切りの良いところでエピソードを分けます。
短めです。あ、エロシーンはありません。
よしよし、と言いながら巴が腕に抱いた赤ん坊に笑みかける。それを横目に透は欠伸をした。ちなりが恐々とそんな巴の横に立って赤ん坊の顔を覗き込んでいる。部屋の脇に静かに控えているのは透の使い魔である凍矢だ。最初は透も赤ん坊の世話を凍矢に任せようと思っていたのだが、巴とちなりが自分たちですると言い張ったのだ。
透の私室の様子は以前と何も変わってはいない。だが一歩、この部屋を出ると地下施設内は極寒の地のごとく凍りついたままだ。
さすがに広範囲に渡って雪を降らせるのにはかなり力を使う。生あくびをしながら透は瞼を指で擦った。水輝の足跡を楽に辿るにはこの方法しかなかったのだが、逆に力を使いすぎたかも知れない。何度目かの欠伸をかましながら透はのろのろと腰を上げた。
「あっ、透くーん! この子、笑ったよぅ!」
嬉しそうに言うのはちなりだ。小さい、それこそまだ乳飲み子を余り目にしたことがないのだろう。はしゃいで笑っている。そうか、とちなりに答えて透は部屋の隅に立つ凍矢に近付いた。
凍矢は初めて造った使い魔だ。長く白い髪をした凍矢の顔を透はしばらく眺めた。我ながらいい出来だ。そう呟いて頷く。すると凍矢は静かに頭を垂れ、恐れ入りますと囁いた。
水輝が造ろうとしていた赤ん坊には歪みや淀みといったものしかこめられてはいない。だが見た目にはごく当り前の人間に見える。性質もほぼ人間と変わらないらしく、巴が与えるミルクも美味そうに飲んでいた。一つ、違うところがあるとすれば、その目の色だろうか。
赤ん坊の目はまるで血のように赤い。
「そろそろ寝かせましょうか。疲れちゃうし」
こちらも機嫌よく微笑みながら巴が告げる。ああ、と頷いて透は目でちなりを制した。えー、抱きたいのにぃ、とぼそぼそとちなりが告げる。だがちなりは透に従って伸ばしかけていた腕を大人しく引っ込めた。
両手に赤ん坊を抱いた巴のためにちなりが静かにドアを開ける。だがそこでちなりは慌てたようにドアを閉じた。ドアの外が吹雪いていたのだ。あ、と気付いて透はドアのところで困惑顔で佇む二人に近づいた。
「ちょっと待ってな」
そう言い置いて透はドアノブをつかんだ。あっ、とちなりが慌てた声を上げる。巴は庇うように赤ん坊を両腕にしっかりと抱え込み、ドアに背を向ける。そんな二人に苦笑して透はドアを開いた。
それまでの実験施設を満たしていた氷や雪がきれいになくなっている。もう、この場所を冷やす必要はない。そう考えて透は施設に満たしていた冷気を全て回収したのだ。
「みんなで一緒に寝るか?」
そう言って笑うと透は驚きに硬直している二人より先に私室を出た。氷越しに淡く廊下を照らしていたライトも、今は正常に機能している。廊下を悠々と歩く透を慌てたように二人が追ってくる。
三人で寝室に入る。巴が部屋の隅に設えられたベビーベッドに赤ん坊をそっと下ろす。その間に透はダブルサイズのベッドに横たわった。もー、と不服そうにちなりが唇を尖らせる。
「なんだ?」
「だって、寝るって言うから、寝るって言うから」
拗ねてそっぽを向いたちなりに苦笑して透は目でベビーベッドを示してみせた。いま、下手に騒ぐと折角眠った赤ん坊を起こしてしまう。透の言いたかったことをすぐに理解したのかちなりが拗ねつつも小さく頷く。
透はやれやれと肩を竦めてちなりに手招きをした。隣に座ったちなりを抱き寄せて腕に抱え込む。可愛らしい小さな悲鳴を上げてちなりがぴくりと身体を竦める。
「巴? どうした?」
腕にちなりを抱えたまま、透はそう声をかけた。ベビーベッドの傍で所在なげに佇んでいた巴が慌てたように顔を上げる。透は口許に笑みを浮かべて自分の隣を目で示した。物言いたげにしていた巴がぱっと明るい顔になる。いそいそと空いたスペースに座った巴の膝に透は頭を乗せた。
ほどなく睡魔が襲ってくる。透は腕にちなりを抱え、巴に膝枕をさせたまま目を閉じた。
しばらくは透視点で続きます。