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早く直さなければという気持ちと、迷いが今の優一郎の心の半々を占めていた。総一郎への憎しみにも似た思いを自覚した今、斎姫の存在が自分にとって何なのかはっきりと判らなくなっているのだ。自分は総一郎と同じように斎姫を由梨佳と同等の位置に据えたかったのだろうか。それともまったく別の、世間でいう恋人という立場にいて欲しかったのか。それすら今の優一郎には判別出来なくなっていた。
要が優雅に椅子に腰掛ける。優一郎は端末の乗った机の前に椅子を引っ張り出した。腰を落ち着けて要を見やる。要はいつもと同じように高飛車な顔つきをしている。どうやら生半可な説得では譲る気にはなりそうにない。
「まず、兵装関係ですが要さんの案は残念ですが全て却下します」
ストレートにそう告げると、それまで平然としていた要が血相を変えた。顔を赤くして興奮気味に立ち上がる。
「何故ですの!? 相手は人間ではないんですのよ!?」
不安に思うのはもっともだ。確かに要の言う通り、相手は人ではない。人にはあり得ない強大な力を持った龍神だ。要の叫びに納得顔で頷いてから、優一郎はですが、と言葉を繋いだ。
「だからこそです。相手は人間ではないから、通常兵器は意味はないのです」
「全く意味がないということはないんではないの!? バズーカ砲やマシンガンが買えない、というのであればわたくしが用意してさしあげてもよくてよ!?」
相当に怒っているのだろう。要はそう言いながら優一郎の胸倉をつかみあげる。もしかしたら要は脳裏に何度も思い描いていたのかも知れない。完成した自分の機体がバズーカ砲を撃ったり、マシンガンを撃ちまくったりしている光景を、だ。
やれやれ、と内心で呟いて優一郎はやんわりと要の手を解いた。歯軋りする要に椅子を再び示してみせる。要はだが、興奮したままで更に叫んだ。
「それとも吉良君はわたくしに爆弾を抱えて特攻しろと!?」
一体、どこをどうすればそんな考えが出てくるのだろう。頭を抱えたくなりながら、それでも何とか優一郎は笑みを作った。穏やかなその微笑みに圧されるように、要が椅子に舞い戻る。
「判りやすい例を出しましょうか? 例えば幽霊が居たとします。幽霊にバズーカ砲は効果的でしょうか?」
「幽霊が出てくる原因である場所をバズーカで破壊すれば問題解決ですわ!」
即答した要を優一郎はまじまじと見つめた。どうやら要は優一郎の質問の意味が判っていない訳ではなさそうだ。あくまでも自分の要求を通そうと、話をわざと逸らしているのだ。
「実は対龍神用にも光線兵器的なものがひとつだけあります。それを乳房に装備するということで妥協ねがえませんか?」
これでも最大の譲歩だ。優一郎はそう思いながら要の目を覗き込んだ。すると要がまともに言葉に詰まる。自分の容姿が他人にどういった印象を与えているのかを優一郎は知り尽くしていた。元々、総一郎といい由梨佳といい、吉良の家系の人間はかなり見目的に整っている。要は絵美佳に対しては異常なまでの敵対心を持っているが、優一郎のことはそれなりに気に入っているのだ。優一郎は微かな笑みを浮かべてどうですか、と再度訊ねた。
「わたくしに他人の目の前で裸になれ、と?」
どうしてそこまで話が食い違うのだろう。誰も服を全部脱げとは言ってはいない。優一郎は心の底から疲れた息をついた。
「要さんの要求事項にも乳房内蔵武装は重要だと書かれていたから提案したまでです。乳房なら換装可能にできますし、ミサイルやバズーカは無理ですがマシンガンや小型レーザーガンを搭載した乳房も作れます」
「服を破って飛んでいくのではないと駄目ですの! お分かりかしら? 攻撃の前に服を脱ぐのではなく、武器そのものが敵に飛んでいくのが理想的ですの!」
どうやら要の頭の中には特定の何かが思い浮かべられているらしい。優一郎は眉を寄せて額を押さえた。無理ではない。要の要求を飲むことは可能だ。だがそれは対龍神に有効な武器には到底なりえない。
乳房全体を発射するのは無理だが乳首を射出するようにするのはどうだろう? それならあの装備に利用できないだろうか? 優一郎は痛む頭を押さえながら懸命に妥協案を模索した。
真剣に考える頭の片隅で優一郎は情けない気分を味わっていた。要の機体は早急に完成させなければならない。栄子の容態も、幾ら総一郎に任せたとは言ってもやはり気になる。風の主の出方をシミュレートする必要もある。多輝の肉体を手に入れる方法も考えなければならない。そして巨大ロボットの作成の件も当然放置は出来ない。それらを全て同時進行させるのに決定的に足りないのは時間だ。
なのに僕は何をしているんだろう。心の中で呟いて優一郎はちらりと目を上げた。例えば要を気絶でもさせて、有無を言わせず用意した機体に改造してしまえば、事はとても簡単に済む。いっそのこと、絶対服従するようにシステムを変更してしまえば、たとえそんな方法で要をヒューマノイド化しても問題はないだろう。
それは判っているのだ。簡単な方法など幾らでも思いつける。優一郎は息をついて改めて要に向き直った。要は不服そうな面持ちで睨むように優一郎を見ている。
「要さん。兵装廃止したもうひとつの理由を聞いていただけますか?」
静かに告げて優一郎は乾ききった唇を舐めた。これで駄目なら他に方法はない。要には悪いが強制的に改造するしかないだろう。そう思いながら優一郎は続けた。
「要さんは、柔術、弓道、剣道についてかなりの腕前をお持ちですよね? 内蔵兵器に頼るよりも機体そのものの運動能力を極限まで上げることで対処しようと考えていたのです」
ぴくり、と要が片目を見開く。その反応はこれまでになかったものだ。いける、と優一郎は内心で呟いた。
「刀と弓。そして拳。それを武器に戦うことを想定していました」
優一郎を睨むように見ていた要の目が伏せられる。目を閉じた要は腕組みをしたまましばし黙していた。次に目を開けた時、要の顔にはそれまでの怒りはなくなっていた。口許に不敵な笑みが浮かんでいる。
「それもいいですわね! なるほど、確かにわたくしの天才的な能力を使わないのは勿体無いですわ!」
納得顔で頷きながら要は組んでいた腕を解いた。安堵のため、脱力しかけていた優一郎の手を強引にとる。優一郎は強く引かれてバランスを崩しかけた。慌てて身体を立て直す。
「さすがは吉良君ですわねっ。わたくし、感心してしまいましたわ」
言いながら要は嬉しそうに優一郎の手を上下に振った。優一郎ははあ、と力なく笑った。
「それと、要さん、今、気づいたんですけど」
「あら、なにかしら?」
それまでとは一転して明るく問われる。優一郎はにっこりと笑って頷いた。さっきまでの切迫感が少しずつ消えていく。自分の心の変化を捉えながら優一郎は続けた。
「要さんのプランを実現しようとするとその……性交機能が無くなってしまうことに」
要がかっと頬を染める。優一郎はつかまれた手で逆に要の手をやんわりと握った。慌てたように要が伏せていた目を上げる。優一郎はいつもの調子が戻ってきたことを感じていた。
服を破って飛んでいくのがいいんですよ!!(ぉぃ