ある日、常磐は抱かせろとラスティに言った。ラスティは自分なりにその言葉を解釈し、試しに常磐に抱きついてみた。だがどうもそれは意味が違ったらしい。しばし考えた後、ラスティはぽんと手を打って魔法でぬいぐるみを作ってみた。店先で見たことしかないが、形は覚えている。完璧に出来たと自分でも思う。ラスティは常磐の胸に今度はそのぬいぐるみを押し付けた。だが常磐はどうやらぬいぐるみを抱きたかった訳でもなかったらしい。
自分から殆ど話をすることのなかった常磐が急に話し掛けてきたことは、正直なところラスティも嬉しかった。なのにラスティが言われた意味を懸命に探ろうとすればするほど、常磐の返事が険しくなっていく。
もういい、とその日は言われた。ラスティは常磐が不機嫌になった理由が判らず、釈然としない気分でその日は床に就いた。
次の日もまた常磐は同じことを言った。今度はラスティも少し考え、判り易く言えと言ってみた。すると常磐は何故か怒ったように言った。
お前は子供の作り方を知らんのか。
そう言われてラスティは考えを巡らせた。龍宝珠界で生きる者たちは例外なくこちらの世界の龍宝珠が姿を転じたものだ。それ故、こちらで龍神が死すると向こうの世界には新しい命が生まれることになっている。ラスティはその旨を端的に常磐に告げた。まさか知らない訳はないよな、と言葉を付け足すと常磐は酷く不機嫌そうに知っていると答えた。
知っている誰かにその質問をして来いと言われ、ラスティは訝りながらも知り合いの元に跳んだ。面倒だったので一番近い知り合いのところに跳んだのだが、急な来訪にも関わらず知り合いはとても喜んでくれた。
とにかくまずは結婚したことを伝えよう。それまで不義理をしてきたために、ラスティは自分が今何をしているのかを知り合いに全く伝えていなかったのだ。
水の国、ウルスマの守護神ウィレネードは、ラスティが結婚したことを伝えるととても奇妙な反応を示した。神殿の最上階、ウィレネードの私室にいた全ての者を追い払い、次いで神殿そのものからも人払いをしてしまう。ラスティはその意味が理解出来ず、ウィレネードを問い詰めようとした。
だがラスティが質問する隙はなかった。それからウィレネードは立て続けに質問をラスティに投げかけたのだ。いつ常磐と知り合ったのか。いつから一緒にいるのか。そしてどういう経緯で結婚するに至ったのか。
ラスティは大して疑問にも思わずウィレネードの質問に間髪いれずに答えていった。知り合ったのは、ラスティの封じられていた記憶が解けた日だった。それから今までずっと暮らしている。結婚したのは常磐がそうしようと言ったからだ。
ウィレネードは深々とため息をついて酷く疲れた顔をしていた。ようやく質問が終わったのだと思い、ラスティはおもむろにウィレネードに訊ねた。
おまえ、子供の作り方って知ってるか?
その時のウィレネードの顔はある意味、とても面白かった。驚愕に目を見張り、口をあんぐりと開けて固まってしまったのだ。普段はとても穏やかで微笑みの絶えないウィレネードの様子を考えると、まさに天変地異でも起こったかという反応だった。
しばしの後、ウィレネードは普段の状態に戻った。そしてウィレネードはこう言ったのだ。
いいですか、ラスティ様。子供はこうのとりが運んでくるのです。仲の良い夫婦の元に自然と運ばれてくるのですよ。
ほほう、とラスティは頷いた。恐らく龍宝珠界の新しい住人になった龍宝珠が自然と夫婦の元に配されるのだ。そう理解してラスティはウィレネードに礼を言って家に戻った。
ラスティはウィレネードに教えられた通りに常磐に言った。常磐はそれを聞いても無言だった。そしてしばしの後、常磐は低い低い声で言ったのだ。誰に訊いたのだ、と。ラスティは常磐の反応に困惑しつつも正直にウィレネードに教わったと告げた。すると常磐は更に低い声で言った。
……今度は女に訊いて来い。
一体、常磐は何を言いたいのだろう。ラスティはさすがにその段になると苛々し始めた。常磐が言いたいことが全く理解できない。そもそも何故、常磐は急にこんなことを言い出したのか。
いいじゃないか。子供が欲しいなら俺とお前が仲良くしてれば勝手に配されるんだから。
苛立ちに任せてラスティはそう常磐に告げた。だが常磐は不機嫌そうな顔で首を横に振る。それを見たラスティは考えを巡らせた。どうもウィレネードの答えは常磐が納得出来るものではなかったらしい。
仕方なくラスティは今度は別の守護神のところに跳んだ。金の守護神ラルエミーナはラスティの来訪にとても嬉しそうな顔をした。結婚したのだと伝えるとさらに喜んで祝いの言葉をくれた。今度はきっと大丈夫だろう。そう思いながらラスティはラルエミーナにウィレネードに向けたのと同じ質問をした。
しばしラルエミーナは黙り込んだ。そして唐突に言ったのだ。
ラスティ様は接吻というのはご存知ですか。
それを聞いたラスティは顔をしかめて当り前だと告げた。以前、まだ記憶が封じられていた頃に働いていた店の女たちが、事あるごとにしにきていたから覚えている。つまり口と口を合わせるんだろう。ラスティは憮然としてラルエミーナにそう答えた。
子供を作るという行為はその延長線上にありまして……。
言いにくそうに告げたラルエミーナの言葉にラスティは考え込んだ。延長線上というのはどういうことだろう。口と口を合わせる行為が進化したものだとすれば。ラスティはそこまで考えてぽん、と手を打った。
慌ただしくラルエミーナに礼を言い、ラスティは家に戻った。そしてやっと判ったぞ、と言ってラスティは常磐をベッドに向かってどついた。唐突に胸を突かれた常磐がベッドに引っくり返る。そして手足を広げて横たわった常磐の上にラスティは強引に横になった。
仰向けに横たわった常磐の上にラスティは仰向けで横になり、常磐が伸ばしている手足にぴったりと自分のそれを乗せた。つまりくっついている場所が多ければいいのだ。ラスティはラルエミーナの言葉をそう理解したのだ。
これでどうだ、と満足をこめて告げたラスティに常磐は何故かもの凄く低い声で退けと言った。ラスティは不思議に思いながらも常磐の身体から降りた。常磐は仰向けで転がったままため息をついている。それを見たラスティはぽん、と手を打って頷いた。
そうか。仰向けだからいけないのか。うつ伏せならどうだ?
言うが早いか、ラスティは常磐の上に再び横になった。今度はうつ伏せの格好で手足をぴったりと合わせる。そこまでしてからラスティははたと気づいた。もしかしたら頭も合わせた方がいいのだろうか。そういえばラルエミーナは口と口を合わせる行為の延長だと言っていた。口づけもした方がいいに違いない。
そう思ったラスティは迷いもせずに常磐の唇を奪った。その瞬間、常磐がラスティを乱暴に振り払った。
違う!
その時初めてラスティは常磐の怒鳴り声を聞いた。ラスティはベッドに座って目をしばたたかせた。どうも常磐は怒っているらしい。仕方がないのでラスティはラルエミーナから聞いた答えを常磐に話して聞かせた。すると今度は常磐が頭を抱えて呻く。
ラスティが若干以上にボケ役になってしまったのは、この話からです。