※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


透とホラーとサスペンス? 1

 眠りについて一時間ほど経ったところで透は目をあけた。思った以上に力は回復している。両隣で眠っている二人の少女に笑みかけてから透はそっとベッドを抜け出した。ベビーベッドを覗き込む。

 

「凍矢」

 

 小声で使い魔の名を呼ぶ。すると透のすぐ傍の空気が揺らぎ、凍矢が姿を現した。透は目で赤ん坊を示してから頼む、と凍矢に告げた。二人の少女は透が起こさない限り、眠ったままだ。例え赤ん坊が泣いても気付かないだろう。凍矢は主人である透の命令に静かに頷いてみせた。

 

 寝室を出て私室に向かう。机に乗せたままだった携帯電話を取り上げて透はとある番号に電話をかけた。が、どういう訳か相手が出ない。忙しいのかな、と呟いてから透は顔をしかめた。そんな筈がある訳はない。何しろ電話の相手はここのところ寝込んでいるのだ。起きてどこかに行ける元気などないだろう。

 

 直通だから、と笑っていた順の顔を思い出しながら透はしばらく携帯電話の液晶画面をじっと見下ろした。

 

 あの赤ん坊は水輝が故意に作り出したものだが、どうやら水輝の特性とは全く関係なく歪みや淀みで出来ているらしい。それは触れた透にもよく判った。だが、だからこそ売りになる。

 

 ハンターの特性はその歪みにある。それを凝縮したものがあれば、研究にはもってこいだろう。生憎と生体研究は透は行っていない。だが順の許にはその手の研究施設がたくさんあるのだ。

 

「行くしかないか。このままってわけにはいかないからな」

 

 頭をかいて透はそう呟いた。ここから木村の屋敷まではけっこうな距離がある。のんびりと歩いて行ったら明日になっても辿り着けない。仕方なく透は順のいる屋敷までの距離を頭の中に思い描いた。

 

 額に指を当てる。力を放出した次の瞬間、透は順の屋敷の中に転移していた。目を開けて周囲の様子を伺ってから透は眉を寄せた。暗い部屋には誰もいない。

 

 透は無言で部屋を横切った。順が眠っている筈のベッドのシーツは乱れている。透は目を細めてシーツをじっと見下ろした。力の片鱗が輝いて見える。ベッドシーツに点々と落ちた金色のものを見つめてから透は顔を上げた。床に打ち捨てられているのは汚れた数枚のタオルだ。透は傍に屈みこんでタオルを静かに取り上げた。月明かりに晒すとよく判る。タオルに染み付いているのは血だ。

 

 拾った場所にタオルを戻したところで透ははっと顔を上げた。いつの間にか部屋のドアが開いている。自分の迂闊さに歯噛みしながら透は注意深く周囲を見た。だが誰もいない。ほっと息を吐こうとしていた透の視界にゆらりと何かが割り込んでくる。透は慌てて身構えると視界に映った人影に向き直った。

 

 ふらふらとした足取りで誰かが部屋に入ってくる。揺れるスカートを見て透はその影が女だということを知った。何だ、と身体にこもっていた力を抜きかけて透は驚愕に息を飲んだ。月明かりの射しこむ場所にゆらりと歩を進めた女の顔が白い光に照らされる。

 

 それは女の姿をした水輝だった。透は緊張に身を固めてしばし水輝の様子を伺った。だが水輝は透にまるで気付いていないのか、ゆらりと窓際まで歩み寄ったかと思うと、唐突に踵を返す。そしてまた、入ってきた時と同じように頼りない足取りで部屋を出て行ってしまう。

 

「違う、あれは人形?」

 

 水輝の消えたドアをしばし見つめていた透はそう呟いた。どういうからくりかは判らないが、先日会った水輝と今の水輝は別の者のようだ。一体、何を目的に作られたのかは判らないが、先ほどの水輝の身体は機械仕掛けだった。

 

 釈然としないものを感じながら透は歩き出した。とにかく誰もいないならここにいても仕方がない。透は部屋に残っていた気配を読み取って片方を追いかけ始めた。もう片方は火龍神である火藍のものだろうが、生憎と火藍の気配はこの部屋にしかない。どうやらここから直接、外へと跳んだようだ。

 

 廊下に出るとほの暗い光が目に入る。どうやら部屋とは違い、廊下には明かりが灯っているようだ。点々と灯された光を頼りに透は廊下を進んだ。時折、じゅうたんが血に汚れているのが目に付く。進行方向に落ちているということは、恐らくこの血の持ち主は順だろう。現に順の気配は進むうちに次第に濃くなっている。

 

 龍神として覚醒はしたが、透はそれほど龍神に関する知識を得てはいない。実験施設を凍らせるという強引な方法を使って使い魔は造ることが出来たがそれだけだ。力を上手く使うには絶対的に情報量が足りないのだ。

 

 だから順との取引は透にも好都合だった。もちろん、順には相応の手数料は貰うことになっている。が、透が得るのはそれだけではない。上手くいけば順からも情報を引き出すことは可能だ。それを見越して透は順に取引を持ちかけたのだ。

 

 ふと、気配が色濃くなる。透は足を止めて無言でじゅうたんを見下ろした。そこにやけに大きな血溜りがある。透はしばらくその血溜りを見つめてから再び歩き出した。

 

 屋敷の中は不気味なほどに静まり返っている。一階の玄関の広間にある大きな時計の音すらよく届いてくる。ボーン、という振り子時計の音に透は思わずびくりと肩を震わせた。




確か当時バイオハザードやってた気がしますw
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