青い髪はいつの間にか藍色へと変わっていた。朝の白い光を横目に火藍は静かに藍色の髪を手に取った。指に絡めては離す。軽いウェーブのかかった髪は柔らかく指を撫でて過ぎる。
凄まじい痛みはあれからしばらく続いた。高熱にうなされる火藍を看病してくれたのは水輝の傍にいた奈月という少女だった。が、水輝は奈月の名を口にするなと火藍に告げた。その名を火藍が知り得たのは奈月自身が床に指で記してみせてくれたからだ。
熱が引くと共に痛みは次第に納まった。あの二人は火藍が完全に回復するまでずっと付き添っていた。どうやらあの辺りには他に人などはいなかったらしい。奈月が丁寧に掃除した部屋の中に寝ていても、他の気配は何一つ感じなかった。
火藍は身体が回復した後、二人に礼を言って別れた。別れ際に水輝は笑って言った。その言葉を思い出して火藍は微苦笑した。
また殺されたくなったら来やがれ。
そう言った時の水輝の顔にはためらいや後悔は微塵も浮かんでおらず、かつて見た鮮かな光を帯びた水輝と同じ印象を受けた。恐らく、あの水輝がかつての水輝と同じものなのだろう。
指に髪を取る。火藍は僅かに目を細めて深く息を吐いた。目の前に跪いた水輝がぼんやりとした眼差しを火藍に向ける。火藍は無言で水輝の頭を押した。すると水輝が大人しく舌を出して愛撫を再開する。
火藍は熱くいきり立ったペニスを水輝に乳房で挟ませていた。オイルを塗した乳房の間をゆっくりとペニスが滑る。水輝は伸ばした舌の先で亀頭を舐めた。唾液に濡れた舌先が鈴口に差し込まれる。走った快感に火藍は無言で目を細めた。
あれだけ欲していた水輝にこうして奉仕させているというのに、少しも心は満たされない。火藍は水輝の頭を押さえていた手を離し、目の前に両手を揃えて掲げてみた。手の形そのものからまるで変わっている。目の前にあるのは懐かしい男としての自分の手だ。火藍はぼんやりと両手をしばらく眺めてから、再び目を落とした。
水輝が両手で寄せた乳房を上下させる。ねっとりとオイルが絡みつき、柔らかくペニスを扱く。かと思うと時折強く速くなる。水輝は火藍の教えた通り、強弱をつけながらひたすら奉仕を続けていた。
隣の部屋には脱力しきった順が眠っている。火藍が戻った時にはもう、順は倒れていた。傍に全く違う気配が残っていたからもしかしたら襲われたのかも知れない、と火藍は最初考えた。だが荒れ果てた三階の部屋の様子からそうではないことを知った。三階のあの部屋に眠っていたのは都子の身体だ。だがケースの中は空になっていた。間違いない。順は都子の宝珠を身体に取り込んだのだ。
恐らく都子の意識も散っただろう。例え離れ離れになっていても、意識と肉体との繋がりはとても強い。肉体が散った後、都子の意識だけが無事であるとは思い難い。
何故。火藍は目を細めて呟いた。熱心に奉仕を行っていた水輝が焦点の定まらない視線を上げる。続けろ、と命じて火藍は天井を仰いだ。水輝は疑問に思うこともないのだろう。先ほどまでと同じようにペニスを乳房で扱き始める。
順は都子を人形にして以来、ずっとあの肉体を大切に扱ってきた。例え意識がなくとも順に大事なことには変わりなかったのだ。なのに今になってどうして壊してしまったのだろう。それにそんな真似をしたら意識だけの存在になってしまった都子が無事では済まないことも順は知っていたはずだ。
火藍は天井をいつの間にか睨みつけていた。機械の体を捨ててしまったからだろう。前よりも意識ははっきりしているし、感覚も鋭くなっている。だがどんなに研ぎ澄ましても順の思惟は捉えられない。ただ静かに眠っている気配が伝わってくるだけだ。
赤い髪を指でかきあげて火藍は目を落とした。苛立ちに任せて水輝の頭を押さえる。小さな声を上げた水輝の口にペニスを押し込んで、火藍は乱暴に水輝の頭を揺すった。両手につかんだ水輝の頭が小刻みに上下に揺れる。そんな真似をされても水輝は一切、抵抗しない。
喉の奥を何度も亀頭で突く。唾液とオイルにまみれたペニスが音を立てて水輝の口に出入りする。次第に火藍の腰に鈍い痺れのようなものがたまり始めた。
一息に水輝の頭を下腹部に密着させる。勢いよく水輝の喉を滑った火藍のペニスから精液が迸った。水輝の口の中でペニスが大きく脈打つ。火藍は荒い息をついて何度も水輝の頭を上下させた。
