。




昔はTwitterとかSkype……はあったかな。
LINEはありませんでしたねw
メールでのやり取りがメインだった頃に書いたので、こうなってます。
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