準備を急ぐように言われているのに、要は焦るばかりで肝心の武器を見つけ出すことが出来ずにいた。
「ない! ないですわ!」
要はそう喚いて栄子の執務室を懸命に探し回った。だがいつもあるべき筈の場所はもちろん、他のどんな場所にもそれだけがない。
先に命じておいた野木と周藤は慌ただしく屋敷内を駆け回っている。次々に要のいる執務室に姿を現しては、手にした武器をテーブルに乗せてまた部屋を駆け出して行く。そんな二人に気遣いの言葉をかける余裕もなく、要は必死で室内を探し回った。
まさか会社に、とも思ったが、栄子があんなに大事にしていたものを会社に持っていくはずがない、と要はすぐに自分の考えを否定した。要が師範から譲り受けた弓は既に優一郎の許に送られている。それは問題ない。だが栄子のそれは要のものとはまた別の意味で特別製なのだ。
栄子はかつて言っていた。
あなたがいつか、素晴らしい男性をつかまえることが出来たら譲りましょう。
栄子の大事にしていた武器を見て欲しいとねだった幼い要は、それを聞いて不服に頬を膨らませた。駄々をこねた要は直後に栄子に厳しく叱られたのだが、今はそれはいい。問題は栄子が見せてくれたあの弓だ。
要がまだ道場に通っていた折、栄子を含む龍田流派手練の者が他流派との手合わせを行ったことがある。抜刀術、柔術、長刀術、棒術、弓術、暗術と次々に勝負を決する戦いが行われる中、弓術で勝負することになったのは栄子だった。
今でも忘れない。あの時の栄子は敵を圧倒する強さをみせたのだ。その時に栄子が引いていた弓は日の光を反射して銀色に輝いていた。その輝きがどうしても要の頭から離れないのだ。
あれは最強の弓だ。誰に聞くでもなく要は直感でそう理解した。だが簡単に手に出来るものではないと言うことも判った。事実、栄子が弓を引いた姿を見たのはその一度限りだ。
要は袴を翻して踵を返した。壁際にそって設えられた大きな棚をもう一度、端から確認する。だが中をどんなに覗きこんでも弓はない。要は舌打ちをして執務室を飛び出した。屋敷の中は騒然となっており、野木と周藤だけではなく使用人たちも要の命令に従って慌ただしく屋敷内を探し回っている。駆け足で行き過ぎる人々を横目に要は二階の栄子の寝室に駆けた。
たんすの裏、床下、天井、果ては庭の隅々まで探しても栄子の弓は出てこなかった。屋敷中を探し回った要は疲れた息をついてへたり込んだ。執務室の床に座り込んだ要を気遣うように野木が口を開きかける。だがそれを周藤が制して二人は黙々と作業を続けた。準備された武器の一つ一つを丁寧に磨き、状態が万全であることを確認していく。
「仕方ありませんわ……。とりあえずはわたくしの弓を持っていきましょう」
誰ともなく言って要は腰を上げた。神妙な顔で野木と周藤がはい、と返事する。要は用意した武器を一まとめにして袋に詰めると、車を出して学校に戻った。
あなたたちはここまで。そう言ってから要は地下施設の二階に繋がるエレベーターに乗り込んだ。野木と周藤がエレベーターの扉の前で要に向かって一礼する。要は二人に頷いて地下二階の優一郎の私室に急いだ。
不安に揺れる心を要は叱咤した。
お母様との約束は果たした筈ですもの! きっと手に入る筈ですわ!
そう自分に言い聞かせ、要は優一郎の部屋のドアを開けた。
要の主武器ですw