※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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エピタイ通り、要が勝手に暴走します。
要の暴走は優一郎にも想定外。


突撃! 要の大暴走 1

 怒りに任せて廊下を行く要を止める者はいない。肩を怒らせて歩く要をすれ違った生徒たちは恐々と避けていく。校舎内を苛立ち任せに歩いていた要は鋭く振り返って声をかけた。

 

「そこのあなた! ネクタイが曲がっていましてよ!」

 

 一人の生徒をびしりと指差して指摘する。いきなりそんなことを言われると思わなかったのだろう。指摘を受けた男子生徒が慌てたようにその場から駆け去ろうとするが、それより早く要の傍らにいた野木と周藤が動いた。二人がかりで押さえつけられた生徒のネクタイを要は滑らかな手つきで結びなおした。

 

 ありがとうございます、と泣きそうな顔で言ってから男子生徒が脱兎のごとく駆けて行く。それを見送って要はふふん、と胸を張った。やはり身だしなみを整えることは大事だ。ネクタイを中途半端に結んでいいのは水輝だけなのだ。そう内心で呟いて要はこぶしを固く握りしめた。

 

 あれから優一郎は要には連絡を寄越さない。そのことを要はとても不服に感じていた。斎姫が順にさらわれてしまったことは要も知っている。何しろこの目でちゃんと見たのだから! そう思いながら要はこぶしにぐい、と力を入れた。力をこめた要のこぶしが小刻みに震える。

 

 最初は斎姫がいなくなったことを要はチャンスと考えた。この隙に優一郎の心を射止めればもしかしたら彼女の座につくことが出来るかも知れない。だがその考えを要はすぐに否定した。敵がいない隙を狙うなどという真似は卑怯でとても出来ない。

 

 そもそも斎姫にはまだライバル宣言すらしていないのだ。こんな状態で優一郎を狙ったら、それこそ愚者の極みだ。勝負するなら真剣に、正々堂々としなければ意味はない。

 

 大体、何で放置していますの! 要の苛立ちはつい口にのぼっていた。慌てたように野木が要を制する。

 

「要様。あまり興奮なさいますと……その、お体に……障りますから」

 

 途中で声を落として野木が言いにくそうに告げる。はっ、と要は息を飲んでごめんなさい、と詫びた。

 

 とにかく本人を問い質さないと埒があかない。要は再び憤然と廊下を進み始めた。目指すは地下のロボット研究会本部だ。幸い、冬休みに入ったため、生徒会業務は少ない。要は廊下を過ぎて階段を降りると真っ直ぐにロボット研究会本部への入り口に向かった。

 

 入り口でID入りのカードをスロットに入れてしばし待つ。ほどなく赤かったランプの色がグリーンに変わった。その後、金属製のドアが音もなく開く。要は悠々と扉をくぐり、足元にだけ灯るライトを頼りに地下への階段を下りた。

 

 次第に灯りが増していく。地下に辿り着いた頃には要はほぼ地上と変わらない光に囲まれていた。地下にある筈の廊下がこれだけ明るいのは、長く地下に閉じこもっていても体調を崩さないためだろう。ヒューマノイドである要はどんな光量でもさほどの問題は生じないが、優一郎を始めとする生身の人間には光の足りなさは堪える筈だ。

 

 要は灯りに満ちた廊下を進んで手近な実験室のドアをノックした。すぐに中から応じる声が聞こえてくる。どうやら保美が居たらしい。

 

「少々お待ちください」

 

 涼やかな声にええ、と応えて要は言われた通りにドアの前で待った。しばらく後にドアが静かに開く。ドアから顔を覗かせた保美の髪は珍しく乱れている。要はそれを目にして困惑の眼差しを室内に注いだ。案の定、並んでいる実験台の一つの上にカレンが裸同然の格好で横たわっている。要の視線に気付いたのか、カレンは悪戯っぽく笑うと軽く手を上げた。

 

「申し訳ありません。こんな格好で」

 

 要の困惑を見て取ったのか保美が手で髪を整える。しばし迷ってから要はいいえ、と笑ってみせた。

 

「こちらこそごめんなさいね。優一郎さまはどちらかご存知?」

 

 とにかく手早く用件を済ませてしまうに限る。そう思いながら要はすぐにそう切り出した。すると保美が困ったようにため息をつく。

 

「今は地下二階にいらっしゃると思いますが……」

 

 それを聞いた要は眉を少し寄せて口の中で呻いた。地下二階は優一郎の私用スペースになっており、ヒューマノイドである要や保美も入室を禁じられている。が、今日は事が事だ。要は一応は判りました、と保美に頷いてみせた。

 

 地下二階に一度引っ込んだら優一郎は次にいつ出てくるか判らない。忙しそうな保美に手を振ってから要は奥の部屋に進んだ。優一郎に直接連絡を取れる通信機があった筈だ。それを使えば優一郎と話も出来るだろう。

 

 一番奥の部屋は優一郎がいつも使う実験室兼書斎になっている。要は無言でその部屋のドアを開けた。無人で中はしんと静まり返っている。要は明かりを点けて辺りを探し始めた。出来るだけ置かれた物を動かさないように気をつけて通信機を探す。

 

「かっ、要様!」

 

 慌てたような周藤の声が後ろから飛んでくる。なに、と苛立ち紛れに返答して要は声のした方を振り返った。そこで思わず息を飲む。いつの間にか部屋の入り口に優一郎が立っていたのだ。

 

 要は驚きに息を飲んで、次いで笑みかけようとした。だが挨拶の言葉が上手く出てこない。




想定外の動きをする要のおかげで説明が進むのですが……。
対応する優一郎はちょっと大変ですw
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