「要さん。駄目ですよ。多輝は僕の物ですから。するならライバル宣言のほうをどうぞ」
「まあ、そうでしたの?」
目を見開いて要が口許を押さえる。だが要はそんなことは最初から判っていたのだろう。本当に驚いている訳ではない。そうだよ、と叫んで多輝が慌てたように立ち上がって壁際まで逃げて行く。
「困りましたわ。わたくし、この手のタイプを見るとどうしても虐めたくなるんですのに」
残念そうなため息をついて要が目を伏せる。それを聞いた多輝が怒りに目を吊り上げて喚く。
「お前、なに考えてるんだ! 虐めるとかそういうの、変態だろ!?」
元気よく喚く多輝にええ、と要が悲しそうな目を向ける。すると慌てて多輝が口を手で覆う。心底傷ついた、という顔で要は目元を拭ってみせた。だが本当は泣いてなどいない。要は多輝をわざとからかって遊んでいるのだ。
「多輝。要さんに謝罪するんだ」
優一郎はわざと声から感情を消して静かに言った。すると多輝が困り果てた顔で要と優一郎とを見比べる。
「あ、ええと、その……ごめん」
しばし視線を彷徨わせてから多輝は要に頭を下げた。すると途端に要がぱっと俯けていた顔を上げる。
「冗談ですわ。意外と多輝様って引っかかり易いんですのね」
明るく笑って要はそう言うと優雅に踵を返した。当り前の顔でカウンターに近寄って優一郎の隣の席を手で示す。
「お隣、座って宜しくて?」
「どうぞ」
にっこりと笑って優一郎は頷いた。ありがとう、と微笑んで要が静かにスツールに腰を下ろす。その間、二人に無視された格好になった多輝は真っ赤になって手を震わせていた。
お前ら、絶対おれをばかにしてるだろう! 幾度となくそう叫びつつも多輝は料理を再開した。どうやら要は手伝う気は一切ないらしい。くすくすと笑いながら多輝が料理するのを眺めている。
「可愛いでしょう?」
同じく多輝を見ながら優一郎は笑顔で告げた。要が頷いて多輝の後姿を見つめる。
「ええ、本当に。食べてしまいたいくらいですわ」
要が答えた途端、多輝は身震いして慌てて振り返った。だがすぐに焦った様子でコンロに向かう。鍋が吹き零れている。
「そうだ、要さん。パッシブセンサーの状況を確認してみてください」
優一郎はそう言って首を傾げてみせた。要はそうですわね、と素直に頷く。要はスツールを音もなく降りて静かに多輝に近付いていった。吹き零れた鍋の様子を懸命に見ていた多輝が気配を感じたのかびくりと震えて振り返る。
「うわ! 何だよ!」
鍋の蓋を要に向けて多輝が喚く。どうやらあれで防御しているつもりらしい。だがそんな多輝に構わず要は悠々と歩を進めた。
「何って確認ですわ」
そう告げて要はあっという間に壁際に多輝を追い詰めてしまう。喚く多輝を余所に要がスカートをめくり上げる。それを目の前に見た多輝がうわ、と慌てた声を上げた。驚いたのだろう。多輝の手から鍋の蓋がすっぽ抜けてキッチンの床に落ちる。
「あら。これは……紺色ですわね」
「いっ、いいからしまえ! ばか! それにお前、下着はどうしたんだよ! 下着は!」
多輝の叫びに優一郎は笑って告げた。
「多輝。きみも着用していないはずだよ」
優一郎がそう言った途端、多輝がぎくりと肩を竦める。要がちらりと横目に優一郎を見る。優一郎は要の意図を察してくすくすと笑って頷いてみせた。
「ヒューマノイドにとって女性器ユニットは機械的な中枢であるとともに、外部から制御を受けるためのインターフェースでもある」
歌うように告げて優一郎はにっこりと笑って多輝を見た。多輝は焦ったように要から目を背け、その場に硬直している。
「多輝、スカートをたくしあげて、女性器ユニットを確認させてくれないか?」
「やだよ!」
即答して多輝は横目にちらりと要を見た。要はもう、スカートを下ろしている。だが多輝の傍から離れようとはしない。多輝の持つ、特有の性質にそそられているのだ。優一郎は流れてくる要の思惟を読みながら悲しそうな表情をしてみせた。
「要さん。それでは先にあなたの女性器ユニットを確認してもかまいませんか?」
「宜しくてよ」
そう言って妖しく笑むと要はその場に座り込んだ。優一郎はスツールを降りて静かに要に歩み寄る。要はスカートをたくし上げて膝を折り、腿をひらいてみせた。
そこで硬直していた多輝が喚く。
「待て待て待て! ちょっと待て!」
全力で叫びながら多輝は壁から離れた。その場に腰を下ろして要の様子を伺おうとしていた優一郎に指を突きつける。優一郎は面白半分でそんな多輝を見つめた。
「お前ら、飯を食わないのか!? それともおれの作った料理は食えないってのか!」
そう言いながら多輝が優一郎に突きつけていた指を今度は横に向ける。そこには揚げたてのコロッケが盛り付けられた皿が並んでいた。付け合せにブロッコリーや人参が乗せられている。脇にちょこんと盛られた人参の形を見た優一郎は我慢できなくなって思わす吹き出した。赤い人参が星やハート型にきれいに抜かれているのだ。
「そうだね。先に食事にしようか。学習会兼作戦会議は食事が終わったら始めよう」
そう告げて優一郎はその場に腰を下ろしていた要に手を差し出した。優一郎の手につかまった要が何食わぬ顔で腰を上げる。最初から優一郎も要もここで交わる気など毛頭なかったのだ。ようは二人がかりで多輝をからかっていたのだが、そのことに多輝自身は気付かなかったらしい。よし、と真っ赤な顔をして頷いた。
TLするんだから、変わってるのは多輝の方……w