※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


水輝と立城のガチバトル

 怒号を上げて紫の力を分断する。その瞬間、強大な力がその場全体を覆った。圧倒的な重力感が水輝を襲う。水輝は歯を食いしばって重圧に耐えた。砕けそうになる膝を懸命に支え、地面に突き立てた刀を頼りに踏ん張る。

 

 緋色の煌きが屋敷を中心に弾け飛ぶ。それと同時に重圧感が急に消える。続いて順の絶叫が響き渡る。水輝は悲しみに満ちたその声に目を細めて立城に向き直った。

 

 愕然と目を見張った立城が天を仰いでいる。ふん、と鼻を鳴らして水輝は手にしていた刀を宝珠に戻した。ぼろぼろになっていただけに翠宝珠の力も多少落ちたようだ。まあいいか、と呟いて水輝は宝珠を体内に戻した。

 

「よくも……」

 

 天を仰いだまま立城がぼそりと呟く。水輝は眉を跳ね上げて立城を見た。立城がゆっくりと水輝を見る。その目には狂気にも似たものが浮かんでいた。

 

 屋敷から響いていた順の叫びが次第に小さくなっていく。水輝は耳にそのことを確かめながらやれやれと肩を竦めた。立城は既に刀を落としている。先の唐突な重圧に耐えられなかったのだ。落ちた刀は宝珠に戻っている。

 

「いいかげん、諦めろ。もう終わったんだ」

 

 罪を肩代わりしてくれる者はいなくなった。火藍が消えたと同時に順には新しい名前がついたのだ。そのことを立城も判っている筈だ。なのに立城はまだ水輝を鋭く睨んでいる。

 

 立城が転がっていた紫宝珠に手を伸ばす。吸い寄せられるように紫宝珠は立城の手に納まった。再び宝珠が刀に変じる。それを見た水輝は嫌な顔をして舌打ちをした。

 

「まだ……まだ、終わってはいない。誓約の礎は」

「いいかげんにしろ! まだそんな寝言言ってやがんのか!」

 

 腹の底から水輝は叫んだ。だが立城は水輝に向かっては来ない。刀を持ってはいるが、それを水輝に向けることすらない。

 

 いつからだろう。生存本能は龍神の最後の砦だったのに。その意味を履き違えて使われるようになったのは、一体いつからだったのだろう。生存本能こそが力を歪めているのだと言われるほどに、その罪が重ねられたことがそもそもの間違いなのだ。

 

 今の立城がいい例だ。いつからか立城は生きる意欲を失っていった。恐らく、真也の死がそのきっかけなのだろう。だが立城は自分から死ぬことは出来なかった。誓約がそれを許さないのだ。

 

 やがて立城の中で少しずつ色んなものが歪んでいく。だがそれらの歪みも溜まる前に吐き出してしまえば問題はない。なのに立城は、己の持つ特性ゆえにそれを周囲に悟られぬよう周到に隠してしまったのだ。

 

 浄化の力を持つ金龍神がいなくなったことで立城の持つその傾向は一層、強くなった。それまで無意識にではあっても、確かに亮は立城の秘めた歪みを少しずつ殺ぎ落としていたのだ。

 

 そしてあり得ないことが起こった。死んだ真也の魂がこの世に呼び戻されてしまったのだ。そのことで立城の中で危うくバランスをとっていたあらゆるものが、全て崩れてしまった。歪みが歪みを呼び、清浄であった力が少しずつ歪んでいく。だがそれでも奈月が傍にいれば、まだ何とか保っていられたのだ。

 

 それを敢えて突き崩したのは他でもない、水輝だ。

 

「……いいかげんにしろよ、まじで」

 

 水輝は立城を睨んでそう呟いた。立城が手に握った柄を逆手に握り直す。そして立城は直に刀身を両手に握りしめた。傷ついた立城の手から血が滴り落ちる。落ちて地面に散った血は一瞬で蒸気になって消えてしまう。地が立城が戻ることを拒絶しているのだ。

 

 傷ついた右腕を天に掲げる。

 

「中途半端な自殺願望なんざ、はた迷惑なんだよ!」

 

 水輝が叫んだ瞬間、一条の光が天からもの凄いスピードで落ちてくる。鮮やかな翠色の光を水輝は右手にしっかりとつかみ取った。

 

 紫の刀の切っ先が立城の腹にゆっくりと食い込む。それまでの怒りがなかったかのように、立城はうっとりとした面持ちでその場に膝をついた。唇が真也の名を刻む。水輝は舌打ちをして右手のものを両手に握り直した。

 

 それは一本の翠色をした剣だった。水輝の普段揮う日本刀とは形がまるで違う。水輝は剣を両手に握って深呼吸をした。

 

 頼むぜ。そう呟いてから水輝は立城に向き直った。剣の切っ先を立城に向けたまま、告げる。

 

「木龍王よ」

 

 凛とした水輝の声が響く。

 

