※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


九九を唱えてみる 3

「要さん。最初に戻ってもう一度考えてみてください。あなたならわかるはずです」

 

 にっこりと笑って優一郎が告げる。要は焦る気持ちを堪えてええと、と頭を押さえた。記憶をたどってパーツを取り替える前にしていた話を思い出す。しばし無言で目を閉じていた要は、記憶をたぐり寄せて絶句した。目を見張ってゆっくりと顔を上げる。

 

 視線の先で優一郎が微笑んでいる。要は瞬きをすることも忘れ、しばし優一郎を見つた。

 

「吉良瀬の作った龍神は三人。依頼したのは当主の吉良瀬立城氏、そして、研究を行ったのは僕の両親。そして、完成体のうち一人は僕の実の姉だとして育てられてきました」

 

 語りながら優一郎はいつもの椅子に腰を下ろした。机について椅子を回転させる。要は少し離れた場所に腰を下ろした優一郎を呆然と見つめていた。

 

 人の手でとんでもない力を造る。紛れもなく優一郎は実感としてその恐ろしい出来事を知っているのだ。

 

「姉が龍神だということが判明しても、僕は自分の素性を全く疑ったりはしませんでした。姉が実験体なら、自分も実験体である可能性は高い。その事実から無意識的に目を逸らしてきました」

 

 静かな口調だった。優一郎の声には特に感情はこもってはいない。なのに聞いている要の胸には酷く切ないものがこみ上げてきた。優一郎は椅子に腰掛けて要の方を向いている。要は部屋の隅にある簡易ベッドの上だ。この、二人のささやかな距離が絶対の超えられない壁に見えてくる。

 

「斎姫が何のために存在しているのか、吉良瀬の当主がなぜ僕に斎姫を託したのか、説明がつくと思いませんか?」

 

 もし、僕が実験体であったなら。そう付け足して優一郎は微かな笑みを浮かべてみせた。

 

 予想しないではなかった。全ての可能性からその可能性だけを心の底で否定していたのは事実だ。要は目を細めて優一郎を見つめた。その視線に痛ましさがこもっていたことに、要自身は気付かなかった。

 

 人の手で造りだす。それは例え対象が人であろうと、力のある龍神であろうと簡単にしてはならないのではないか。何故なら造られる者には心があるからだ。作り手はいい。対象を実験の末に出来た品と見るもよし、愛を注ぐもよし、それは自由だ。

 

 だが造られたものに選ぶ権利はない。そう考えて要は首を振った。今は感傷に囚われている場合ではない。冷静に状況を理解し、次にくるかも知れない事態に備えるのが先決だ。

 

 全ての話を一本にまとめるには、優一郎の存在が絶対不可欠だ。何故、吉良瀬当主が斎姫を保護していたか。優一郎は明言はしていないが、恐らく斎姫は先に優一郎が言った三名の中に含まれているのだろう。斎姫は吉良瀬の当主が依頼して造り出されたものなのだ。

 

 斎姫の能力とも言うべき特性がもしも要の予想通りとしたら、寄生者が必要になる。神楽坂洋が今は寄生しているようだが、本来の目的とそれは異なっているのではないか。ありていに言えば、神楽坂洋の件は斎姫を造った側の者にとってイレギュラーなのではないだろうか。

 

 いやもしかしたら。要は目を閉じて額に手をあてた。

 

 優一郎は斎姫の役割をイソギンチャクだと言った。だが本当は斎姫こそがクマノミという可能性もあるのではないか。あのグラフからも一見するだけなら斎姫が神楽坂洋の能力を増幅、安定させたと思える。が、本当はその逆ならどうだろう。

 

 つまり、斎姫が神楽坂洋の力を餌に、能力を増幅させた可能性があるのではないか。そこまで考えて要はため息をついて首を振った。あり得ない話ではないが、根拠がなさ過ぎる。

 

「仰って下さい。可能性は全て押さえておいたほうがいいですから」

 

 要が何かを言う前に優一郎が告げる。そこで要ははっとした。そういえば優一郎はこちらが何かを言うより早く言いたいことを察しているような発言をよくする。もしかしたらある程度は本当に考えていることが判っているのかも知れない。そう思いながらも要は判りました、と頷いた。

 

 これまでに思いついた全ての可能性について話すのは勇気がいった。だが要は感じたままを全て優一郎に話して聞かせた。

 

「これらの可能性は全て可能性でしかありません。根拠が全くないものは除外しましたが」

 

 そう告げて要は深く息を吐いた。正直、生徒会業務の方がよほど楽だ。

 

「斎姫さんが他者の能力を吸い取り、後、優一郎さまに提供すると考える方が自然かと思われます。もしもわたくしが考えている通りのことを吉良瀬の当主が狙っていれば、の話ですけれど」

 

 そんなことが可能なのかどうかは判らない。そもそもが要が持ち得ないとんでもない力についての話なのだ。想像の限界をとっくの昔に超えている。だが、だからこそ全く根拠のない話は出来ない。

 

「あなたは本当に得難い人材だ」

 

 心底、感心したといった風に優一郎が呟く。それを聞いた要はあら、と微笑んで見せた。

 

「最強はわたくしのお母様ですわ。わたくし、必ずあの方を超えてみせると固く誓っておりますの」

 

 そう言って要は胸を張ってみせた。そこで胸が丸出しになっていたことに遅まきながら気付く。あわわわ、と慌てた声を上げて要は剥き出しになっていた乳房をシャツで隠した。失礼しましたわ、と小声で告げて要はいそいそとシャツのボタンをかけようとした。

 

 静かに優一郎が腰を上げる。要に歩み寄って優一郎はにっこりと笑った。

 

「要さん、今夜、地下研究室に泊まっていく気はありませんか?」

 

 唐突に訊ねられて要は驚きに手を止めた。目を見張って優一郎を見上げる。ベッドの脇に立つ優一郎の顔を呆然と見つめながら、要は呟くように告げた。

 

「それはもしかして、ラブラブファイアーカップルへ一歩前進ということですの?」

 

 戸惑いながら訊ねる。すると優一郎はぷっ、と吹き出した。

 

「少なくとも今晩、あなたとセックスすることは必要不可欠ですね。今はセックス関連のシステムを無効にしていますが、そのぶんストレス値はかなり増大しているはずですから」

 

 くすくすと笑いながら優一郎が告げる。要はぱっと明るい表情になって勢いよくその場に立ち上がった。だがその拍子に頭を強く天井にぶつけてしまう。部屋の天井が斜めにデザインされていることをすっかり忘れていた。ベッドの上で要は頭を抱えてうずくまった。

 

 痛みを堪えて要は再度、立ち上がった。今度は天井に頭をぶつけないよう、注意する。えへん、と咳払いをした後、要は腰に手を当てて高く笑ってみせた。

 

「もちろんおっけーですわ!」

 

 胸を反らして要は高笑いを続けた。そんな要の脇で、優一郎が口元を押さえて肩を震わせていたことに、要自身は気づかなかった。




要は大体いつもこんな感じですw
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