エロシーンはありません。
新調したスーツに身を包んだ都子はまだ不服そうな顔をしている。少年の姿でそんな顔をすると、いつもよりずっと幼く見える。順はいいじゃん、と笑って都子の頭からつま先までを眺めた。
都子は今、男だった時の多輝の姿をしている。短い髪を不満そうに指で撫で付けてから都子は鋭く順を睨んだ。だが都子の口から文句は出てこない。どうやら観念したらしい。都子の姿にはしゃいで手を叩いた順は使用人に手を振って部屋から追い出した。
「本気ですの? お兄さま」
部屋の中央に佇んだまま、都子がそう呟く。約束の日は明日だ。順は壁の時計を見上げてから軽く頷いた。
「とーぜんじゃん。なに、オレが冗談でこんなことさせてると思ってる?」
笑いながら順は立ち上がった。すると不服そうな顔をしながらも都子が首を横に振る。だよねぇ、と頷いて順は壁に立てかけてあった姿見の前に立った。アロハシャツを着てだらしない笑みを浮かべている自分の姿をしばし見つめる。その背後に見え隠れしているのが都子だ。鏡の中の都子もやはり少年にしか見えない。
「あ、そうだ。忘れるトコだった。明日、途中まで一緒に行くからさ」
肩越しに振り向いて順はそう声をかけた。すると驚いたような呆れたような面持ちで都子が呻く。
「途中まで、ということはその後はわたくし一人で対処しろ、と」
「えー。いちお、教えたっしょ? 色々と」
社長の息子と偽るためのデータは既に都子の頭に叩き込んである。立ち居振舞いももちろん、喋り方や話の内容も教え込んだ筈だ。何の問題もない。順はどうなの、と都子を見つめた。すると都子が諦めたようにため息をつく。
「ええ、教えては頂きました。でも、化けの皮が剥がれるよりも前に、正体が割れるんではないんですの?」
相手側に優一郎がいることは都子も知っている。それ故に龍神と知れてしまうのではないかと思っているのだ。順はくすくすと笑って姿見に向き直った。軽く握ったこぶしを鏡にあてがう。
「だーいじょぶ。オレが何のために危ない橋を渡ったと思ってんの? 万事おっけーだよん」
軽薄な口調で答えて順は手に力を入れた。姿見が一気に砕ける。細かく砕けた姿見が床に散る。都子はそんな順を見てわずかに目を細めた。傷付いた手を胸に引き寄せ、順は声もなく笑っていた。
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惜しい!
1,000字に足りなかったので、ちょっと追加します。
この時点の都子は多輝の姿と声、ということになってます。
相変わらず順は軽薄、と。