意識の糸が一本、切れる。
立城はじっと窓の外を見つめて微かな笑みを浮かべた。水輝の刀の前にまた、一人の使い魔が散ったのだ。一緒に送り込んだあの植物は奈月の手によって浄化され、本来の小さな種へと戻ってしまった。
施された結界を強引に越えてしまえばそれだけダメージを受ける。それを知っているからこそ、水輝は一人ずつ使い魔たちを倒しているのだ。使い魔を媒介に張られた結界は、一つずつ消え、その度に水輝が近付いていく。
吉良瀬の屋敷には今は誰もいない。立城ただ一人きりだ。最後まで残っていた桜ももう、傍にはいない。最後の最後、ささやかな希望をこめて残した桜も性をまとって水輝の許に向かっている。
恐らく水輝は容赦はしない。そうでなければこれほど速く戻ることは出来なかっただろう。
「けど、無駄だよ。どんなに僕を出し抜こうとしても、君は絶対に追いつけない」
木村の屋敷には絶対不可侵の強固な結界が施されている。例え水輝と言えど、そう簡単に結界は越えられない。幾つも張り巡らされた立城の結界を越えてなお、力が残っていたとしても最後の壁は水輝には分厚すぎる。
吉良瀬の屋敷を出て行った後、水輝の足取りはとある時を境に見失われた。何をしていたのかは知らないが、行方をくらましたからといって遮る方法を手に入れられたとは思えない。立城はくすくすと笑いながら窓にかかるカーテンをそっとつかんだ。
空を仰ぐ。青い空には雲一つない。立城は眩しい光に目を細めて呟いた。
「もうすぐ……。もうすぐだよ」
夢見るような心地で立城はふわりと笑った。邪魔者はもういない。後は子供たちが順と相見えるだけだ。それで全ては終わる。
事が終わった後、主はどうなさるのですか。
桜がぽつりと漏らした言葉が胸のうちに蘇る。立城は今はもうここにはいない桜を思い描きながら小さく笑った。
どうもしない。それがかなえば僕はもう、他に望みはないのだから。
財閥という人の世の力も、龍神としての力も、器に残るなけなしの人の肉体の力すらどうだっていい。天も地も、欲しい者が手に入れて好きにすればいい。世界の意味も、その目的も関係ない。
ただ一人、最愛の人を救えるなら。そう呟いて立城は胸に手を当てた。両手で胸を押さえて小さな声で告げる。
「今度こそ、君を助けてみせる。そのためになら」
どんなものでも踏みつけられる。どれだけこの先の道が汚れたものになろうとも、全然構わない。
紫の結界を光が越える。そして光はそのまま、木村の屋敷を包む強固な結界を跳び越えた。空に描かれた光の筋を目で追いかけ、立城は嗤いを浮かべた。
短すぎて1,000字を切るかと思いました(汗)
危ない(汗)