※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


何事にも例外はあるものだ 2

「よう。んなとこで何してんだ?」

 

 こつん、と小さな音がした直後、背後から声が響く。ラスティははっとして顔を上げた。思考に没頭する余り、気配を読むことを忘れていた。

 

「ちょっと顔を拝んでおこうかなと思ってな」

 

 そう言ってラスティは振り返った。ドアにもたれて立っていた水輝に苦笑を向ける。水輝は咥えた煙草に火を点けながらゆっくりとラスティに近付いた。

 

「見ても面白いことはないだろ」

 

 呆れたように水輝が言う。ラスティは苦笑を浮かべたままそうだな、と答えた。相変わらずか、と水輝がベッドを覗き込む。水輝が見てもやはり男は眠ったままだ。相当に体力を消耗した筈だ。きっとすぐには目覚めないだろう。

 

 しばらく二人は黙って男を見ていた。おもむろに水輝が口を開く。

 

「……詰らないのか」

 

 灰皿に灰を落としながら水輝が口にした言葉にラスティは少しだけ驚いた。が、すぐに驚きが別の感情に変わる。

 

「言っても仕方ないことは言わない主義なんでな」

「じゃあ変わりに言ってやろうか? お前、おれを殺したいと思ってるだろう」

 

 即座に水輝が切り返す。ラスティは僅かにだけ目を見張り、瞬きでそれを消した。静かに顔を上げて水輝を見る。水輝は男を眺めながら煙草を吸っている。

 

「いや。殺意は正直、ないな。お前の中身を見てみたいとは思うが」

 

 奈月をどうしても壊せなかったように、水輝もまた殺せない。ラスティは苦笑しつつ大きな息をついた。水輝が小さく笑って横目にラスティを見る。ラスティは手にしていた弦のない弓を水輝に差し出した。

 

「どうでもいいが、いつまでそいつを担いでるつもりだ」

 

 銀色の弓が水輝の手に渡る。

 

「あー? これか」

 

 水輝は弓を片手に握って目で肩に乗せた少年を示した。ラスティは呪文を詠唱しつつ頷いた。

 

「ただいま夢をサーチ中。けっこうガード固いんでな。離す訳にはいかないんだ」

 

 呪文が完成する。ラスティは導き出した銀色の力を丁寧に伸ばした。弓の両端にそれを結びつける。続いてラスティが呪文を口にすると弓の両端に結わえた力の糸が次第に縮み始めた。

 

「にしても、服くらい着せてやれよ。さっき優一郎も嫌がってたぞ」

 

 銀色の弓が完成する。ラスティは言いながら水輝の肩の少年を顎でさした。少年は丸裸のままだ。

 

「あ、うっかりしてたな」

 

 ラスティに弓を手渡してから水輝が指を鳴らす。すると肩の上の少年の身体には一瞬で服が纏わりついた。だが水輝が服を着せても相変わらず少年は寝たままだ。もう気づいてもいい頃だが、どうやら水輝はわざと少年を眠ったままにしているらしい。やれやれと肩を竦めてラスティは踵を返した。

 

「そうそう。お望みなら女にしてやってもいいぞ」

 

 笑いながら水輝が言う。ラスティは足を止めて振り返った。水輝はにやにやと人の悪い笑みを浮かべている。阿呆、と呟いてラスティはまた歩き出した。

 

「お前に頼むくらいなら失恋大王でも引っ掛けるさ。飢えてるだろうしな」

「ばーか。あんなへたれに頼んでもいいわけねえだろ。それにお前見て勃つと思うのか、あいつのが」

 

 しれっとした顔で水輝が告げる。ラスティはその言い草に呆れてまた足を止めた。一体、どの口が言うのだ。そう言いながら振り返る。水輝はまだベッドの脇に立っている。ラスティは水輝とベッドに眠る男を見比べた。意識すると水輝が男に何かを注いでいることがわかる。どうやら深い眠りに導いているらしい。ふうん、と口の中で言ってからラスティはベッドの傍に戻った。

 

「今までさんざっぱら働いたんだ。このくらいのことは構わないだろ」

 

 ラスティが口を開くより早く、水輝が言う。ラスティは眉を寄せて水輝を睨んだ。水輝はまだ傷だらけのままだ。

 

「お前こそ先に傷をどうにかしろよ。奈月さんが悲しむだろ」

「こんな傷、放っておけば治る。それよりこっちのが重症だ」

 

 きっぱりと言い切って水輝は短くなった煙草を灰皿に押し付けた。火を消してから新しいものを咥える。ラスティはため息をついて呪文を詠唱した。差し伸べた手のひらの上で翠の力と白い力を混ぜ合わせる。次いで、その力に銀色の細い力を丁寧に織り込んでいく。

 

「相変わらず器用な真似するなあ。料理はろくすっぽ出来ないみたいだが」

「……気が散る。余計なこと言うな」

 

 詠唱の合間にラスティは早口で水輝を制した。へいへい、と笑って水輝が肩を竦める。ラスティは出来上がった魔法を静かに動かした。水輝の担いだ少年の背に力が吸い込まれていく。

 

「ほら。とっとと下ろしに行ってこい。これで当分は大丈夫だろ」

「は? 何だ。わざわざこいつの夢止めたのか。無茶しやがるなあ」

 

 ぼやきつつも水輝がベッドを離れる。ラスティは水輝の背をどついて急かした。口の中で何事かを呟きながら水輝がドアを開ける。ラスティは部屋を出た水輝について歩いた。

 

 少年を別の部屋に寝かせた後、ラスティは水輝と二人でキッチンに向かった。料理を作っていた多輝を玄関の優一郎の前まで連れ出す。

 

「龍宝珠出せ」

「は?」

 

 端的な水輝の言葉に多輝が目をむく。水輝は機嫌悪そうに同じ言葉を繰り返した。だが多輝には意味が理解出来ないらしい。ラスティは二人を見比べてぽん、と手を打った。

 

「あれじゃないか? 出し方知らないとか」

「は? なに言ってんだ。別に誰かのぶん取って来いっつってる訳じゃねえんだぞ。てめえの出せって」

 

 呆れたように言っていた水輝が途中で言葉を切る。とても嫌そうに顔をしかめて水輝は横目に多輝を見た。多輝は水輝に負けないくらい嫌そうな顔をしている。




多輝は可愛い系の役になりましたが、TSして男になるとちょっと乱暴。
でも男でも女でも、残念系というくくりになりますかね。
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