※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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ここから三章です。

最初は真面目なシーンなんですけども……。
エロシーンはありません。


三章
理想のミサイル 1


 覚悟を決めていた栄子の顔が脳裏から離れない。優一郎は苛立ちに任せてキーボードを強く弾いた。表示されていたウィンドウが閉じ、変わりに別のウィンドウが開く。優一郎は睨むようにして画面を見た。だがどれだけ探しても、やはり有益な情報はない。

 

 葵と決めた約束の日は明後日だ。それまでに要の身体を改造する必要がある。そのことは判っていたが、優一郎はそれよりも先に別の問題を気にしていた。早急に対処しなければ栄子の命が危ない。栄子は既に退院してしまっているのだ。

 

 最悪の場合、栄子に繋がれている四肢の細かく分析し、その後に薬物投与によって状態の進行を遅らせるという方法を取ることができる。だがこれは用いられている四肢の正体が判らなければどうにもならない。苛々と頭をかいて優一郎はがたん、と椅子を鳴らして立ち上がった。

 

 誰かに助けを求めるのはプライドが許さない。が、そう言っていられる状況ではないのも事実だ。優一郎は苛立ちを紛らすために研究室の中を無意味に歩き回った。地下二階の研究室は全て修復されている。エレベーターも完全に元に戻っている。何ら不自由はなく、以前と同じように過ごすことができる。なのに優一郎はそれまでになく苛立っていた。今回の問題を自分で解決するには時間があまりにも足りなさ過ぎるのだ。

 

「つまらない意地なんか、糞食らえ!」

 

 吹っ切るために優一郎は自分に向かって怒鳴った。ポケットから携帯電話を取り出す。何度もかけようとしてためらった番号を表示させる。

 

 最初はただヒューマノイドに出来ればいいと思っていた。今でもその望みはある。だが栄子の命と比べた時、どうしても優一郎は欲望に忠実にはなれなかった。栄子を騙してでもヒューマノイド化していれば、これほど問題は大きくならなかったのだ。今さらながらに自分の読みの甘さを痛感しながら、優一郎は携帯電話を耳にあてがった。

 

 コール二回で相手が出る。優一郎は挨拶もそこそこに栄子が現在置かれている状況を説明した。相変わらず、耳に心地の良い声が時折、うむ、と返事する。

 

「詳しい情報は呉羽さんからもらってください。父さん……栄子さんをよろしくお願いします」

 

 そう言って優一郎は見えない相手に向かって頭を下げた。判った、という簡潔極まりない返事の後、通話が切れる。優一郎は深い息をついて椅子に戻った。

 

 総一郎がこの世界に戻ってきていたことは幸いだった。だがそこまで考えてから優一郎はあれ、と首を傾げた。そういえばどうして総一郎は今日に限って家に戻っていたのだろう。普段の総一郎は探してもなかなか捕まえることが出来ないのだ。

 

 いや、今はそれどころじゃない。優一郎はそう呟いて頭を切り替えた。早急に対処しなければならない栄子の件については、これで手放すことができる。不本意ではあるが、総一郎に任せればまず間違いは起こらないだろう。人の恋愛感情には疎い父だが、その他の点については信頼できる。うん、と優一郎は自分の考えに頷いてから端末に向き直った。

 

 要の機体は既に出来上がっている。問題は要の要求をある程度は飲まなければならないということだ。メールで送られてきた要の要望書を見ながら優一郎は疲れたため息をついた。龍神に抗するために、という理由からの要求であることは判る。だが要のそれは優一郎の予想をはるかに越え、無茶としか言いようがないものだった。

 

 とにかく会うしかないか。メールを閉じて優一郎は疲れた面持ちで立ち上がった。次から次に様々なことが起こるため、夜眠っても寝た気がしないのだ。

 

「あら、お出かけですか? 部長」

 

 地下一階に行くと真っ先に保美が声をかけてきた。苦笑して優一郎は首を横に振った。今からきっとカレンと交わるのだろう。保美は湯上り特有の顔をしている。ほんのりと頬を染めた保美をまじまじと眺めてから、優一郎は告げた。

 

「生徒会室に連絡をとってください」

 

 告げると保美がはい、と一礼する。それだけで意味を理解したのだろう。保美は手早くスカートの中に手を入れ、通信回線を開いた。耳の裏側に手を当てる。するとここにはいない男性の声が聞こえてきた。

 

『はい。こちら生徒会執行部です』

 

 聞き覚えのある声だ。要の取り巻きの一人、野木だろう。そう見当をつけながら優一郎は保美の機体に向かって口を開いた。

 

「野木さんですね? 吉良優一郎です。最終確認のために要さんに地下部室に来ていただきたいのですが、お取次ぎ願えますか?」

『判りました。少々お待ちください』

 

 ほどなく野木に変わって要の声が聞こえてくる。

 

『はい、如月です。部室に行けば宜しいのね? わたくし一人で?』

 

 それを聞いた優一郎は逡巡した。要がヒューマノイド化した後、その機体のメンテナンスは恐らく彼女の取り巻きの誰かに任せることになるだろう。その説明をした方がいいかどうか迷ったのだ。

 

「野木さんや周藤さんに、ヒューマノイド化について既に相談はされましたか?」

 

 ストレートに優一郎がそう訊ねると、微かに笑う気配が伝わってきた。実際には保美の機体から聞こえてくるため、保美が笑っているかのようにも錯覚できる。

 

『当然ですわ。彼らはわたくしのボディガードですもの』

 

 告げて要は高く笑った。保美を見つめていた優一郎はそっと疲れたため息をついた。要も優一郎に負けず劣らず忙しい身だ。なのにこの状況になってもいつもと同じように元気に笑っている。呆れ半分、あとの半分は感心しながら優一郎は告げた。

 

「今は要さん一人で来て下さい。ただ、要さんが目覚めるまでにお二方には要さんに奉仕行為を行うためのレクチャーを行う必要があります」

『では、わたくしの改造中に野木と周藤をそちらに寄越せばいいんですのね? 了解しましたわ。それではわたくしは今からそちらに参ります』

 

 そう言って要はさっさと通信を切ってしまった。優一郎は軽く保美に手を上げて合図をした。保美が丁寧に頭を下げてスカートの中に再び手を入れる。彼女たちヒューマノイドは女性器の操作により、外部との通信回路を開くことが可能なのだ。

 

 要はすぐに地下の部室に到着した。出迎えたのは保美だ。要は要なりに保美を気に入っているらしく、会うたびに調子はどうだと訊ねている。問題はありません、という保美の声が近づいてくる。優一郎は片手を上げて要を廊下で出迎えた。

 

「要さん、いらっしゃいませ。こちらへ」

 

 優一郎は頷く要を研究室の一つに案内した。カレンも既に修復され、今はいつもとほぼ同じ顔ぶれが地下には揃っている。足りないのは斎姫だけだ。そのことをふと思い出して優一郎は少し顔を曇らせた。あの日、斎姫は壊れたままの状態で地下深くに眠っている。いや、正確に言えば機能が全停止したままなのだ。




栄子はこれで何とかなりました。
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