「貴殿に我が道を阻む資格があるか否か。即答せよ」

 

 ゆらりと立城が顔を上げる。その顔には狂気の笑みが浮かんでいる。京紫の狂った視線が水輝に向かった瞬間、辺り一体の地面が大きく揺れた。揺れる地面から次々とでたらめな方向に木々が生えて来る。尖った幹に貫かれたブロック塀やアスファルトが崩れて落ちる。だが水輝は翠の光に守られていた。立城も紫の光が守っている。真っ直ぐに立城を見つめていた水輝は目を細めた。

 

「……時間切れ。手加減なし」

 

 呟いて水輝は剣を天に掲げた。天に向けられた剣の切っ先を目指して色とりどりの光が集まってくる。徐々に重みを増す剣を必死で支えながら水輝は叫んだ。

 

「あんまり真也を見損なうな! お前のしていることそのものが、真也を侮辱していると」

 

 どうして判らない!

 

 叫んで水輝は地面を蹴った。水輝の進行方向に生えていた木々が粉々に砕け散る。それまで笑っていた立城が素早く自分の腹から刀を抜く。繰り出された紫の刀の切っ先を左の手のひらで受け、水輝はそのまま剣を突き出した。翠の剣が立城の胸に深々と突き刺さる。水輝は刀の刺さった左手を真横に振り、強引に刀を払い落とした。

 

 剣を胸に受けた立城が苦悶の表情を浮かべる。水輝は素早く立城から飛び離れ、血だらけの左手と右手を胸の前で合わせた。強く合わせた衝撃で血が飛沫になって散る。

 

「時の流れとその狭間に生きる者」

 

 呪文を詠唱し始めた水輝の身体が青い炎を纏う。

 

「白く儚き命を見つめる者。黒き冥府の門の番人。銀の翼、金色の扉、緋色の断罪の主よ」

 

 合わせた手の中に透き通った翠色の光が生まれる。その光にやがて白い光が混ざる。黒、銀、金と光は次々に混ざり、最後に緋色の輝きが屋敷から飛んでくる。緋色の輝きは水輝の手の間で徐々に膨張する光にするりと混ざった。光を支える水輝の手が、集まった力の強大さに自然と小刻みに震え始める。

 

「青の鍵、水輝の名において命じる!」

 

 苦しみに歪んだ立城の顔を睨みつけ、水輝は最後の言葉を放った。

 

「かの者を撃て!」

 

 呪文が完成した瞬間、水輝の手の中から唐突に光が消える。その直後、立城が絶叫した。剣を楔として放たれた力が立城の内側で弾けたのだ。水輝は地面を蹴って走った。天を仰いで叫ぶ立城の胸を貫く剣をつかむ。

 

 剣が水輝の手の中で甲高い音を立てる。水輝は苦しみに叫ぶ立城に、続く術を容赦なく放った。

 

「時空冥破斬!」

 

 一瞬で耳の痛くなるような静けさが周囲を覆う。叫び続ける立城の声もが静寂に飲み込まれる。そして消えた音は数瞬の後、一気に蘇った。続いて剣が翠の閃光を放つ。轟音と共に周辺に生えていた木々が弾けて消える。そして立城の身体の輪郭がぼやけていく。水輝は鋭い眼差しで立城を睨みつけながら、決して剣から手を離さなかった。

 

 術に耐えられなくなった立城の器がぼやけた輪郭からゆっくりと砂と化していく。水輝は握っていた剣の柄を一気に引いた。大量の血が立城の胸から噴き出す。だが飛び散ったその血が地面に触れる前に立城の器は一気に紫の砂となって散った。

 

 深くため息をつく。火藍の時とは桁違いの疲れを感じつつ、水輝は手にしていた剣を地面に突き立てた。

 

 本気で相手を殺しにかからなければ、器を完全に壊すことは出来ない。火藍の青宝珠を握っていたこともあるが、火藍が水輝の許を訪ねた理由はそれだけではないのだ。他の誰にも火藍の器を完全に砕くことは出来なかった。殺すと決めたら一片も迷わない水輝だからこそ、それが可能だったのだ。

 

 剣に寄りかかって呼吸を整えてから、水輝は屈めていた腰を伸ばした。ゆっくりと歩き出す。無残に荒れた庭には一人の幼い少年が倒れている。少年は気を失っていてぴくりとも動かない。だが、確かに呼吸はしている。小さな胸が微かに上下しているのを見つめ、水輝は黙って少年を肩に担ぎ上げた。

 

*****

 

 巴とちなりの寝息が微かに響く部屋で赤い瞳が開く。その瞳はやがて赤から別の色へと変化する。慌ただしい足音が部屋に近付く。だがドアが開かれる前にそれは姿を消した。




この2人がガチでバトることはあんまりありません。
やると被害が半端ないからなのです。
前回は山が吹き飛びましたw

短かったので最後に次のシーンを付け足しました。
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