「多輝、彼が動いたら保たせてくれ。十秒、まかせる」
背後にいる多輝に声を投げる。気配で多輝が頷いたことを知り、優一郎は葵に向き直った。どうしよっかねぇ、と葵は呑気に笑っている。優一郎はそんな葵から目を離し、唐突に身を翻した。多輝の更に後ろにいる要の許に走る。だがやはり優一郎の予想通り、葵は動いた。優一郎に迫ろうとする葵の前に多輝が躍り出る。
「てめえの相手はおれだ!」
「ガキに用はない!」
鋭く一喝して葵が鎌を揮う。漆黒の刃が空気を裂いて多輝を襲う。多輝はそれを受けて結界を展開した。
「要さん、失礼」
「へ?」
要は急に言われたことに目を丸くしている。だが優一郎は急いで要の袴をめくった。えええ、と声を上げた要が焦ったように優一郎を見る。
「センサーを確認させてください。直ぐに済みます」
「あっ、はい!」
要が慌てたように返事する。優一郎は開いた腿の間に手を入れ、素早く光の色を読んだ。
不意に轟音を上げて多輝の結界が砕け散る。力勝負で葵が勝ったのだ。だが多輝は大人しく鎌の餌食にはなっていなかった。飛んできた刃を避けて直接、鎌の柄を握って止める。
「ぐっ」
低い呻きを発しながらも多輝は鎌の柄から手を離さなかった。黒宝珠の転じた鎌は特殊な性質をしている。触れている者の力を吸い上げてしまうのだ。
「黒宝珠よ。汝を遺せし者は主の滅びを望まぬはず。汝を遺せし者との誓約に背くか?」
要の前に屈んでいた優一郎は立ち上がりながらそう告げた。すると僅か一瞬だけ、黒い鎌が力を吸うのをやめる。その隙に多輝は動いた。鎌を片手に握ったまま低い位置から掌底を撃ち上げる。顎にまともに打撃をくらい、葵は鎌と一緒に吹っ飛んだ。
「もう一度言います。僕達は話し合いのために来ました。殺しあうために来たわけではありません」
きれいに整えられた植え込みに突っ込んだ葵がよろけながら立ち上がる。放り出されていた鎌を握り、葵はくすくすと笑った。
「何の話し合い?」
そう言ってから葵が再び地面を蹴る。多輝の力を乗せた攻撃が確実に入ったはずなのに、葵の動きはさっきと同等の速さだ。一気に優一郎の許に走りこんだ葵が鎌を振る。だが今度は多輝と同時に蒼が優一郎の前に割り込んだ。
一気に強靭な結界が展開される。多輝と蒼が共に張った結界は鎌を弾き返した。
「ハンター……いえ、新たな断罪者の集団の長であるあなたと、将来について話し合うために僕はここに来ました」
「やだな。オレ、断罪なんてしないよ」
小さく笑って葵が一気に力を燃焼させる。陽炎のように空色の力を纏った葵が一歩ずつ優一郎に近付く。葵の纏う力が触れたところから結界が溶けて消える。力が葵に吸い込まれたのだ。
「行わない、ことも選択のひとつです」
葵を見据えたまま優一郎は告げた。するとぴたりと葵が足を止める。
「……だからオレは断罪なんて出来ないってば。りゅーじん狩って宝珠を食うのは得意だけどね」
だが葵は自身のことをハンターとは言わなかった。優一郎は目を細めてじっと葵を見つめた。葵は本当は気付いているのだ。
「あなたは断罪者となるべく生まれてきました。それは確かな事実です」
「違うよ。断罪の主は火藍ちゃんだってば。オレなんかの筈が」
そこまで言ったところで葵ははっと目を見張った。だがすぐに驚きを消してため息をつく。肩に鎌を担ぎなおし、葵は一転して不機嫌そうに言った。
「ま、入ったら? こんなトコで話し合いもなんだしね」
そう言って葵があっさりと優一郎たちに背を向ける。玄関に向かって歩き出した葵を見て要と多輝が困惑したように顔を見合わせる。攻撃してもいいのか、と多輝に思惟で問われ、優一郎は首を横に振った。
「お邪魔します。その前にひとつだけ、あなたは確かにハンターの長です。それは誓約により定められた事実です。忘れないでください。そして」
葵の背に返事をして優一郎は虚空を睨んだ。葵が無言で振り返る。
「誓約による対話を妨げるもの、地上の王、神崎紫よ。我は誓約の管理者として、汝の不当な対話への介入行為を、過去、現在、未来にわたって禁ず!」
鋭い声で告げた優一郎の力がその場に凝っていた目に見えない力を次々に消して行く。水泡が弾けるような音が立て続けに鳴った後、葵がびくんと身体を震わせた。驚きに目を見張った優一郎の目の前で葵がその場にうずくまる。
優一郎の放った力は天に走り、一気に広がった。あちこちに張られた立城の結界が解けていく。同時に優一郎の力は葵が張り巡らせていた緻密な結界を根こそぎ砕いた。
一気に葵の肌に幾つもの傷が走る。力を仕掛けられていたのは外側だけではなかったのだ。葵自身にこめられた力が優一郎の力を受け、一気に外に向かって弾けようとしている。が、葵は他者の力を吸うことは出来ても吐き出すことは出来ない。しかも施されたのは八大の力だ。
鎌から葵が手を離す。大きな音を立てて転がった鎌はあっという間に宝珠へと戻った。芝の上を転がった黒宝珠がふわりと浮き、宙を漂って葵の身体に飛び込む。その際の衝撃も追加され、葵は声にならない声を上げて地面に崩れ落ちた。
「葵さん……」
恐る恐る声をかけ、優一郎は静かに葵に歩み寄ろうとした。だがその場に唐突に天から光が割り込んでくる。優一郎ははっと目を見張って振り返った。
緋色の光が人の形に収縮する。現れた第三者に驚いて優一郎は息を飲んだ。
「……!? あなたは!?」
現れた緋色の男は全身がずたぼろになっていた。葵に負けないくらい、傷ついている。だが男は黒い鎌をしっかりと握り、顔を上げた。
火龍、火藍。今は性別は変わっているが、男は前にそう優一郎に名乗った。だが本当の名は別にあることを優一郎は知っていた。火藍は額から流れた血を震える腕で拭い、深く息をついた。
「すまんな。その話、わたしも混ぜてくれないか」
「そうする理由はないでしょう?」
火藍が言った直後、今度は別の声がする。優一郎は咄嗟に声を張ろうとした。だがいつの間にか声が出せなくなっている。どうやっても一言も、何も言えない。愕然と目を見張る優一郎の傍に慌てたように三人が駆けてくる。
エロシーンはないんですけど……要は股間をばっちり晒しているんですよね……w