深く息を吐いて手を離す。水輝はぼんやりとした面持ちのまま火藍の精液を飲み下すと、口を開けてペニスを吐き出した。白いもので汚れた舌が艶かしくペニスの根元から先までを舐め上げる。亀頭までを舌でたどってから水輝はすぼめた唇を鈴口に当てた。ちゅっ、と音を立ててペニスに残っていた精液を吸う。ぞくりとする快感に身を震わせ、火藍はため息を吐いた。
この屋敷に戻る際、火藍は行きとは正反対に紫の結界を強引に破壊した。衝撃は恐らく立城の元にまで届いている筈だ。ささやかな意思表示のつもりの攻撃を立城がどう受け取るかは判らない。だが火藍は引く気は一切なかった。
「もういい」
ぞんざいに告げて火藍は水輝を足で退けた。再びペニスを乳房で挟んでいた水輝が頼りない声を上げて床に転がる。
「さっさと汚れを拭け」
そう命じて火藍はもう一度、水輝を蹴った。水輝は力なく体を起こしてはい、と返事する。傍にあったワゴンから水を張ったたらいとタオルを取り上げ、水輝は再度、火藍の前にひざまずいた。
火藍は無言で水輝の抱えたたらいに視線を向けた。次の瞬間、冷たかったたらいの水から湯気が立ち上り始める。水輝は黙ってたらいを傍に据えるとタオルをその中に浸した。適温に調節された湯がタオルに染み込んでいく。
濡れたタオルが汚れを拭っていく。火藍はふと気配に気付いて目を上げた。ああ、と小声で返答する。水輝の背後にはいつの間にか翠の姿があった。どうやら結界を上手く越えてきたらしい。翠の身体には傷一つついていない。
「準備は整ったようだな」
翠が告げる。その目からは何の感情も読み取れない。火藍は水輝と翠とを交互に見やり、ああ、と頷いた。
いま、天空の城は無人だ。主龍神天輝は既に潰えている。だが、主龍神を欠いた今の状態は世界にとって酷くバランスが悪いのだ。かりそめでもいい、何か柱となる者が必要だ。そのことは火藍にもよく判っていた。
その柱には意志は要らない。二度とあの間違いを繰り返さないためにも、天の柱となる巫女には意思があってはならないのだ。
龍主には断罪の許しはない。印を刻むのはもっと別の誰かだ。
あの夜、水輝は確かにそう告げた。その言葉に間違いはない。そう。龍主にはどんな許しもない。断罪も何もかも、全ての命は主龍神が下しているように見えるが本当は違うのだ。
そんなこと、本当は知っていた筈なんだがな。火藍は胸中で呟いて立ち上がった。ぼんやりと座り込んでいる水輝の腕を引いて立たせる。
主龍神は意志を持ってはいけない。そうでなければ命が歪んでしまう。本来の主龍神の存在理由は、その命を正確に龍神に伝えることにある。そこに意志があっては世界から下される命が正確に伝わらない。
身支度を整えろ、と火藍は水輝に命じた。水輝が小さく頷いてはだけていた服を脱ぎ始める。一糸纏わぬ姿になった水輝に火藍は無言で頷いた。その手を繋いで翠に目をやる。
主龍神は意思を持ってはいけない。だが全く意志がなければ生きることをもやめてしまう。生存本能のない龍神は存在を保っていられないのだ。そのために、主龍神の傍には必ず誰かが必要になる。
「一度しか言わない。わたしが開けるのは行く道のみだ。一度行けば二度と戻ることは恐らくかなわん」
そこまで言って翠は火藍を見た。火藍は黙って目だけで翠に続きを促した。
「龍主を求めるのはわたしたち龍神だけではない。その他大勢の者たちも龍主を欠いている現在の状態に不満を抱いている。例え道が残っていても、戻ろうとする者を彼らは生かしておかないだろう」
そして翠は火藍を見据えて低い声で告げた。
「それで構わないな?」
「ああ」
火藍はおもむろに頷いて水輝の手を握る手に力をこめた。翠がよかろう、と頷く。それから翠は天に向かって手を差し伸べた。淡い翠色の光が降りてくる。火藍は光に目を細めながらぼそりと呟いた。
「お前も苦労性だな」
「無駄口を叩くな。愚か者」
即座に翠が言い返す。だがその声にはごく僅かにだけ笑いの気配がこもっていた。火藍は苦笑して翠に軽く手を振った。その直後、目の前の景色が弾け飛ぶ。火藍は息を潜めて身体に力をこめ、襲ってくる圧迫感に耐えた。
不意に視界が開ける。火藍の目の前には大きな扉が立っていた。火藍は息を吐いて隣に立つ水輝を見た。水輝はやはりぼんやりとしたままだ。当然だな、と呟いて火藍は扉に手をかけた。
天空の城ラピュ○ではありませんw