※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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説明がぶっ込まれます。
エロシーンはありません。


突撃! 要の大暴走 4

「わたくし、そんな下らない男に惚れたつもりは毛頭ございませんの!」

 

 例え結果的に結婚したとしても、その先に幸せな生活が必ず待っている訳ではない。要は間近に意志の疎通の全くない夫婦を見てきたのだ。結婚生活に甘い夢を描くには要のそれまでの体験はシビアすぎた。

 

「要さん。あなたは僕があなただけを想うように努力する。と、そういう理解でよろしいですね? 例え要さんの努力が報われなくても構わないと」

「結果の判っているレースほどつまらないものはなくてよ!」

 

 優一郎の質問を受けて要は気合を入れてそう応えた。ついでにおほほほ、と天井を仰いで笑う。実に爽快な気分だ。こんなに自分の考えを理解してくれた男はこれまでいなかった。

 

「斎姫にも、あなたと今こうしているように話せていたら良かったのかもしれません」

「は?」

 

 それまで笑っていた要は優一郎の静かな言葉に目をむいた。過去形で表現されたということは、優一郎はこれまで一度も斎姫とこうした話をしたことがないということになる。

 

 要の頭を疑問符が満たす。仮にも斎姫は優一郎の彼女だ。なのに何故、優一郎は斎姫に正直な心情を吐露していないのだろう。

 

「ちょっと待って頂けます? つまり、あれですの? 斎姫さんには一度も正直な気持ちを打ち明けていらっしゃらないと?」

 

 ぐるぐると考えながら要は苦し紛れにそう質問した。

 

「僕は斎姫の感情を全て知ることができる立場にあった。彼女が僕に抱いている想いを、僕は全て把握していました」

 

 そう切り出して優一郎は訥々と語り始めた。要は勧められる前に部屋の壁に立てかけてあったパイプ椅子を開き、静かに腰を下ろした。どうやら長い話になりそうだ。そんな要の予想は見事に当たった。優一郎が語ったのは斎姫と出会ってからの話だった。

 

 頭痛がする。要はぴりぴりとした空気を感じながらこめかみを強く指で押さえた。一瞬、相手を好いていることも忘れ、怒鳴りたい衝動に駆られる。

 

「つ、つまりあれですの? 斎姫さんは大元は吉良瀬財閥の所有していた機体だったと?」

 

 斎姫を譲り受けたという話に差し掛かった時、要は注意深くそう言葉を挟んだ。

 

「ええ。そして、機体の製作に僕の両親が関わっていたことは確実です。それに、これは予想ですが」

 

 そこで優一郎が口ごもる。要はぴくりと眉を片方跳ね上げてえへん、と咳払いをした。とにかく落ち着け。そう自分に言い聞かせて出来るだけ感情を殺した声で訊ねる。

 

「科学ジャーナルとかいう雑誌で拝見しましたわ。吉良博士と言えばその方面ではとても有名なお方でしたわね」

「そうです。ヒューマノイド化技術はもともと父が開発したものなんです」

 

 そう言って優一郎が小さく笑う。その笑みは酷く悲しそうに見えた。どうやら両親との間にもなにやらあるらしい。が、要はその疑問を脇に退け、とりあえずは別のことを質問した。

 

「それで? 優一郎さまの予想とは何ですの?」

 

 これまで要は斎姫の機体は優一郎が作成したとばかり思い込んでいた。斎姫がヒューマノイドであることを優一郎ははっきりと明言したことはない。が、それはこれまでに重なった事件や優一郎の行動、周辺の事情と併せて考えると明らかだ。その結論を導き出した要には不思議と驚きはなかった。科学者である優一郎の恋人ならば、それもまたあり得るだろうと考えたのだ。

 

 だが今度は違う。要は心底驚いていた。優一郎ほどに有能な人物であるなら斎姫の機体を作り上げることは造作もなかっただろう。が、実際には違っていたのだ。

 

「身体の、ボディのほうはどうとでもなる。実際、僕は最新技術を用いた最高級の身体を斎姫のために開発していました。要さんの身体の開発にもその技術は用いたわけですが……。問題は斎姫の脳のほうです」

 

 そこで一旦、言葉を区切って優一郎は息を吐いた。要は無意識に息を潜めて続く優一郎の言葉を待った。

 

 長くなりますからお茶をいれましょう。そう告げて優一郎が一度、席を立つ。要は優一郎を制して自分から茶の準備をした。手際よくいれた紅茶を手に優一郎の元に戻る。実験室に入る直前に要はドアの横に控えていた野木と周藤に目配せをした。それだけで要の意図を察したのだろう。無言で二人が頭を垂れてドアから離れていく。

 

 お待たせしました、と告げて要は実験室に入った。片方のカップを優一郎に手渡す。再び椅子に腰を落ち着けてから要はそれで、と優一郎を促した。

 

「斎姫は戸籍上は吉良瀬家の養女ということになっています。書類上では身元不明の捨て子を引き取ったということにされています」

 

 確かに斎姫の苗字は吉良瀬と言うし、裏の世界では斎姫は吉良瀬当主の隠し子であるとも噂されている。だが調べによると吉良瀬当主の遺伝子情報と斎姫のそれでは大きく異なるとされる。だがその調査結果にしても信用に足るものかどうかは判らない。噂が噂を呼び、今では吉良瀬当主の正体は実は人ではないのではないかとも言われている。

 

 そんな吉良瀬当主が育てていた斎姫なのだ。そこに何らかの秘密があるのは当然なのかも知れない。神妙な面持ちで頷いてから要は優一郎を見た。




要はアホではない……はずなのですが。
暴走しがちなので周囲が巻き込まれる感じですね。
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