※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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このエピソードで13章は終わりです。
エロシーンはここにはありません。


時は動き始めている 1

「姉さん!?」

 

 はっと目を見張って優一郎は身体を起こした。極力絞った明かりが仄かに室内を照らしている。優一郎は注意深く周辺を見回した。いま、ベッドにいるのは三人だ。一人は優一郎が抱いている要だ。要は後背位で優一郎に膣を貫かれたまま、オーバーヒートして気を失っている。もう一人は多輝だ。多輝は涙に濡れた目で優一郎と要の行為を見ながら自慰を繰り返している。三人目が優一郎自身だ。

 

 遠く、強固な結界の内側から絵美佳の泣き叫ぶような思惟が流れてくる。どうやら絵美佳は相当に怖い思いをしているらしい。優一郎は現場から遠く離れていながらも、絵美佳の思惟を通じて状況を正確に把握することが出来た。

 

「神崎葵さん、やめてください」

 

 囁くように優一郎は告げた。意識して乗せた力が一瞬で絵美佳の許に辿り着く。その瞬間、それまで結界内にこもっていた不気味な力が弾けて消えた。

 

「って姉さん、うわあああっ!」

 

 思わず耳を塞ぎたくなるような絵美佳の大声が優一郎の頭を直撃する。唐突にがんがんし始めた頭を押さえ、優一郎は力なくベッドに座り込んだ。動いた拍子に要の膣からペニスがずるりと抜ける。

 

 絵美佳はどういう理由で葵が痛がり始めたのかを判っていないらしい。が、優一郎の名にその効果があると判断したようだ。遠慮のない力を乗せて立て続けに優一郎の名を叫ぶ。その度に優一郎の許に瞬間的に絵美佳の思惟が届くのだ。冗談じゃない、と呟いて優一郎はこめかみを強く指先で押さえた。

 

「姉さん、かわってないなあ」

 

 苦笑しながら優一郎はベッドに座り直した。大きく息をついて意識の糸を飛ばす。すると先ほどまでよりずっと鮮明に現場の様子が見えた。床に転がり、胸を押さえて苦しんでいるのが葵だ。その傍らに落ちている鎌はあの時に優一郎が見たものと同じだろう。葵はどうやら対象に攻撃を加える際、その鎌を使うようだ。

 

 優一郎の名を連呼しながら絵美佳が立ち上がる。葵が攻撃の意志をなくしたことに安心したのか、今度は苛めることにしたらしい。葵を蹴っている。葵は情けない顔でそんな絵美佳に許しを請う。やれやれと肩を竦めて優一郎はするりとベッドを降りた。

 

 どうせならもう少し早く、呼んでくれればいいのに。そう胸中で呟きながら優一郎は部屋の隅に寄った。喉の渇きを癒すために机に置いてあった茶を飲む。冷え切った茶をカップの半分ほど飲んでから優一郎はほっと息をついた。少しは頭痛もましになった。

 

 葵は既に攻撃の意志を完全に失っている。先ほどまで現場に満ちていた不気味な力は今はどこにもない。もう少し早ければ葵の力量を少しは把握することが出来ただろう。

 

 まだ時は来てはいない。要の戦闘システムのテストは成功したが、まだ確実と呼べるほどの実感はない。龍神である多輝を軽くあしらってみせたのは素晴らしいと思うが、相手は多輝のレベルなど比ではない。恐らく要が単身向かったならかなわないだろう。

 

 が、思っていたより事態の動きが早い。ゆっくり準備をしている暇はなさそうだ。今すぐに条件を整える必要がある。

 

「蒼さん」

 

 静かな声音で優一郎は呼んだ。すると優一郎の背後の空気が揺らぐ。その場に現れた蒼は優一郎に一礼した。

 

「お呼びでしょうか」

 

 優一郎と同じように小さな声で蒼が返答する。優一郎は振り返って蒼に頷いた。それから蒼の横を過ぎてベッドに戻る。股間を懸命に弄っていた多輝の胸倉を捕まえ、優一郎は右手を一閃した。

 

「多輝。起きろ」

 

 平手で頬を打った途端、多輝が驚きに目を見張って動きを止める。瞬きを数回繰り返してから多輝は焦ったようにめくれていたスカートを戻した。

 

「蒼さん。多輝を使えるようにしてください。ちょっと薬が効きすぎたみたいなので」

 

 振り返りながら優一郎は蒼に告げた。その瞬間、僅かにだけ蒼の表情が揺れる。だがすぐに蒼は優一郎に頭を下げた。

 

「承知致しました」

 

 そう言ってから蒼は静かにベッドに近づいた。戸惑う多輝の身体を両腕に抱き上げる。多輝は困惑しているのか、揺れる視線を優一郎に投げた。だが優一郎はそれを無視して蒼に告げた。

 

「彼女も力の多寡が必ずしも実際に発揮できる能力に反映されないことを思い知ったでしょう。僕は、彼女と共に歩むことを望みますが、それは安寧を約束するものではありません」

 

 蒼が腕に抱えた多輝にそっと視線を落とす。はい、という蒼の返事に優一郎は頷いた。

 

「多輝様のお力は上のお方ととても酷似しています。それ故、周辺の事柄に応じて変化しなければ使い物にはなりません」

 

 おい、という多輝の声を無視して蒼はゆっくりとベッドから離れた。この部屋は元々、多輝が使うように整えられている。実験台や器具棚などは何一つない。その部屋の壁際まで寄ると蒼は静かに多輝をその場に下ろした。

 

 蒼が上の方、と称したのは水輝のことだ。多輝は八大である水輝の配下に位置する龍神なのだ。が、多輝にはその自覚はまるでない。水輝に相当痛い目に合わされているのか、その名を耳にすると先の要とのやり取りの時のようにすぐに逆上する。事に当たる前であればそれもいいか、と放置して来たがここに至ってまだそんな寝言を言っているようでは使えない。

 

「大丈夫です。彼女には克服できるだけの力があると信じています。また僕も手助けを惜しむつもりはありません。それから、蒼さん、ひとつきちんと認識を改めて欲しいことがあるのですが」

 

 そこまで言って優一郎は言葉を切った。蒼が静かに振り返る。その目には穏やかなものしか浮かんでいないように見える。

 

「何でしょう」

「今の多輝の主は僕です。その事を肝に命じてください」

 

 そう告げると蒼がぴくりと眉を上げる。だがすぐに蒼は判りました、と答えた。




襲われた絵美佳(透)の叫び声が聞こえた辺りですw
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