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細い月が空にかかっている。風が雲を運んで少しずつ月を隠していく。窓から空を見上げていた立城は目を細めて雲の動きを追いかけた。月が現れると僅かにだけ部屋の中が明るくなる。
執務室の中央には蒼が横たわっている。全身を蔦に拘束されているのだ。立城はちらりと蒼を振り返って微かに笑った。蒼の顔には驚きや怒りはない。静かな表情だけがある。
「もう一度訊くよ。君は一体、何をしたの?」
だが蒼は何度訊いても頑として口を割らない。それも訊く前から判っていた。訊ねながら立城はゆっくりと窓から離れた。口を噤んだままの蒼に歩み寄る。床から伸びた蔦の群れが立城を避けるようにして左右に分かれる。
「いいよ? 言わない気なら僕にも考えがあるから」
そう告げながら立城は蒼の目の前に膝をついた。軽く指を鳴らす。すると蔦に一斉に棘が生えて来た。蒼が痛みに呻く。幾つもの棘に傷つけられた蒼の身体からは血が滴り落ち始めた。
「そうだね。一つずつ傷つけることにしようか。僕は別に五体満足のままでなくとも構わないしね」
にっこりと笑いながら立城は再び指を鳴らした。みしり、という嫌な音がして蒼が息を飲む。次いで蒼は声にならない声を上げた。蒼の身体に巻きついた蔦が強い力で締め付けたのだ。
蒼は恐らく、水輝を止めようとしたのだろう。歪みを取り込み、狂っていく水輝を見ていられなかったのだ。だがそれは逆に水輝の歪みを増長させる結果にしかならない。立城は冷ややかに蒼を見つめながら腰を上げた。
「そろそろ言う気になったかな? 君は何をしたの?」
床に血が広がっていく。だがそれでも蒼は頑なに口を閉ざしていた。大した忠誠心だ。もっともそれは、使われる主に向かうものでなければ意味はない。立城はため息をついて腕組みをした。
「じゃあ、言い方を変えよう。どうして僕の邪魔をするのかな?」
はたから見れば、立城の邪魔をしているのは水輝だろう。そう見えることは間違いないし、現に水輝はそのつもりで動いている。だが実際に立城の計画を滞らせたのは他でもない蒼なのだ。
人好きのする微笑みを浮かべて立城は軽く足を動かした。横たわる蒼に足を乗せる。軽く力をこめると、それだけで蒼の腕の骨が嫌な音を立てた。歯を食いしばって蒼が声を殺す。
「君は多輝だけを見ていればいいんだよ。他になど目もくれなくていいんだ。それが使い魔というものだろう?」
「……わたくしは使い魔としては失敗作ですから」
微かな声が聞こえてくる。立城は足を退けて蒼を見下ろした。口許に浮かべていた笑みを深くする。
「そういうのをね。傲慢というんだよ」
ふわりと笑って立城は指を鳴らした。蔦がうねって蒼の身体を完全に隠してしまう。やがてそれはうねりながら床に飲み込まれていった。蒼の姿も消える。やれやれと息を吐いて立城は肩を揉み解した。首を鳴らしてから振り返る。
「それで? 彼女は捕捉できないの?」
「はい。全力で探しておりますが、気配はおろか、力の片鱗すら見受けられません。恐らく、水輝様が隠していらっしゃるのではないかと」
頭を垂れながら告げたのは立城の使い魔の一人だ。ふうん、と面白くない気分で呟いてから立城は目を上げた。使い魔の女性の名は桜。かつて潰えた使い魔の変わりに作った、立城の片腕とも呼べる存在だ。
「まあ、仕方ないね。こうなった以上、探せるだけは探すしか……」
そこまで言って立城はああ、と手を打った。にっこりと笑って桜に手招きをする。桜は黙って立城の許に近づいた。傍に寄って跪く。立城はポケットから取り出したそれを桜に示してみせた。
「これと同じ性質のものを彼女は持っているんだ。これなら足跡は辿れるんじゃないかな?」
顔を上げた桜の手に立城はそれを乗せた。小さな石が窓から差し込んだ月明かりを反射する。それは水輝のピアスと同じものだった。
お仕置きというか、拷問でしょうかね!w