ついでに説明が入ります。
これだけの術を使うとなると心当たりは二人しかいない。力の大きさでは水輝も該当しそうだが、生憎と水輝はそれだけの器用さを持ち合わせてはいない。自然と水輝は除外される。残る二人の姿を思い浮かべて順はこっそりとため息をついた。
ほぼ確定はしてるけどね。そう思いながら順は指を根元まで火藍の膣内に埋めた。指先で膣の奥を無造作に探る。順の指に押され、蜜が飛沫になってシーツに散る。
「すっかり蕩けてるね。オレの指がそんなにいいんだ?」
嘲笑に似た笑みを浮かべながら順は手首に捻りを加えて指を動かした。柔らかな膣壁が軽く締まって指全体にまとわりつく。
「ちがっ、んくぅ!」
切羽詰った声で言いながら火藍が嫌がるように頭を振る。順は意地の悪い笑みを浮かべて抽迭の速度を上げた。仰け反った火藍が途切れ途切れに声を漏らす。順の指先が膣壁を強く突くたび、火藍は掠れた声を上げた。
ヒューマノイドの機体といっても火藍のそれはとてもよく出来ている。恐らく優一郎が中にこめられたものに見合うよう、わざわざ作り変えたからだろう。そのことに感謝しながら順は唐突に指の動きを止めた。するとそれまで激しく喘いでいた火藍がえっ、と落胆の声を上げる。
「なに? あのままいかせて欲しかった?」
こうしてると機械なんて忘れちゃいそうだよね。心の中で優一郎に呼びかけた途端、順の体内に奇妙な感覚が生じた。鈍い凝りを感じて静かに胸に目をやる。真っ白だった順のシャツの胸には赤い染みが出来始めている。向かってきている力が日に日に大きくなっている証拠だろう。今ではこうして優一郎のことを考えるだけで、反動がくる。だが蜜の効果のために痛みそのものは感じない。
手早く下履きを取って順は火藍を組み伏せた。熱く屹立したペニスを遠慮なく火藍の膣内に沈める。
「ぐっ、あああん!」
一瞬、苦しむように顔を歪めた火藍が一転して甘い声を放つ。順は深く息を吐いてペニスの根元までを膣内に埋めた。頭がくらりとするほどの甘い感覚がこみ上げてくる。順はしばし動きを止めてその感覚をじっくりと味わった。ペニスから直接に蜜にこめられた力が身体に染み込んでいるのだ。
術にこのまま身を任せて快楽に耽るのも悪くない。例え偽物と知っていても、夢のように甘い時間を火藍と共に過ごせる幸せを味わうのもいい。どうせ快楽に身を任せてしまえば、全てがどうでも良くなってしまうだろう。
でも、そうするにはオレは年を取りすぎていてね。見えない誰かにそう呟いて順は火藍の腰に手をあてがった。さて、と顔を上げた順を意外な眼差しで火藍が見つめている。軽い驚きに目を見張った順を火藍は睨んでいた。
「……抱いている間くらい、わたしのことだけ考えていられないのか」
静かな声音に順は絶句した。ペニスに感じるぬめりは確かだし、膣壁は快感を覚えて蠢いている。なのに火藍の声には甘い響きはない。
「あっ、ごっめーん。怒った?」
明るく笑って順は詫びた。だがいつものように火藍は言い返してはこない。訝りに眉を寄せた順はそのままなし崩しに腰を動かそうとした。何だかいやな予感がするのだ。
火藍が静かに手を伸ばす。順はぴくりと眉を寄せて息を潜めた。細い指がシャツを開き、胸の傷に触れる。それを見た順は慌てて火藍の手を押し退けようとした。
「あ、うっ」
痛みのない筈なのに、傷に触れられた瞬間、言いようのない痺れが全身を撃つ。順は震えを堪えて唇を噛んだ。火藍が指先で静かに傷口をなぞる。止せ、と声にならない声で呟いて、順はベッドに腕をついた。上体を伏せると余計に火藍の指が傷に食い込む。
「わたしを見くびるなと言っただろう。どうしてこうなるまで黙っていた」
「だっ……て、火藍ちゃん……し、んぱいするっしょ」
苦しい息を吐きながら順は切れ切れに告げた。痛みはない。完全に痛みの感覚は閉ざされている。なのに身体だけが如実に反応しているのだ。
