※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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エロ……微妙にエロ……なのですが。
BL警報発令です!!


八大の終わり

 地面が僅かに揺れる。振動に驚いたのか優一郎が息を飲む。火藍は静かに優一郎を見返ってからベッドに横たわる順に目を戻した。

 

 順は眠るように目を閉じている。

 

「詐称だけなら、こんなややこしい事態にはならなかったんです。絡み合った誓約が今の状況を演出したんです」

 

 ベッドに近づきながら優一郎が静かに告げる。火藍はああ、と頷いた。

 

 事の発端は順が葵という名を名乗ったところにある。神崎葵。それは決して名乗ってはいけない名前だったのだ。

 

 かつて誓約者がいなかった頃、紫翠という名の龍神がいた。木龍神のトップであった紫翠は全ての龍神の長となるべき存在だった。実際、主龍神天輝も紫翠にその役を任命した。

 

 だが紫翠はそれを拒んだ。わたしは長たる器ではない、とその座に就かなかったのだ。そして結局は火藍が龍神の長になった。

 

 やがて紫翠は禁を犯し、主龍神の命で狩られることになった。実際に紫翠を討ったのは水輝だ。死ぬ間際、紫翠は水輝にある約束をさせた。だがその約束の裏には全く別の意図がこめられていたのだ。

 

 紫翠は水輝を誓約という形で縛り、死ぬことを許さなかった。この世界で最初の誓約者は紫翠なのだ。そして紫翠は散り、死した紫翠の魂は分かれて転生した。それが立城と真也だ。……ここまでならある程度力のある龍神なら知っている。

 

 問題はここからだ。紫翠の魂は二つに分かれたとされている。が、実際には三分割された。立城と真也の他に翠と言われる龍神として生まれることになった。時を司る翠は自身を過去へと送り、あたかもずっと昔から存在していたように周囲をたばかったのだ。

 

 そして紫翠が死んだ後、世界は龍神とは別の力を生み出した。それが誓約者と呼ばれる、誓約の力を備えた人間だ。つまり、紫翠が本来持っていた誓約の力だけが全く別の形で生まれることになったのだ。

 

 木龍の生まれ変わりと言われる立城も、そして翠龍神である翠も誓約の力を持ってはいない。それを持っていたのは皮肉にも立城の弟、真也だった。真也はだがそのことには気付いていなかったのだろう。立城と交わした約束が誓約となったことにすら、もしかしたら気付いていないのかも知れない。だが、その際の誓約は今現在も有効だ。

 

「地上の王にして、時空の王にして誓約者である。紫翠はあまりにも大きな存在になりすぎてしまった。彼が分かたれる事は必然だったんです」

「そう……だろうな」

 

 火藍は呟くように答えながら昔のことを思い出した。紫翠は余りにも強すぎた。そのことは誰の目にも明らかだった。だから紫翠は出来るだけ誰かの目のあるところには姿を現さないようにしていた。目にした者がその存在の光に当てられてしまうからだ。

 

 息をついて火藍は順に目をやった。血の気がない顔をしばし見つめる。

 

 真也の本当の名を火藍が知ったのはつい最近のことだ。それまでは何故、順がこれほどまでに苦しむのか原因が判らなかった。だが今なら判る。順は本来なら葵の名を持つ真也が被るべき罪の一端を、その名を名乗ったという事実で引き寄せてしまったのだ。

 

 名を詐称した罪だけではない。立城が犯した数々の罪が徐々に真也から順に移っているのだ。順の具合が次第に悪くなっていったのはそのためだ。

 

 何故。どうしてそんなに痛い思いをしたがっているのだ。そう考えた火藍の脳裏に閃くものがあった。順は何も知らず、偶然にその名を詐称した訳ではない。この世界に真也を再び呼ぶきっかけとしてその名を使ったのだ。

 

 そして行く末に滅ぶために。

 

