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「要さんが僕に好意を抱いてくださっているのは知っています。ヒューマノイドの身体は恋愛感情に直結して欲情するように作られていますから」
「えっ」
唐突に言われて要は仰天した。これまで優一郎はそんな風に説明をしてくれたことはない。ヒューマノイドに関しての説明は確かに受けたが、その時の優一郎の説明は技術的な方向に偏っていた。こうして人間の感情に絡めて説明されたのは初めてだ。要は驚きに息を飲んで優一郎を見つめた。
「僕と性行為を行う場合と、野木さんや周藤さんに奉仕を受ける場合とで、明らかに快感レベルに差がありませんでしたか?」
そう言って優一郎が首を傾げる。要はつい、反射的に頷いてから慌てた。確かに言われた通り、野木や周藤に奉仕させた場合と優一郎と行為に及んだ時との快感の差は明らかだ。だがこれまで要はそれを口にしたことはない。傅く野木と周藤に申し訳ないという感情が心のどこかにあるからだ。
要は小さく息をついて自然と前屈みになっていた身体を起こした。
「当り前ですわ! だってわたくし、優一郎さまを愛していますから!」
腰に手を当て、毅然と胸を張って要はきっぱりと言い切った。ドアの向こうに野木と周藤が居ることは判っている。だが要はこの場で嘘を吐いて逃れることは断じて出来なかった。そんな卑怯な真似をするためにここにきたつもりはない。そもそも、卑怯なことが好きなら斎姫を助けたいと思ったりはしない。
「知っています。そして要さんが深まっていく僕への恋愛感情に悩んでいることも、ログから推測することができました」
「当然ですわ! 恋する乙女は悩んで幾らですのよ!? そんなこと、わたくしが気にするとでもお思い!?」
優一郎の反応は正直、意外ではあった。が、要は負けじとそう言い返した。するとそれまで真剣に要を見つめていた優一郎が少しだけ表情を緩める。ふふん、と笑って要は胸を張った。
「要さん。僕はあなたの最もプライベートな感情を知ることができる状況にあり、実際にその情報を入手していました。アンフェアな行為だと思いませんか?」
言われて要は高く笑っていた声を納めた。なるほど、どうやら優一郎は要が卑怯な行為を嫌っていることを判って、そう言っているらしい。ふむ、と顎に手を当てて考えてから要は顔を上げた。
「そうやってわたくしに手の内を明かした時点で、それはアンフェアとは言わないのではなくて?」
例えどんなに卑怯な技を駆使しても、それを相手に報せてしまえばその時点でフェアとも言える状況になるのではないか。そう、要は付け足した。すると困ったように優一郎が笑む。
「いえ、僕があなたにどういう感情を抱いているか、それは伝えなければフェアな状況とは言えないと思います」
「なるほど。それも一理ありますわね」
簡単に告白の手間が省けていいではないか、と思っていた要は神妙な顔で頷いた。大きく息をついて優一郎に向き直る。さあ、来い! とばかりに胸を張った要を見上げていた優一郎が笑みを納める。
しばしの沈黙が訪れる。要は眉をぴくりと上げて優一郎を見つめた。
「もしかして優一郎さまはわたくしに心情を打ち明ける気はございませんの?」
黙ったままの優一郎に要は恐る恐る告げた。優一郎が軽く息を吐いてから告げる。
「要さん、まず結論を話しましょう。僕は要さんのことを好ましいと思い、要さんを僕のものにしたいと思っています。ですけど、それは要さんが求めている関係とは異なっていると予測しています」
「そっ、それはつまり、恋人には御免被るということですの?」
衝撃によろけて要は掠れた声で告げた。極端に略した要の言い様に困ったのが優一郎が考えこむように黙る。だが要自身は自分の表現が優一郎の言ったことと少し異なっていることには気付かなかった。
「要さんの言う恋人とは、具体的にどのような関係をさすか教えていただけますか?」
「当然、ラブラブファイアーカップルのことですわ!」
要はそれまでの消沈した気分を払拭する勢いでそう叫んだ。だから具体的に、と控え目に優一郎が告げる。はっとして要は咳払いをした。
「互いが相手を愛しいと感じ、お互いを欲するのがそうでなくて? つまりあれですわね。……結婚?」
独り言のように呟いてから最後の言葉を積極的に優一郎にむける。すると優一郎は眉を寄せてため息をついた。
「やはり、そうでしたか。要さん。はっきり言いましょう。僕には一人の女性だけを想うことはできません。ですから、要さんの想うような恋愛に応えることはできません」
「別に構わなくてよ?」
言いにくそうに告げた優一郎に要はあっさりと言い返した。どうやら優一郎は要が違った反応をすることを期待していたらしい。だが要は優一郎の心情を読む努力は一切しなかった。そもそも相手が何を考えているのかを予測するのは楽しいことだが、考えた末に導き出した結果が必ずしも正解であるとは限らない。
「誰が応えて欲しいと言いましたの?」
そう続けて要は胸を張った。圧された格好で黙った優一郎に向き直り、要は声高らかに言った。
「互いが相手を欲するとか、まあありていに言えばラブラブファイアーカップルというのは、ただの結果ですわ! 最終的な目標がそれであるというだけです!」
こぶしを掲げてそう言ってから要は高く笑った。
「たった一人の女に一途に身を捧げ、想いを貫き通す男など愚の骨頂! そんなもの、言い換えればただの甲斐性なしに過ぎませんわ!」
胸を張って笑いながら要は優一郎にびしりと指を向けた。
何を言っても聞く気がない、というかw