エロはあるけど気をつけてください!
宝珠を食い終えた順が熱いため息をつく。あー、と力ない声を放ってから順はくすくすと笑い始めた。床に放り出した鎌を手に取り、順が腰を上げる。
逃げろ。そう透は自分に命じた。だが身体がまるで言うことをきかない。透は引きつりながらじりじりと後退するのが精一杯だった。舌なめずりをしながら順がゆっくりと透に歩み寄る。順の動きに合わせてじゅうたんを鎌が引きずられ、刃に触れた部分が容赦なく刻まれていく。
元は白かったのだろう。順のシャツは血に染まっている。股間では剥き出しになったペニスが白く汚れたままかたく屹立している。透は声にならない悲鳴を上げて、壁伝いに懸命に逃れようとした。
「逃げたら殺すから」
嗤い混じりに言って順が無造作に透の髪をつかむ。透はがくがくと震えながら首を横に振った。冗談じゃない。ホラーは嫌いだし、何より宝珠を誰かにくれてやる気はさらさらない。だがそうは思っても透の身体は自由には動かせなくなっていた。辛うじて首や指といった辺りは動かせるが、逃げたり反撃したりは到底無理だ。
「どーしろって言うんだよ!」
錯乱気味に叫んで透はかたく目を閉じた。目を閉じると余計に他の感覚が研ぎ澄まされる。濃い血臭と精液の匂いが鼻をつく。順の吐息がいっそう近くに感じられる。
「美味しい力だよねぇ。ぞくぞくする」
嬉しそうに呟いて順は手に力をこめた。髪を引っ張られた透は順を睨もうと目を開けた。だがそこで凍り付く。順の垂らした涎が透の頬に落ちたのだ。紛れもなく順は本気なのだ。
だが正気じゃない。順を凝視して透はそう呟いた。順の耳には届かなかったのだろう。くすくすと笑いながら透を舐めるように見つめている。まるで値踏みでもしているような視線を感じ、不快感に透は顔をしかめた。
順がおもむろにその場に膝をつく。首筋に生ぬるいものを感じて透はひっ、と息を飲んだ。順が舌先で透の首筋を舐めたのだ。
「ばか! へんたい!」
そう叫んで透はありったけの力で順を押し戻そうとした。が、腕は辛うじて上がったが殆ど力が入らない。こうしている間にも順は接触している部分から根こそぎ力を吸い取っているのだ。
不意に熱いものがこみ上げてくる。透は目を見張って息を飲んだ。嫌悪感と恐怖に苛まれているというのに、何故か下半身が熱い。絶句して視線を落とした透は膨らんだ己の股間を目の当たりにし、思わず叫んだ。
「ばっ、ばか! 何する気だ!」
「セックス」
それまで透の問いに答えなかった順が嗤いながら囁く。
「すっごく気持ちいいよぉ。ぜったい。保証する」
歌うように告げて順は透の肩をつかんだ。床に鎌が放り出され、刃が月光を反射する。それを見ながら透は懸命に身をよじろうとした。だがどうしても身体が動かせない。
「やめ、やめろってば! ちょっと、おい!!」
そう叫んだ途端、透は唐突に言いようのない快感に襲われた。女の時に感じたのとも、男として巴やちなりを抱く時の感覚とも違う。透は無意識に深い吐息をついて視線を中空に泳がせた。それまで抵抗しようとしていた身体からなけなしの力が抜ける。
「くっ、あっ、あああっ!」
ぷつり、と音を立てて何かが首筋に潜り込む。その瞬間、透は叫びとも吐息ともつかない声を上げた。何の刺激も受けていないのにペニスがびくんと脈打つ。掠れた声を上げながら透は服の中に射精してしまった。
「う、ふふ。気持ちいいでしょ? もっと、よく、しようねぇ」
妖しい笑みを浮かべて順が透の首筋に伝った血を舐め取っていく。透は順が首に牙を立てたことに全く気付かなかった。荒い息をついて目を細める。いつの間にか視界は涙に滲んでいる。透はぼんやりとした視線を天井に向けたまま、溶けかけた理性を必死で取り戻そうとした。だが与えられる快楽が強すぎて、どうしてもうまくいかない。
透の肩をつかんでいた順の手に強い力がこもる。左右に一気に腕を開き、順は透の服を引き裂いた。首筋に垂れた血の流れを追いかけるように、ゆっくりと舌を透の肌に這わせていく。血を舐められるたび、透は言いようのない快感を覚えた。とてもではない。理性などもちはしない。
「やっ、やだっ……助けて! 優一郎! やだっ!」
恐慌状態に陥って透は必死でそう叫んだ。その瞬間、びくりと順が震えて顔を上げる。急に快感から解放された透は慌てて順を見た。その場にうずくまって順は苦しげな息を吐いている。胸を押さえた順の手の指の間から血が床に滴り落ちる。よくは判らないが、順は急に容態が悪くなったらしい。
順が震える手を鎌に伸ばす。透は懸命に壁を伝って横ばいに逃げた。とにかくここから早く脱出しよう。快感がなくなると同時に透には理性が戻ってきた。幸い、順の具合が悪くなったからなのか、多少の力が戻ってきている。
「優一郎、優一郎、優一郎、優一郎、ゆーいちろーすきじゃー!」
どうやら優一郎の名が順に何らかの影響を及ぼしているらしい。そう理解した透は全力でそう叫んだ。すると予想通り、順の苦しみ方が激しくなる。胸を押さえたまま順は床に倒れこんだ。手に握られていた鎌がごとん、と重い音を立てて床に転がる。それまで聞こえていた順の不気味な笑い声も今は聞こえない。透は深く息を吸って胸をなで下ろした。吸血鬼ににんにくが効くように、順にも優一郎の名が効くのかも知れない。
「なんだかわかんないけど、優一郎ありがとー」
手を口許にあてがって透は大声で順に向かってそう言った。苦しみに顔を歪めながら順が薄く目を開ける。それを見た透は駄目押しとばかりに優一郎の名を連呼した。すると順がうわわわ、と情けない声を上げて胸を強く押さえる。
「ちょ……絵美佳ちゃ……勘弁、して」
だらしない笑みを浮かべて順が切れ切れに告げる。それを見た透はふん、と鼻で笑ってその場に立ち上がった。床に転がった順を容赦なく蹴飛ばしながら告げる。
「あんたが、気持ち悪いからよ。ゆういちろー!」
「いててててて!」
順が情けない声を上げて床を転がる。透は怖がらされた分を取り戻す勢いで続けざまに叫んだ。
「って別にゆーいちろーが気持ち悪いわけじゃないから優一郎ごめんね!」
「あてててて! 痛いっ! 痛いってば! 絵美佳ちゃあん!」
さっきまで感じていた不気味さは今の順にはない。どうやら完全に正気に戻ったようだ。そのことを悟ってはいたが、透はしばらく順をいたぶることに専念した。
どさまぎで何を言ってるんでしょうか、透クンw