考える透(悶々としているとも言う
地下施設は嫌に静まり返っている。冬休みに入ってクラブ活動を行っていた生徒たちも暮れと正月には長い休みを取る。いつもなら地上をにぎわしている生徒たちがいないからかも知れない。
巴とちなりは今は眠ったままだ。水輝から奪ったあの赤ん坊も眠りについている。どういう訳かは判らないが、あの赤ん坊があれから起きることはなかった。あれから夜が明けても日が変わっても赤ん坊は一度も目覚めない。もしかしたら何かのきっかけで目が覚めるのだろうか。
あの夜、暗闇の中で見た順のことを思い出して透は身震いした。ホラーは元々苦手だ。なのにどうして自分はあんなところに行ったのだろう。そこまで考えて透は疲れたため息をついた。
透の私室には今は他には誰もいない。使い魔の凍矢もいまは主人である透の邪魔をしないよう、姿を消している。透はソファに座って背もたれに身体を預けてじっと天井を睨みつけた。
あの時、順は正気をなくしていた。龍宝珠を貪り食う姿はとても奇異なものに見え、透はこれまで感じたことのない恐怖を味わった。ハンターだと聞かされていたのに順のあの時の姿はどうしてもそれには見えなかったのだ。
何だろう、と考え、でも答えは見つからなかった。ハンターは龍神を狩るという。床に転がっていたあの女は恐らく龍神だ。その女から龍宝珠を奪い食っていた訳だから、その行為そのものはハンター特有のもの見るのが自然なはずだ。なのにどうしても順のあの時の姿とハンターの特性が透の中で一致してくれないのだ。
優一郎の名に助けられる格好で透は順の許からこの研究施設に戻った。だがその直前に接していた順はいつもと同じに戻っていた。正気を取り戻したからなのかとも想ったが、どうも何かが引っかかる。透は顔をしかめて頭をかくと一旦思考を止めた。
立ち上がって指を鳴らす。その場に現れた凍矢に茶を準備するよう命じてから、透は再びソファに腰を下ろした。しばらく待つと凍矢が部屋に戻ってきた。程よくいれた茶を透に出してから姿を消す。透は湯気の立つカップを取り上げて茶を啜った。
そもそもどうして順はあんなところに龍神を引き込んだのだろう。どうせやるなら外での方が動き易い。あんな狭い部屋で戦うなど正気ではない。
だが女が抵抗した跡はなかった。もしかしたら順は龍神を楽に捕らえる方法を思いついたのだろうか。だとすると順が開発していた特殊銃弾等は無駄になったということか。そこまで考えてから透は首を振った。
あり得ない。開発された特殊銃弾は三流以下の龍神には通用するが、それ以上には効果が低い。ハンターたちが相手にするのは三流以下ばかりではない。時には大きな餌のために敢えて危険を冒すこともあるのだ。そんなぎりぎりの戦いにおいて使えないものを、わざわざ順が開発するとも思えない。
確かに順はおちゃらけた感じは受けるし、実に面白おかしく生きているように見える。面白いことになら何でも首を突っ込み、挙句、今のような痛手を受けているとも取れる。が、よく見るとそれだけではないのだ。順は順なりにきちんとハンターたちのことを考え、出来るだけ彼らの飢えを満たせるよう、木村という財閥の権力、財力を駆使しているのだ。
もしも順が楽に龍神を捕らえる方法を見つけたのなら、ハンターたちに知らせない筈はない。そしてもし、実際に知らされたなら今ごろ三流以下の龍神たちはざくざくと彼らに狩られているだろう。なのにその気配は一切ない。
ということは。透はそう呟いて茶を啜った。
女はもっと別の事情であそこにいたと考えられる。だが何故、順はわざわざ自分の屋敷に女を入れるような真似をしたのだろう。あの部屋にだけは女の気配が色濃く残っていた。一日二日の積み重ねではない。ずっとあの女はあの部屋にいたのだ。
知らないことが多すぎる。透は目を細めて顔を上げた。順は思っていた以上に情報をかたく閉ざしている。透が知りたいと言ったことについては順は嫌に簡単に教えてはくれる。なのに知りたいと透が感じているだけのことについては、一切順は触れようとはしない。透が知りたいと実際に口をする機会を、順が悉く潰しているのだ。
何を隠しているんだ。透はそう呟いて天井を睨みつけた。
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