※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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キッチンが凄い事になりますw
エロシーンはありません。


キッチンでの暴力行為 2

 余りの水輝の傍若無人ぶりにほとほと困り果て、順は屋敷の半分ほどを結界で覆うことにした。自由に動ける場所が増えたことが嬉しかったのだろう。水輝は楽しそうに部屋を駆け出していった。

 

 これでまあ、落ち着いてくれればいっか。順がそんなことを思っていた矢先、盛大な物音が階下から響いてきた。何かが割れる音だ。順は仕事を中断して急いで屋敷の一階に下りた。

 

 キッチンに駆け込む。そこで順はひきつって硬直した。

 

「こ、これはいったい……?」

 

 キッチンの内部は見る影もないほどに破壊されていた。包丁が壁に突き刺さり、フライパンが天井にくっついて潰れている。真っ白な粉が床にぶちまけられ、壁からは幾つも生の卵が垂れている。

 

「あっれー? 変だなあ。分量間違えたかな?」

 

 キッチンにいつもいるはずの従業員の姿がない。その代わりにいたのは水輝だった。片手に持った包丁を器用にくるくると回している。

 

「み、水輝ちゃん? 一体、何を……?」

「あれ? あんた、いたの? うん、ちょっとクッキーを焼こうと思って」

 

 くっきー。呟きながら順はうろんな目でもう一度キッチンの中を見回した。どう見てもクッキーを作ろうとしてできる所業ではない。

 

「ええと、アーモンドを刻む」

 

 片手には本が握られている。それを読みながら水輝はまな板に向かった。呆然と佇んだ順は、次の瞬間、奇声を上げて床に転がった。まるで狙いすましたように包丁が飛んできたのだ。

 

「あ、ごめん。手元、狂った」

「なるほど、キッチンがこんなことになってる理由が……よーっく判ったよ」

 

 順は額に滲んだ冷や汗を拭って水輝に素早く近づいた。驚いている水輝の手を強く引っ張ってキッチンから引き剥がす。どこかから見ていたのだろう。水輝がキッチンから離れたと同時にどこからともなく従業員たちが戻ってくる。今日の責任者である男性が涙ながらに水輝の所業について訴える。はいはい、と順は適当に返事をして水輝を強引に部屋に連れ戻した。

 

「なによっ! あたしはただ、お菓子を作ろうとしてただけじゃないの!」

「あれが!? うちのキッチンを破壊してただけじゃないの、単に!」

 

 苛々しながら順は水輝をソファに放り出した。小さな悲鳴を上げて水輝がソファに倒れこむ。何すんのよ、と飛び掛ってきた水輝を順は乱暴に足で払った。

 

「いいかげんにしろよ。オレもいつも寛大な訳じゃないんだ」

「なによっ。だったらどーだってぇのよ!」

 

 まだ元気よく水輝は噛み付いてくる。順は再び起き上がろうとした水輝の肩を軽く足で蹴った。途端に水輝がソファに沈む。

 

「火藍ちゃんに言いつけるぞ? キッチンを台無しにしたくせに反省の色がまったくないって」

 

 効果は抜群だった。それを聞いた水輝が歯軋りしつつも口を噤む。順は勝ち誇った笑いを浮かべて腰に手をあてた。胸を張って水輝に嘲笑を向ける。

 

「き、汚いわよ!」

「汚くて結構。いいかげん、大人しくしてろ。さいってーな女だな、お前は」

 

 力をこめて言い放ってから順は机に戻った。汚れたシャツを手ではたく。唇をかんだ水輝が憎々しそうに順を睨む。だが順はそ知らぬ顔で机につき、キーボードを弾き始めた。

 

 夕食の後、火藍が屋敷に戻ってきた。憔悴している感があるのは仕方ないだろう。だが火藍が疲れていることにも構わず、水輝ははしゃいでその腕にぶら下がった。

 

「ねえねえ! 一緒にお風呂、はいろ!」

 

 無邪気に水輝が告げる。火藍は絶句してそんな水輝を戸惑ったように見下ろした。水輝はあどけない笑みを浮かべて火藍を見つめている。順はやれやれと肩を竦めて二人の間に割って入った。

 

「いいコは一人でお風呂にはいりましょー」

「なによっ、それ! 折角、火藍が戻ってきたのに!」

 

 どうしてこれだけ怒鳴り続けて水輝は疲れないのだろう。真剣にそのことを考えながら順は片目を閉じてみせた。

 

「これからオトナの時間なの。それともキミ、オレの相手してくれんの?」

 

 どうなんだよ。薄笑いで順が迫ると、さすがの水輝も言い返さなかった。どうやら最初の日のことをきっちりと覚えているらしい。ふん、と順に舌を出してから急いで部屋を駆け出していく。乱暴に閉じたドアを見てから順は疲れたように肩を落とした。傍の火藍も同じように肩を落とす。

 

 だが順も火藍も互いを労う言葉は一切、口にしなかった。すぐに気を取り直したように火藍が口を開く。

 

「貴様に言われた通り、水輝はもう一人いるらしいな」

「貴様? あのねぇ。これでもオレはキミのマスターなんだよ?」

 

 すぐにそう返しながら順は火藍を抱き寄せた。慌てたように火藍が腕の中でもがく。順は嗤いながらそれで、と火藍を促した。

 

「じゃあ木村。これでいいだろう? わたしにできる、最大の譲歩だ」

「んー……。ま、いっか。貴様って呼ばれるよりはマシだね」

 

 順は仕方なくそう答えた。すると目に見えてはっきりと火藍がほっとした表情になる。以前より表情が増えているような気がするのは、きっと水輝が近くにいるからだろう。




水輝が女の時は超絶不器用というか、キッチンを破壊するという性質でして。
男の時は実はそこまでのことにはならないんですけどね……。
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