不意に頭を何かで殴られたような衝撃が順を襲った。順は歯を食いしばってシーツを力任せにつかんだ。だが指先に感覚はなく、不自然に握った手の中で指が嫌な音を立てる。
「動くな。いいか、このまま横になっていろ。すぐに戻る」
すっかり萎えた順のペニスは既に火藍の膣から抜けている。火藍は慌ただしく順の下から抜け出すと、脱ぎ散らかしていた服を一枚ずつ取り上げた。順はだがそんな火藍の様子をとても見ていられなかった。全身からどっと冷たい汗が噴き出す。
蜜にこめられた力のままに術に溺れていれば、恐らく反動を感じることもなかったのだろう。快楽に囚われて性的な欲望を満たすことのみを考えていれば、きっと別のことを考える暇などなかった筈だ。順は痺れる身体を何とか起こして開いたシャツの前を合わせた。震える指でボタンをかけようとするが、どうしても嵌められない。順は舌打ちをしてそのままの格好でベッドを降りた。
火藍は既に部屋から姿を消している。恐らく蜜を供給している者のところに跳んだのだ。
あの術を今現在行使できる存在は恐らく二人。一人は時空の王と呼ばれる翠だ。が、恐らく翠は違う。何を考えているのか全く理解は出来ない相手だが、もしも順を嵌めるならこんなに面倒な手順を踏まず、直接乗り込んでくるだろう。
よろけながら何とか前に進む。順は胸から血を流しながら壁伝いにゆっくりと歩いた。
もう一人がアタリなんだろうけどね。順は内心で呟いて力なく笑った。部屋をよろけながら出た順に驚いたのか、慌てた様子でメイドが一人、飛んでくる。だが順はメイドを制して一人で廊下を進んだ。
蜜を作り上げた力の質は紛れもなく違う。だが術者は間違いなく立城だろう。立城が綿密に編んだ術は蜜の形となり、火藍を介して順に注がれる。そして蜜は順の体内で再び術の形で展開され、痛みを主とした感覚を麻痺させる。だが蜜の効果は恐らくそれだけではない。
順は壁にもたれながらじりじりと廊下を進んだ。途中、ぼんやりとした顔つきの水輝とすれ違う。順はだが、横目に水輝を見ただけで無言を守った。誰にも命じられていないからだろう。水輝は一切、反応をしない。ただ黙って順の脇を通り過ぎる。
蜜で出来たペニスで水輝を火藍に犯させたあの日を境に状況は一変した。水輝は完全にその意志を失い、人形のようになってしまった。恐らくあれも蜜の効果だ。荒い息を吐きながら肩越しに水輝を見返って順は一人、笑った。水輝は体内に蜜を注がれた後にああなってしまった。まさか水輝が火藍に犯されるのを嫌がっていたとは思えない。水輝が意志を失ったのはあの蜜が原因と見るのが自然だ。
術を構成する力の根源は立城のそれではない。きっと金色の力の大元である亮の所有していた金宝珠だろう。亮の滅した今、金龍神が持っているはずだった宝珠の殆どは行方不明になっている。辛うじてありかが判っているものは二つ。一つは翠の管理するこことは別の世界で生きている、翠宝珠。もう一つは。
衝動を堪えきれず、順は足を止めてその場にしゃがみ込んだ。激しく咳き込みながら床に手をつく。じゅうたんに散った赤い血を順は感慨のない目で眺めた。咳が何とか収まってから再び立ち上がる。
展開された術はたぶん、浄化の技だ。順は目を細めて咳の衝動を堪えながらゆっくりと進んだ。屋敷の一番奥、誰にも気付かれない場所に細長い階段がある。順は頼りない足取りで一段ずつ階段をのぼった。
ストレンジャーに堕ちてしまったはずの逢坂は、奈月の放った浄化の技に助けられたという。奈月が浄化術を使えるというのも初めて知ったが、何より順が驚いたのは逢坂から歪みらしいものが全て消えていたことだった。
……オレは?
順は呟いて口許を歪めた。
じゃあ、オレは?
来年までに『魂の座 緋色の遺言』が終わるかどうか……微妙かも……。