「そう。この宝珠に、ね。ごはんを……あげているんだよ」
囁くように告げて順がくすくすと笑う。透は背筋にぞくりとするものを感じて反射的に女から目を背けた。だが目を背けたことで別の感覚が鋭くなったのか、それまで聞こえなかった音が聞こえてくる。
それは何かを咀嚼する音だった。ずるり、という音と何かを噛み砕く音が聞こえてくる。透は身震いして音のするほうを見た。
闇に慣れた目に床に座り込んだ順の姿が見えてくる。透は思わず口許を押さえて低く呻いた。順が血だらけの手に光をなくした宝珠をつかみ、それに食らいついているのだ。半ば以上、姿をなくした宝珠を順が嗤いながら片手の指の間につまむ。天井を仰ぎ、舌を軽く伸ばした口に掲げた手が宝珠の欠片を落とす。美味そうにそれを咀嚼して飲み込んでから順は血に濡れた手を舐めた。
あまりに衝撃的な光景に透はその場にへたり込んだ。順がハンターだということは知っているつもりだった。だが実際に宝珠を食っているところを見たのはこれが初めてだ。その光景は透が思っていた以上に残酷なものに見えた。
「おまえ……いったい?」
「ん、ふ。また勃ってきちゃった」
うっとりとした面持ちで呟き、順は鎌に刺された女に這い寄った。白いスカートを跳ね上げて女の股間を晒す。脱力した女の腿を持ち上げ、順は腰を女に寄せた。何をするのか判っていたのにどうしても目が離せない。透はごくん、と口の中にたまったつばを飲み込んで二人の様子を凝視した。
月明かりに晒された順の横顔には鮮烈な嗤いが浮かんでいる。血に濡れたペニスを女の膣に突き入れ、順は乱暴に腰を揺すった。だが女は殆ど反応しない。言葉にならない声を漏らして震える手を透に差し伸べているだけだ。
腰を揺する順の目にえも言われぬ不気味な光が宿る。順は嗤いを浮かべたまま、女の胸に右手を突きたてた。その瞬間、脱力していた女の身体が不自然に跳ねる。
「いい子だね、都子。ご褒美をあげるよ」
そう囁いて順が女の胸に突きたてていた右手を勢いよく引き抜く。そして同時に順は艶のこもった声で喘いで腰を震わせた。その瞬間、鎌に刺されているというのに女が狂ったように暴れる。
「あ、れぇ? 駄目だなあ……。大人しくしなきゃ」
虚ろな眼差しを周囲に彷徨わせ、順は左手だけで女の腹を貫く鎌の柄を握りしめた。軽く身体を起こして柄に体重を乗せる。それに伴って女の動きは鈍くなっていった。
これは、いったい、なんだ。
二人を凝視する透の頭を疑問が巡る。魅入られたように透は二人の様子を見つめていた。順はうっとりとした目で右手に握った宝珠を見つめている。女が再び大人しくなったところで順は床に座り込んだ。ねばついた音を立てて順のペニスが膣から抜ける。女の膣から現れた順のペニスは白く染まっている。射精した跡だ。
だが透の目には順と女が性交しているようにはどうしても見えなかった。味見、と囁いて順が右手の中に捕らえた青い宝珠に舌を這わせる。次いで、順は大きく口を開けた。その口には見慣れないものが生えている。透は驚愕に目を見張り、順の牙を見つめた。微かな音を立てて順の牙が宝珠に食い込む。それと同時にそれまで大人しくしていた女が唐突に叫び声を上げた。
まるでトマトでも齧るように順が宝珠を噛み千切る。同時に宝珠が帯びていた青い光は急速に失われた。女はまだ叫んでいる。
「おまえ、いったい何なんだよ!」
目の前の光景に強い衝撃を受けた透の腰は既に抜けていた。だが透は必死の面持ちで叫んだ。
不意に甲高い音が鳴る。透ははっと息を飲んで音のした方を向いた。まだ女は叫び続けている。音を立てているのは女の腹に突き立った闇色の鎌そのものだ。鎌が震えて空気を鳴らしている。
「もー……。うるさいなあ……。お前はいつもいつも……」
ぼやくように言ってから順がのろのろと腰を上げる。その両手で柄を掴み、順は無造作に女から鎌を引き抜いた。それと同時に女の叫びがゆっくりと小さくなっていく。ようやく終わったのか。透は女の容態を気遣うより何より、この光景が終わったことにほっと息を吐いた。
鎌の柄を握った両手が振りあがる。透ははっと目を見張って止めろ、と叫んだ。床に横たわった女はまだ透に手を伸ばしている。
女の身体が鎌の刃で縦に真っ二つにされる。透は愕然とその光景を見つめていた。鎌の刃に床ごと裂かれた女は、断末魔の悲鳴を上げる間もなく一瞬で砂になって散った。空色の細かな砂が透のいる場所まで漂って消える。
どすん、と順が腰を下ろす。それまで握っていた鎌を床に放り出し、順は転がしてあった宝珠の残骸をつかみ取った。愉悦の笑みを浮かべて美味そうにそれを食い始める。
これはハンターではない。透の脳裏にそんな言葉が思い浮かんだ。だがハンターでないと言うなら、目の前にいる順は一体なんなのだろう。透は混乱する頭を押さえて低く呻いた。動こうと思うのに身体がまるで動かせない。さっきまで意識しなかったのに、気付いたらもう、転移するだけの力はなくなっていた。何かが急速に透の力を吸っているのだ。
実は透はホラーが嫌いです。