「しかし、別の誓約が彼を縛っているんです。本来なら彼は早期のうちに龍神として覚醒するはずでした。属性は風ではなく、あなたの揮下の火龍として」

 

 眉を上げて火藍は横目に優一郎を見た。優一郎はじっと順を見下ろしたままだ。

 

「とある龍神との出会いと別れが、彼が龍神として覚醒することを永久に妨げ、全く新しい別種の存在へと変化させてしまったんです」

 

 火藍は無言で順に目を戻した。ここに立っているだけで伝わってくる。順の中に取り込まれた宝珠の中で、一際存在感の強いものがある。武器としては非常に扱い難いそれを順が携えている点が火藍はずっと不思議だった。

 

 順は狩った龍神から奪った宝珠の殆どを食わない。それらは全て、器に取り込んでいつでも使える状態を保たれている。それなのに順が敵に抗する際に使われるのは殆どその武器なのだ。

 

 故意にその武器を揮うことは火藍にもある。相手によりダメージを与えられる武器を選択するのが龍神の戦い方の基本だ。それ故、火藍も時には扱い難い武器を揮う。天空へのドアからここに戻ってくるまでの間、火藍はずっとその武器を使っていた。執念や欲望で出来た異形の獣を多く相手にしたからだ。それらと対する場合、黒宝珠を使うのが一番効率がいい。叩き込む力の根本が欲望であるため、力を器に受け止められなくなった相手が自滅してくれるからだ。

 

 やれやれ、と火藍は肩を竦めた。どうしようもない馬鹿者だな、と思わず呟く。

 

「とにかく、誓約によって彼は本来の名を失ってしまいました。ハンターの長として、生きることを強いられることとなったのです」

 

 呟くように言って優一郎が顔を上げる。火藍を見つめる優一郎の目はとても真っ直ぐで、清らかな力に満ちている。火藍は黙って優一郎に視線を返してから順に向き直った。

 

「ハンター、か」

 

 人も龍神も誓約者もハンターも。全ては世界が生み出した力の一端でしかない。しばし視線を泳がせてから火藍は大きくため息をついた。

 

「全てお見通しか」

 

 半ば感心しながら火藍はちらりと優一郎を見た。優一郎はとぼけているのか、それともそれが本音なのか、不思議そうな顔をする。

 

「いいえ、僕は誓約の管理者でしかありません。十二柱の中でも最も無力な存在です」

 

 きっと龍神の八大と同じように誓約者にもそれぞれに役割が振られているのだろう。その詳細を火藍は知らない。だが火藍は今さら、それを追求する気はなかった。肩を竦めて苦笑してからシャツのボタンを外し始める。

 

「八大の時代は終わりました。いえ、まもなく終わります。幕を引くのは、あなたです」

「それはどうかな。わたしが潰えてもまた新しい者が生まれる。その時、世界がどう判断するのかは誰にも判らない」

 

 笑い混じりに言いながら火藍はシャツのボタンを外し終えた。ベルトを外し、ジーンズを下着ごと引き下ろす。下履きを完全に取り去ってから火藍は優一郎に告げた。

 

「不快なら余所を向いていてもいいが」

 

 ベッドに横たわる順に手を伸ばす。微かに順の瞼が動く。だが火藍はそれに構わず順のベルトに手をかけた。

 

「あなたは、既に潰えています。あなたの後任は既に選ばれています。しかし、あなたは戻ってきた。為すべきことがあるからです」

 

 そう告げる優一郎の声はあくまでも透き通っている。その響きはどことなく女性であった頃の水輝を思わせる。火藍は苦笑しつつ順の下履きを全て脱がせた。

 

「誓約者とは怖いものだな。何もかもを見抜かれているような気がする」

 

 言いながら火藍は静かにベッドに上がった。乗った拍子に微かにベッドが軋んで揺れる。するとそれまで目を閉じていた順が微かに瞼を開けた。




同じ室内でのシーンではあるのですが、分割してみました。
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